トランプの当選が市場に与える影響
2016/11/15
トランプ氏が大統領に選出されましたね。
今回はトランプが大統領に選出されたことによる市場への影響に関する個人的な見方を簡単に書いていこうと思います。
トランプが市場へ与える影響を一言でいえば「世界市場の崩壊が秒読み段階に入った」ということでしょうか。
トランプ当選後の市場の動きを見てみると、大体次のようなことが言えます。
下がったもの
- 世界の債券価格
- 世界株(米国株を除く)
- 新興国通貨(米ドルと比較して)
- 貴金属
上がったもの
- 米ドル
- 米国株
画像ソース:Zero Hedge
一番重要なのは債券市場の動きでしょう。トランプ当選後、世界中の国債価格が急落して利回りも急増しています。米国債価格も大きく下落しており、特に30年債の価格は米大統領選挙の投票締め切りの時点から6.4%以上も下がっています。
先進国の国債価格は2016年7月あたりから少しずつ上昇を続けてきました。中央銀行が低金利政策、マイナス金利政策によって世界の金利を人為的に下げているなかで国債利回りが上がって(=国債価格が下がって)きたわけですから、すでに債券市場は神経質な状況にありました。
そして今回、トランプが当選したことにより、米国を含め世界の多くの国債価格がまた一段と下がり始めたわけですから、債券市場が文字通り崩壊の危機を迎えています。
21世紀に入ってから、米国債は海外投資家を中心に購入されてきました。しかしその買い越しの勢いは年々衰えてきて、2015年以降の海外勢による買い越しは他の主体と比較してほとんどゼロの水準にまで落ち込んでしまったのです。
最も米国債を保有している海外勢が米国債を買い越さなくなった中で、上のような米国債の動きですから、いつ米国債のパニック売りが起こってもおかしくありません。そしてこの動きは他の債券にも波及するでしょう。
さらに今後はEUで政治的リスク顕在化のおそれがあります。EUでは今後度重なる選挙が控えており(先陣を切るのは12月4日のイタリア国民投票)、トランプ勝利もあってEU離脱旋風、反エスタブリッシュメント(反「1%の1%による1%のための政治」)旋風が吹き荒れていますから、今後も債券市場には逆風しかありません。
他の市場を見ても世界の株式や新興国通貨、貴金属の価格も下がっていますから、世界市場の崩壊を予感させる動きがすでに起こっています。
一方上昇しているのは米ドルと米国株です。これもやはりトランプが次期大統領に選出されたことと関係があるとみられます。
トランプは選挙期間中から、アメリカ経済を復活させることに通じる演説を述べてきましたし、政策のアウトラインをみてもそのような期待を持たせるようなものになっています。アメリカ製造業の復活、自由貿易協定であるNAFTAへの批判やTPP参加への見送り、中国やメキシコからの輸入品目に対する高関税の設定、エネルギーの輸出促進、米国独自の金融規制の導入などなど。
このような「アメリカ・ファースト」「強いアメリカ経済の復活」の期待を市場が抱いているため、米ドルや米国株が上昇したのでしょう。実は米国株もハイテク企業メインのNasdaqの価格は大きく下がっていますが、ダウ・ジョーンズといった製造業やエネルギー産業などを含むインデックスの価格が上昇していますから、このことからもトランプ旋風が米ドル、米国株の価格上昇を裏付けます。
とはいえ米ドルはまだいいとしても、米国株も近々暴落すると思っています(早ければ11月中)。その理由は米国株の価格が企業の居j者株買いによって支えられているものであり、ファンダメンタル的な裏づけがないからです。こちらの記事を参照。
よって今後は株式、債券全部売られて米ドルや日本円、スイスフランなどに逃げるかもしれませんね(トランプは製造業復活や輸出の拡大を考えていると思うので、そうなると米ドルからの退避もありそう)。
※日本円やスイスフランへの投資をすすめているわけではありません。念のため。
次の世界市場の暴落は凄まじいものになるかもしれない
おそらく近いうちに起こるであろう世界市場の暴落ですが、今回の暴落は大変大きなものになると思います。それをトランプ当選という面から考えて見ましょう。
今回のトランプの次期大統領への当選というのは、過去30年のあいだに世界を席巻してきたグローバリズムの潮流に大きな変化が生じるポテンシャルが生まれたことを意味します。
1980年代の金融の自由化によって、大口投資家が世界市場に自由にカネをばら撒くことができるようになりました。また中央銀行の低金利政策がはじまったのも個の頃で、金利低下で借入しやすい環境ができたことによりレバレッジを効かせた投機もしやすくなりました。
また企業も成長期待があり、雇用賃金も安く済む新興国でのビジネスが活発化し、多国籍企業の影響力がどんどん大きくなってきました。
