ESG投資:社会問題を相場吊り上げに利用する
2018/10/04
リーマンショックから10年が経ち、先進国中央銀行の量的金融緩和でこれまで支えられてきた世界の金融市場も、新興国という経済規模が小さいところから変調を来たしつつあります。欧州の株式相場も下がり気味です。
米国・日本株バブルはなかなかくたばりませんが、現在から2023年にかけて米国企業の発行済み社債の半分近くにのぼる3兆ドルが満期を迎え、借り換えを迫られます。2020年まででも1.3兆ドルの社債が満期を迎えます。
投資適格債券、およびハイ・イールド債券(ジャンク債)の利回りも2009年以来はじめて前年比上昇となっており、米国債券市場の動きも怪しくなっています。
ゆっくりですが確実に、世界的なバブル崩壊に向かっているものと思われます。
画像ソース: Zero Hedge
現在の相場が崩壊すればまた新たな相場が生まれますが、次の相場のトレンドとなりそうなのが「ESG投資」です。
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ESG投資:社会問題を相場吊り上げに利用する
ESG投資とは、投資リターンを追求しながらも、社会的なリターンも同時に追求する投資のことです。サステイナブル投資とも言われます(サステイナブルとは「持続可能な」という意味です)。
ESG投資の「E」は環境、「S」は社会的課題、「G」は(企業)ガバナンスのことです。自然環境、貧困、労働環境といった課題解決に積極的に取り組む企業に投資しよう、というものです。
勘違いしてはいけないのは、ESG投資の最大の目的はあくまでも投資リターン、金銭的リターンの追求です。
ESG投資という概念の根底には、ESG評価が高まれば企業の社会的評価が高まるだけでなく、企業全体の評価につながり、株価もいっしょに上昇するだろう、という考えがあります。
これまでのように企業の財務面や市場競争面だけでなく、ESG面も企業評価に加えて株価に反映するようにしよう、というアイデアです。
またESG投資を推進する機関投資家も、受託者責任という法的責任を背負っており、リスクに配慮しながらも運用資産を預ける顧客の金銭的リターンを追求することが義務付けられています。社会的リターンが高ければ金銭的リターンはないがしろにしてもよい、という考えは通用しません。
結局、ESG投資は「ESGをてこにした、含み益やキャピタルゲイン目的の投資」となります。そこはお忘れなく。
ESG投資という言葉が出てきたのは比較的最近ですが、それ以前は「社会的責任投資(SRI)」という、もっと包括的な用語が使われていました。
社会的責任投資とは、株主が経営陣に対し企業の社会的責任に配慮した持続可能な経営を求めていく投資のことです。
社会的責任投資は、1920年代に米国でキリスト教的倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業へは投資しないという社会的風潮が高まったことから生まれたと言われています。
1960-70年代にはベトナム戦争や南アフリカのアパルトヘイト、80年代には環境、女性、マイノリティー、人権、雇用といった問題が、90年代にはオゾン層破壊や地球温暖化といった地球規模の環境問題が国際的な問題となりました。
【Wikipedia】社会的責任投資
このときも問題を生む企業には投資しない、問題解決に取り組む高評価の企業を集めた投資商品の販売を開始するなど、社会的責任投資という考えは根強く続いてきました。
大きな転機となったのが、2006年に国連が責任投資原則(UNPRI)を策定したことです。これは世界の機関投資家や投資サービス提供者に対し、企業がESG課題に取り組んだり、投資業界がESG課題に取り組む企業を評価するよう促すことを求める原則のことです。
1980年代終わりごろから国連が地球環境問題への関わりを本格化していき、当時のアナン事務総長体制下で入念に計画され、2006年の策定となりました。
要は「国連という無国籍機関が、ESGという社会的概念を投資やビジネスの世界に介入的にぶち込んできた」のです。これが欧米でのESG投資拡大のきっかけとなりました。
その後2008年にリーマンショックが起こり、「二度とこのような金融危機は起こさない」との考えのもと、米国、OECD、G20、バーゼル委員会が企業ガバナンスの見直しを相次いで進めてきました。
目先の業績向上や、株価吊り上げによるストックオプションからの報酬アップを目指す企業経営者の「短期志向」を是正することと、機関投資家の株主としての企業への権限を高めることが大きな柱のようです。
また同じくリーマンショック後から、資本の概念を従来の現金や株式、物的資本、人的資本などから、社会的資本や自然資本にまで拡張する考え方が世界的に広まってきました。
これらの世界的な動きが持続可能性やESGという概念の浸透を後押ししていきました。欧米の機関投資家も権限強化の見返りに、ESG投資額を増やし続けてきました。
ESG投資という概念は、元をたどれば100年近く続いてきた流れの中で生まれ、地に足つけてゆっくりと確実に広まり、世界的な力をつけてきたのです。フェビアン協会の理念を実行に移したかのようです。
先進国中心に世界的に社会保障が普及した大きなきっかけも、社会保障という考え方が広まった19世紀半ば頃から100年程度経った1942年のベヴァリッジ報告書と第二次世界大戦の終戦です。
フェビアン協会の理念や社会保障の歴史と比較すれば、ESG投資は今後世界的に拡がる可能性が高いと思いませんか?
