リーマン・ショックから始まった金融市場の「真の終わり」の規模
2018/03/24
次の世界金融危機の規模は、リーマン・ショックの5倍で済めば「ラッキー」だと思いましょう
「数千兆」「京」の世界へようこそ
多くの人は、リーマン・ショックの何倍もの世界金融ショックが起こること自体考えられない、想像がつかない、あり得ないと思うかもしれません。
大切なのは、事実や数字に基づいて思考することです。決して妄想や希望といった脆く儚い「フェイク情報」に基づいた感情論で判断すべきではありません。
数字を見てみましょう。まずは世界の負債総額から。以下、為替レートはすべて現在のレートを使っています。
[G20諸国の負債総額]
2007年: 約80兆ドル(約8385兆円)
2016年: 約135兆ドル(約1京4000兆円)→GDPの2.35倍
この10年近くのあいだに負債総額を大きく増額したのは、オバマ(米国)と中国です。以下は2006-16年の10年間における、米国と中国の負債増加額です。
[政府債務]
米国: 11.1兆ドル(1163兆円)
中国: 3.9兆ドル(409兆円)
[社債]
米国: 4.5兆ドル(472兆円)
中国: 14.4兆ドル(1509兆円)
[家計ローン]
米国: 1.5兆ドル(157兆円)
中国: 4.4兆ドル(461兆円)
[合計]
米国: 17.1兆ドル(1792兆円)
中国: 22.7兆ドル(2379兆円)
計 : 39.8兆ドル(4172兆円)
画像ソース:IMF
10年で米中は4172兆円の債務を増やしました。年間平均417.2兆円のペースで、これは日本の公的年金(GPIF)の2017年末の運用資産の約2.6倍の負債を米中両国が毎年積み上げてきたことを意味します。
米中貿易戦争が勃発しましたね。また米中が足並みを揃えて利上げしましたね。借金の返済に大きな影響を与える金利や為替を、米中両国はますます刺激しようとしているわけです。
続いて負債のうち、投資適格債券市場の規模を示す数字です。世界の情勢に敏感に反応してグローバルスケールの資金流出入が起こりやすい市場についての数字をみていく、というわけです。
[投資適格債券市場規模]
2007年: 19.5兆ドル(2044兆円)→同年の世界のGDPの約33.7%
2017年: 45.7兆ドル(4790兆円)→同年の世界のGDPの約57.5%
投資適格債券市場規模は10年間で2.3倍以上に増え、世界のGDPの半分以上の規模になってしまいました。
先ほどの負債総額の話から、投資適格債券市場の増加は米国債と中国の社債の増加によるものがかなり大きいことが伺えます。
重要なのは投資適格債券の市場規模だけではありません。これら債券の利回りが異様に低いのです。
2007年は2044兆円のうち、利回りが4%未満の債券は388兆円に過ぎませんでした。国債を除くほぼすべての債券は利回り4%以上であり、それだけ債券発行者は手軽に債券を発行できなかったわけです。
しかし2017年は10年前と真逆であり、ほぼすべての債券利回りが4%未満です。4790兆円のうちほぼすべて(4602兆円、全体の96%)が利回り4%未満であり、その多くは2%台以下で発行されてきました。それだけ債券発行のハードルが下がったことを示唆するのです。
画像ソース:IMF
実際、投資適格証券ではないですが、同じように利回りが2017年末まで減少を続けてきたハイ・イールド債券市場では、規制当局への登録義務がなく、投資家保護条項のない「144A for life」証券という「闇証券」が、リーマン・ショック以降からハイ・イールド債券市場を席巻してきました。
画像ソース:Loomis Sayles
またハイ・イールド債券よりもわずかにリスクの低いローンである「コベナンツ融資」(投資家保護条項の緩い融資)もまた、リーマン・ショック以降に急増してきました。
画像ソース:LeveragedLoan.com
画像ソース:LeveragedLoan.com
それだけ、リーマン・ショック以降から現在にかけて、財務状況の悪い企業でも簡単にお金を借りることができたのです。
さらにリーマン・ショック以降は投資銀行や証券会社といったディーラーが、債券市場の取引円滑化に不可欠な債券在庫を大きく減らしてきました。債券市場に売りが殺到すれば、たちまち誰も買い手がつかなくなる危機的状況が簡単に生まれてしまうのです。
投資適格債券市場は10年間で2.3倍増え4790兆円に達したという量だけではありません。投資適格債券や債券市場の質も、10年前と比べてかなり悪化しているとみなければならないのです。
リーマン・ショック(AIGショック)のときは米国政府は税金を使って破綻寸前の金融機関を救済出来ましたが、その頃よりもGDPに占める政府債務の割合が1.56倍増加し、今後も社会保障費の捻出のために借金を続けなければならない米国政府に、もはや税金を使って金融機関を救済する力はありません。
つまり現在の債券市場は、リーマン・ショック直前と比べて5-10倍は酷いと考えなければならないのです。それだけ、次の金融危機が起こったときの被害はとんでもないことになるでしょう。
債券市場の主役である米国と中国が、貿易戦争や利上げといった金融市場を大きく揺らしうる政策の主役でもあるのです。リーマン・ショック直前より5-10倍は酷い債券市場が、国際情勢の震源地に乗っかっているのです。
これだけでもリーマン・ショックが可愛く見えてきますが、話はこれで終わりません。
リーマン・ショック以降に本格化した、中国のシャドーバンキング(複雑なプロセスを経て最終的にゾンビ企業や過剰な不動産投資に莫大なカネが流れていく闇金融システム)の数字も見なければなりません。
[中国のシャドーバンキング市場規模]
2016年: 40.8兆元(677兆円)-57.3兆元(951兆円)程度
2016年の中国GDPの54.8%-77.1%程度
2017年の日本GDPの124%-175%程度
画像ソース:BIS
677兆円-951兆円という、日本のGDPを大きく上回る莫大なお金が、崩壊の規模が未知数の中国闇金融システムに流れているのです。
世界の投資適格債券、米国ハイ・イールド債券、米国コベナンツ融資、中国のシャドーバンキング市場の総額は、重複分を除いても少なくとも5000-5500兆円程度はあると考えられます。リーマン・ショック直前の2倍を軽く上回ります。
ハイ・イールド債券、コベナンツ融資、シャドーバンキングが危険なのはもちろんのこと、投資適格債券にも相当数の危険な債券が紛れ込んでいると考えなければなりません。
次の金融危機が起これば、まさに「世界核戦争」のごとく、地球のあちこちで金融ショックという「核爆弾」が落とされていくことでしょう。グローバル金融システムを通じて世界中の借り手を貸し手がつながっているのですから。
次の金融危機が起きたとき、その被害の大きさがリーマン・ショックの5倍程度で済めば「ラッキー」だと思うべきではないでしょうか。
米中の貿易戦争が始まりました。世界的な金融引き締めの流れも続いていきます。市場は世界の異常事態に段々と気づき始めています。「中国や日本による保有米国債の売却が市場に波乱を起こす可能性」についても公然と語られるようになりました。
今後相次いで出てくる報道により、少しずつ多くの人々がグローバルスケールの過渡現象を認識し始め、「有利なポジションという着席数が有限の空席」が少しずつ速度をつけながら埋まりはじめ、満席に向かっていくでしょう。
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