ボラティリティ・ターゲット戦略は株式・債券市場を一瞬で破壊する
ボラティリティ・ターゲット戦略の概要
ボラティリティ・ターゲット戦略(またはターゲット・ボラティリティ戦略)という投資戦略があります。
これは各ファンドが、株式や債券のボラティリティのターゲットを10とか15とか数字で定め、出来る限り市場におけるボラティリティが、10や15と自身が定めたターゲットから変動しないよう、適宜資産配分を行い、結果としてローリスク・ハイリターンを得ようとする投資戦略のことです。
頭の中でイメージしやすいように表現を改めると、次のようになります。
- 「市場におけるボラティリティ」と「各ファンドが定めたボラティリティ・ターゲット」という、ボラティリティに関する2種類の概念がある
- 前者は時間とともに上下動する
- つまり、前者の変化によっては、後者のターゲットと大きく乖離してしまう→どのように対処すればよい?
- 各ファンドは投資行動を通じて、前者をできるだけ後者に近づけようと操作しようとする→それが結果的にローリスク・ハイリターンにつながる
これがボラティリティ・ターゲット戦略の基本的な考えのようです。
具体的には、同戦略を取る各ファンドは、予測される市場ボラティリティの変化に応じて次のような行動をとり、ボラティリティをターゲットに近づける操作を行います。
市場におけるボラティリティが低下すると期待される場合
→レバレッジをかけて株式や債券を購入する
市場におけるボラティリティが上昇すると期待される場合
→株式や債券の売却、レバレッジの解消
こうした市場ボラティリティの操作は、結果としてファンドのリターンを高める方向に作用すると言われています。
理由は、「市場ボラティリティが低下(上昇)→株価・債券価格が上昇(下落)」という歴史的な統計的傾向があること、および「株式・債券価格の上昇(下落は)トレンドは、その後しばらく続く」という傾向があるからです。
画像ソース:LAZARD ※PDFファイル
要は、市場ボラティリティが低下すると期待される場合に株式・債券を購入することで、しばらく株価・債券価格の上昇トレンドに乗れることが期待でき、リターンにつながる、というわけです(逆も然り)。
ボラティリティ・ターゲット戦略は、大まかに次のような戦略であることがわかります。
- ボラティリティ・ターゲット戦略:ファンド--(予測)-->期待ボラティリティ--(統計的事実・傾向)-->期待リターン
よってボラティリティ・ターゲット戦略では、市場のボラティリティを予測することが、低リスク・ローリターンを維持する上で何よりも重要になります。
期待ボラティリティは期待リターンと比較して予測が簡単であると言われており、しかもリスクに対する高リターンを獲得できるとされており、これらが同戦略の人気を炊きつけているものと思われます。
【BNP PARIBAS】Why target-volatility strategies make sense
ボラティリティ・ターゲット戦略は、株式・債券市場を大パニックに陥れる
ボラティリティ・ターゲット戦略の概要を説明したところで、次は同戦略を取るファンドの実態を見ていきましょう。
IMFの報告書によると、2017年半ばごろにおける、ボラティリティ・ターゲット戦略をとるファンドの運用資産総額は8200億ドル(約92-3兆円)程度あります。
しかも現在は株式・債券のボラティリティがともに過去最低水準にあることから、理論上、同戦略を取るファンドは2倍のレバレッジを掛けていてもおかしくないようです。
もし実際に2倍のレバレッジが掛かっている場合、レバレッジ込みの投資総額は1.64兆ドル(約185兆円)にものぼることになります。政府系ファンドの運用資産額世界第2位であるGPIFを超える、凄まじい額です。
画像ソース:IMF
IMF報告書内の文章やグラフを見る限り、投資総額およそ1.64兆ドルの内訳は次のようになっているものと思われます:
- 米国株式:5000億ドル超(IMF報告書内の文章に書かれている数字)
- 米国以外の株式:5000億ドル超、米国株式よりも若干多い(グラフからわかる)
- 債券:残りの大半(6000億ドル程度?)