ESG投資が世界的な潮流になると考えるのは、100年近くの歴史があるだけではありません。ESG投資が拡がることで関連組織に大きなメリットをもたらすことが考えられるためです。
国連は、ESG投資の拡がりで環境問題、貧困問題、男女平等、労働問題といった環境・社会分野でますます権限を拡大できます。
世界中の企業や従業員、さらには(企業マーケティングを通じて)消費者に国連が考える理想的な社会像、地球像をステルス的に押し付けやすくなりますし、取り組みに消極的な企業を「機関投資家による売り→株価暴落」という形で罰を与えることができますから。
機関投資家(年金基金、信託銀行など)やESG評価機関(トムソンロイター、MSCIなど)は、ESG投資が拡がればビジネスチャンスが拡がります。
今後少子高齢化の進展もあり、先進国で昔のような経済成長や株価上昇が望めない懸念が残るなかで、社会的価値が企業価値に反映されれば、世界的に株価を再び吊り上げることができるかもしれません。
そうなれば、環境とか貧困といったワードに感化された情報弱者の金持ちたちから運用資産を集め、ますます儲けることが可能になるかもしれません。
社会保障費で悩む政府からすれば、公的年金をESG投資で運用できれば社会保障費の抑制につながりますし、仮に運用に失敗しても環境、貧困、格差といった社会的問題の解決という大義を盾に責任回避しやすくなります。
こうして権力者の視点で考えれば、ESG投資、広まりそうですよね。
2016年時点で、社会的責任投資(ESG投資)運用資産は22.9兆ドルもあります。年間10%以上で成長しています。欧米が中心です。
画像ソース: Global Sustainable Investment Alliance
今後、ESG評価のための企業のディスクロージャが進み、ESG評価手法の標準化が進めば、ESG投資は本格的なブームを迎えることでしょう。
ESG投資ブーム、だから「タバコ」銘柄
MSCIやFTSEラッセル、S&Pダウジョーンズという株価指数算出企業が開発しているESGインデックスの評価基準を見ると、どれも「アルコール、タバコ、ギャンブル、兵器」といった社会的イメージの悪い企業を低評価にする方針です。
そりゃそうですよね。アルコール、タバコ、ギャンブル、兵器産業は社会的イメージが悪く、社会的課題を解決するどころか社会的問題を生みかねない企業ですから。ESG評価が低くなって当然です。
私はここに投資チャンスがあると思っています。
ESG投資が機関投資家を中心に流行ってくれることで、長期投資対象として今後おもしろくなると思えるのが、タバコ銘柄です。
・・・
タバコの社会的にダメなイメージや、あまりにビジネスが堅固すぎて投資対象として面白みがないこともあり、タバコ銘柄は業績や周りの株式バブルの勢いが株価にあまり大きく反映されません(万年割安というわけではありませんが)。
さらにタバコ業界は社会的イメージの悪さ、各国の規制の厳しさや法的リスクもあり、参入障壁が高い業界でもあります。競争にさらされにくいわけです。
・・・
配当利回りの高い大手のタバコ企業に投資して配当再投資をし続ければ、リスクを減らしながら10年、20年で資産価値や受取配当金をラクに殖やしやすいのです。
・・・
実は・・・は1925-2012年の期間でも、配当再投資込みでのトータルリターンがトップの銘柄です。
1920年代と言えば、米国でキリスト教的倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業へは投資しないという風潮が強まった年代でした。
タバコ投資への厳しい風潮に流されず、・・・に長期投資した冷静な人々は、子孫に多大な資産を残していったのです。めでたしめでたし。
現在は、100年近く前と似たような状況となっています。チャンス到来かもしれません。
米国証券口座で長期投資。日本よりも圧倒的に安い手数料で世界中の株式に投資できます。最近、Firstradeの取引手数料が完全無料となりました。
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