こうしてゴールドマン・サックスといったウォール街企業や多国籍企業がまずは金銭面で力をつけてきて、やがて国際政治的にもウォール街や多国籍企業が大きな影響力を行使していきます。
一部の銀行家といったカネ持ちの連中たちが、各国政府機関、多国籍企業、金融機関、国際機関、中央銀行といった機関の重職のイスに座って、こうした一部のグループ内で入れ替わり立ち替わり同じイスに座り続けたのがここ最近なわけです。そりゃウォール街や多国籍企業ファーストになるのも仕方ないですよね。
こうしたウォール街、多国籍企業ファーストの世界に染め上げられたのがここ30年です。そしてこの期間は「世界市場が激しいバブルと暴落を繰り返しながら、趨勢的に価格が上昇していった期間」とも一致します。言い換えれば「投機家たちの天国」だったのがこの30年です。市場を機関投資家が席巻したのもこの頃です。
この動きに待った掛けると言っているのがトランプなわけです。彼の発言を見ていると、「投機家たちの天国」であった環境を大きく転換させる可能性があるのです。
彼は選挙期間中も献金をほとんど受けずに自前の資金で選挙活動を行ってきましたから、ウォール街や多国籍企業の言いなりにならずに政治を行いやすい境遇にあります。もちろん今後脅しによってトランプの政策がウォール街・多国籍企業寄りに変わる可能性がないとは言えませんが...
市場を席巻している機関投資家(投機家)目線でみれば、今後何が起こるかまったく不透明で予測不能であり、最悪トランプはいままで30年も続いてきた投機家天国の環境をぶっ壊すかもしれない、そう考えるはずです。
もし皆さん自身が市場を席巻している投機家の一人だったとして、上のようなことを考えていたとしましょう。手持ちの株式、債券、どうしたいですか?
その答えが、これから世界中で津波のごとく押し寄せるでしょう。
...と思ったら早速世界の債券市場がクラッシュしていますね。
金利があがれば企業による借入は難しくなりますが、アメリカの企業は借入を自社株買いに充てていたわけです。これがアメリカの株式市場を支えてきました。
ということはアメリカの株式市場ももう終わり、世界の株式市場の崩壊も時間の問題というわけです。
それだけではありません。実はアメリカの企業は自社株買いのための借入の一部をドル建てでなくユーロ建てで得ています。ユーロの債券市場で起債してドルに換えて自社株買いにあてているわけです(→ソース1、→ソース2)。ユーロ建てのアメリカ企業の社債はもちろんECBが買い取っているでしょう。
つまり債券金利の上昇は中央銀行の量的緩和政策規模の縮小に飛び火することが考えられます。量的金融緩和政策は世界の市場バブル演出の立役者でしたが、それが今後はフェードアウトしていくのです。
こうした二次効果も考えれば...世界市場の大暴落はまだまだ始まったばかりです。
資産保全のための金投資
最後に、私は本サイトで資産保全のための金投資をすすめており、私が実際に利用している金投資の始め方についての説明も行っています。よろしければこちらからご覧下さい。
金価格は米ドルの強さもあって、今後一時的に結構下落してしまうかもしれません。ただ今後世界的なデフレ、中央銀行政策のツケ、膨大な債務残高、政治リスク(特に米国とEUの動向)など、リーマン・ショック直後と比較にならないほど深刻な状況が待っているでしょう。
こうした将来を想定して、本サイトでは有事の際の金投資として、ゴールドを多少なりとも持っておくと皆さんが少しでも安心できると思いすすめてきました。
また上でトランプの当選は過去30年の世界の潮流を一変させるポテンシャルがあると述べましたが、実はこの30年というのは金価格の上昇が抑えられてきた期間でもあります(21世紀に入ってからは金価格は上昇しましたが、現在までに中央銀行がばら撒いてきたカネの量と比較するとまだまだ金価格の上昇は足りないでしょう。参照)
こうした面からも、金投資は中・長期的にポジティブな効果をもたらすと考えています。
ゴールドは米ドルといった通貨と反対の動きをする傾向があります。よって通貨価値が今後大きく下がればゴールド価格の上昇が期待できますし、ゴールドの価格が下がってもそれは通貨価値が保たれていることを意味します。
つまりゴールドを多少保有しておけば、将来どのように世界が動いても、一瞬で皆さんの生活が苦慮を強いられるというリスクを防いだり、被害を抑えることにつながるのです。
将来への保険として一部の資産をゴールドに換えておくと、今後何が起こっても安心ではないかと思いますよ(私はもう予定分のゴールド購入は完了しました。あとは皆さんの番です)。
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