有事の金
2019/03/12
今回はゴールドについてです。
昨年まではゴールドに関する記事は「金のメルマガ」という別のメルマガで扱っていましたが、「金のメルマガ」の終了に伴い、ゴールドについても「アボマガ」で扱うことにしました。
今回は「金のメルマガ」を終了してから初めてのゴールドに関する記事となります。
昨年、ドル建てゴールドは前年比2.1%のマイナスリターンでしたが、昨年8月を底に金価格は今年2月半ばまで上昇を続けてきました。ここ最近は金価格が下がっていますが、この時期は金価格が下がりやすい時期です。秋から2月までの金需要増加期が終わり季節的に金需要が下がりやすい時期に入るためだと思われます。
今回は主に昨年の金需要についてです。なかなか興味深かったので分析してみました。
の記事(一部)です。2019/03/05に配信したものです。
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問題提起:昨年、金需要が供給以上に伸びたのに、何故金価格のリターンはマイナスだった?
World Gold Councilが2018年の金現物需給に関するレポートを1月末に発表しました。この中身をみて、金需給の動向を見ていきましょう。
金需給面では、供給よりも需要が多く伸びたのです。
これは意外な結果だと思いませんか?何故なら、18年はドル建て金価格は前年比2.1%下がったのですから。
この疑問はとりあえず脇に置いておいて、金需要について詳しくみていくことにします。
金需要をめぐる、中央銀行と投資家の綱引き争いが勃発?
18年の金需要は前年比4%増えました。興味深いのはその内訳です。
昨年は、世界の中央銀行の金準備需要の拡大が、トータルの金需要の伸びの最大の要因でした。
昨年、トータルの金需要は前年比185.2トン増えましたが、そのうち中央銀行の金需要の伸びはなんと276.7トンでした。中央銀行の金需要の伸びは、トータルの金需要の伸びの149%でした。
昨年の金需要の伸びは、ひとえに中央銀行によるものだったのです。
それだけではありません。昨年の中央銀行の金需要は651.5トンでしたが、この数字は年間の中央銀行の金需要としては2番目に大きいものでした。
ドル金本位制の崩壊をもたらしたニクソン・ショックが起こった1971年以降では、最大です。2013年の記録を更新しました。
えぇ、昨年の中央銀行の金購入は文字通り「歴史的」だったのです。
一方、金ETFなどの金関連金融商品の需要は前年比137.5トンのマイナスでした。米国の投資家が金ETFを売却したためです。
昨年の金需要は全体でみるとそこまで印象は大きくありませんが、その内訳は「中央銀行の爆買い」「投資家の爆売り」で構成されており、かなり極端で印象深いものだったのです。
「金需要をめぐる、中央銀行と投資家の綱引き争い」が起こったのが2018年というわけです。
画像ソース: World Gold Council
「金需要をめぐる、中央銀行と投資家の綱引き争い」の今後を見るために、それぞれの内訳をもう少し掘り下げてみましょう。
ユーラシアで金回帰の流れが出てきた?
(省略)
米国投資家・投機家が金価格を引き下げてきたが...
一方で、金需要の伸びの最大の下げ要因が金ETFでした。
勘違いしてはいけないのは、金ETFも流入超だったことです。昨年、金ETFには68.9トンのゴールドが流入しました。しかし2017年の206.4トンの流入に比べれば、2/3ほども減少してしまいました。
18年、金ETFは北米市場で一時的に売り浴びせられました。米中貿易摩擦が過熱し始めた昨年5月から9月にかけて、北米市場で投資家が購入した金ETF(特にSPDRゴールドシェア)が売り越され続け、150トン近くのゴールドが売り越されました。
しかし昨年10月に入ってからは欧米の金投資家による金ETFへの資金流入の流れが復活しました。ちょうど、世界経済の成長減速懸念が紙面をにぎわせはじめ、米国株式市場や(米国債除く)債券市場で価格が下落し始めたタイミングに一致しています。
昨年12月、12月としては世界恐慌以来の米国株の下落率を記録したときには欧米の金ETFへ大きく資金が流入してきたことが、上図からわかります。
そのおかげで、昨年通年で見れば、米国での金ETFからの流出は13.4トンにとどまりました。
個人的には、米国投資家が昨年金ETFを売り越した事実よりも、昨年10-12月の米国株下落期間(特に月間で世界恐慌以来の下落率を記録した12月)に金ETFに逃げ道を求めた動きの方が興味深いです。
欧米投資家の頭のなかに「株式のリスクヘッジとしてのゴールド」という考えが出てきたのかもしれません。
今年に入り米国株は上昇してきましたが、もし再び米国株が大きく下げる局面が来たら、彼らの頭には昨年10-12月のイメージがすぐに甦るかもしれません
新興国中央銀行と欧米投資家のゴールドに対する考えの共通点
先ほど、中央銀行の金需要拡大と欧米投資家の金需要の縮小を「金需要をめぐる、中央銀行と投資家の綱引き争い」と表現しました。
しかし欧米投資家の昨年の金ETFの売買動向を見る限り、「金需要をめぐる、中央銀行と投資家の綱引き争い」は、米国株が上昇を続けていたからこそ起こってきたのではないでしょうか。
新興国の中央銀行の金購入の動きの背景には、今後世界経済やバブルが後退局面に入っても、米国の政策や投資家・投機家の動きに翻弄されて自国の崩壊を招くことを何としても防ぎたい気持ちがあることは間違いありません。
他方、欧米投資家は米国株の上昇期は金ETFを売りましたが、米国株が下落してバブル崩壊の始まりをも思わせる動きをしたとき、金ETFを一気に購入したわけです。
新興国も欧米投資家も、「有事の金」という考えで、実は一致しているのではないでしょうか。
提起した問題への回答
最初に掲げた疑問点に立ち返りましょう。
なぜ、昨年は「金需要の伸び>金供給の伸び」だったにも関わらず、ドル建て金価格は前年比マイナスとなったのか?
答えを言いましょう。「そもそもドル建てだけで見るのが間違い」だったのです。
各国の通貨建てで金価格を見たらどうでしょうか?
予想通り、「軒並み金価格が上昇」しました。
中国人民元、ロシアルーブル、インドルピー、イランリアル、トルコリラ、インドネシアルピア、さらにはEUユーロ。昨年米ドルと比較して通貨安となり、金需要の伸ばしたり元々世界的に高い金需要を誇る国々の通貨建てでみると、伸び率はまちまちながらも、どこも金価格は昨年上昇したのです!
つまり、昨年は「金需要の伸び>金供給の伸び」により、金価格が上昇したのです。
米国投資家・投機家のゴールド売りを経験しながらも、新興国建て金価格はプラスのリターンでした。
ただ単に、ドル建て金価格がフェイクニュースであっただけのです。
画像ソース: GoldBroker
金価格に比べて伸び悩む金鉱株
(省略)
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