このうち米国株について、ボラティリティ・ターゲット戦略をとるファンドの投資総額5000億ドル超という数字は、全米国株式市場の時価総額の2.5%未満であり、そこまで株式市場に影響を与えないように見えるかもしれません。
しかし同戦略をとるファンドは、S&P500先物市場の出来高の9-16%を占めるというデータもあり、市場における存在感は大きいものと考えられます。
恐ろしいのは、ボラティリティ・ターゲット戦略は、ボラティリティの急上昇局面で慈悲もなく保有株式・債券を爆売りする行動を取ってくることです。
IMFのグラフを見ると、2015年第2四半期→第3四半期に掛けて、株式ボラティリティ(VIX指数)が20→40と一気に2倍も上昇しました。このとき、同戦略をとるファンドは保有株式を半減させています。
画像ソース:IMF
現在、株式市場も債券市場もボラティリティは過去最低水準にまで落ち込んでいますが、もし今後これらボラティリティが急上昇すれば、ボラティリティ・ターゲット戦略をとるファンドは1.64兆ドルもの投資エクスポージャーの大半を一瞬で引き揚げる可能性が無視できないのです。
実際、リーマン・ショック前後で株式・債券のボラティリティは一気に4倍も上昇しています。
画像ソース 1番目:Cboe
画像ソース 2番目:Pragmatic Capitalism
ボラティリティが2倍上昇で株式の半分を売却したのですから、株式・債券のボラティリティが同時に4倍に上昇すれば、1.64兆ドルの3/4にあたる1.23兆ドル(約139兆円)が瞬く間に金融市場から引き揚げる可能性だって、無視できません。
さらに、現在の相場はFed、ECB、日銀、中国人民銀行といった世界の中央銀行が量的金融緩和で新たに刷ったカネが投入されて形成されたものです。これら4つの中央銀行は、2008年から現在までバランスシートを約3倍にまで大きくしました。
こうして新たに生み出されたマネーが、今後の量的緩和縮小の流れで消えていくのですから(市中の債券が不足しているという物理的な事情から、日銀も本格的な緩和縮小策を取らざるを得ない)、ボラティリティ上昇に拍車を掛けることでしょう。
つまり、現在は株式や債券のボラティリティが、瞬く間に5倍、10倍にまで跳ね上がることさえ、現実的なリスクだと想定しなければならないフェーズにあるのです。
株式市場、債券市場でいつ大パニックが起こっても、不思議でもなんでもないのです。
【ボーナス】日銀による日本株買い支えの限界が露呈した
今月9日の後場から日経平均が15日まで続落し、9~15日までに日経平均は885円(3.86%)下げましたね。
これは、ボラティリティ・ターゲット戦略を取る複数の海外ファンドが、日本株のボラティリティ上昇予測に伴い日本株を売却したことが理由であると言われています。
日銀は10日、13-15日と、この間の5営業日中4営業日で729億円のETF買い入れを行いました。日銀による市場介入があったにも関わらず、日経平均は3.86%下がったのです。
今回の日本株のボラティリティ上昇は、過去に比べれば大きいものではありません。リーマン・ショック前後で記録した、日本株ボラティリティの4倍上昇と比較すれば、今回のボラティリティ上昇はちっぽけなものです。
にも関わらず、日銀はあからさまな市場介入を行い、それでも下落を止められませんでした。
国内唯一の大型日本株投資参加者である日銀による、現在の年間6兆円規模のETF買い入れでは、日本株の暴落を防ぐことは不可能であることを、見事に露呈してしまったのです。
画像ソース:日経平均プロフィル
日銀の大規模金融緩和による今後の日本株の価格上昇を期待している人達は、迅速に戦略を再検討して行動に移さないと、大変なことになるかもしれませんよ...
私が利用しているゴールド購入サービスのブリオンボールト。株価・債券価格が一瞬で暴落するリスクがあるように、金価格が短期で暴騰するポジティブ・サプライズもまた、歴史的に存在するのです。
画像ソース:Zero Hedge
米国証券口座で長期投資。DRIPという米国限定の配当再投資サービスを利用することで、資産を効率的に殖やしやすい長期運用できますよ。口座開設までに必要な一連のプロセスを、一から説明しています(株価崩壊後、安値で購入するための準備としてどうぞ)。
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