経済V字回復は厳しいが、金価格はV字回復

投資ブログへのリンク

経済V字回復は厳しいが、金価格はV字回復

2020/04/14

 

 今回は最近値上がり傾向の株式市場の今後について、経済とCOVID-19の観点から分析していきます。

 

 記事後半は貴金属市場の今後についての分析です。

 

[アボマガお試し版 No.117]願望は最大の敵の記事(一部)です。2020/04/14に配信したものです。

 

 

相次ぐ好材料に恵まれたが...

 先週の株式市場は好調でした。

 

 米国株は12%以上値上がりし、1974年以来の最高の週次パフォーマンスとなりました。日本株、欧州株、中国除く新興国株も大きく値上がりしました。

 

 先週は以下の要因が株価の大きな値上がりに貢献しました。

 

  • 欧州でのCOVID-19の拡大に収束の兆しが見え始めた
  • ニューヨークでCOVID-19による入院者の増加ペースが安定化の兆しを見せ始めた
  • 武漢の封鎖が2ヵ月半ぶりに解除された
  • 米民主党大統領候補で急進左派のサンダース氏が大統領選撤退を発表した
  • Fedが2.3兆ドル規模の新たな緊急経済支援策を発表した

 

 特に重要なのは、欧米でのCOVID-19の拡大が着実に収束に向かっているように見えることです。

 

 下図は世界各国のCOVID-19の毎日の新規感染者数の推移を表したグラフです。

 

 イタリア、スペイン、フランス、ドイツと多くの欧州各国の新規感染者数の伸びは減少トレンドに入っており、英国と米国もピーク付近にあります。

 

 

 もう一つ、下図は世界各国のCOVID-19の毎日の新規死亡者数の推移を示したグラフです。

 

 死亡者数の伸びは感染者数の伸びよりも衰えがやや弱いものの、イタリアとスペインの新たな死亡者数は減少し始めており、ドイツとフランスでもまもなくピークアウトしていきそうです。

 

 一方で米国と英国の新たな死亡者数はまだまだ日ごとに伸びていますが、英国はあと一週間程度でピーク付近に達し、その後徐々に毎日の死亡者数は減少していきそうです。

 

 米国はまだまだ死亡者数の増加ペースが大きく、減少トレンドに入るまでに2週間程度掛かるかもしれません。

 

 

 全体的に、欧米の感染者数・死亡者数ともに今後は減少トレンドが本格化していきそうです。

 

 先進国のCOVID-19の拡大に収束の兆しが見え始めたことに加え、サンダース氏の撤退とFedの大規模金融政策の発表は、相当大きな株高の下支えになると考えるのは自然です。

 

 しかし年初来の株価チャートを見てみると、株価の戻りはどの国でも不十分です。

 

 早期にCOVID-19の拡大が収束したために先週株価があまり伸びなかった中国株も含め、年初来リターンはどこも大きなマイナスです。

 

 

 株価の戻りが鈍いのは、市場の焦点が「COVID-19の拡大ペースの鈍化」から、「世界経済がいつ、どのような形で回復するか」に移っており、後者について見方が定まらず不透明なためです。

 

V字回復という願望の極み

 現在、大半のエコノミストたちの考える米国経済回復シナリオは、V字回復とU字回復のいずれかとなっています。

 

 V字型の回復は、今年第二四半期に米国経済が底打ちし、今年後半以降に経済が急激な回復していくという、最も楽観的なシナリオです。

 

 U字型は、数四半期のあいだ米国経済の低迷が続き、今年第四四半期~来年前半ごろに景気が大きく回復していくというシナリオで、V字型の次に楽観的なシナリオです。

 

 米国経済がV字回復するとの見方の根拠は以下の通りです。

 

  • コロナ禍が過ぎれば、外食・旅行等の再開により、個人消費は早期に回復する
  • 2.2兆ドルの政府支援策は経済の早期回復につながる

 

 米国経済がV字回復を果たすためには、米国GDPの7割を占める個人消費が早期に力強く回復することが絶対条件です。

 

 しかし、ここ3週間で米国の新規失業保険申請件数は1600万件を超えました。

 

 失業保険と米国政府からの一人当たり最大1200ドルの給付により、米国民は生活に必要な最低限の収入は得られそうです。

 

 しかしCOVID-19の拡大と一時解雇がいつまで続くのかわからないという不安が米国民の心に付きまとい続けます。

 

 米国人の約7割は貯蓄性口座に1000ドル未満の預金しかありません。米国人の多くはその日暮らしを生活を強いられています。

 

 

 さらに米国民のなかには住宅ローン、自動車ローン、消費者ローン、学生ローン等の利払いが必要な人々もいます。

 

 先月からのFedの金融政策で、住宅ローン担保証券の買い取りや、家計ローンで担保された資産担保証券の保有者への融資を行い始めました。

 

 しかしこれらの政策で家計の利払いが減るわけではなく、資産担保証券の価格の暴落で金融危機が生じることを防ぐ効果しかありません。

 

 過去最高のおよそ14兆ドルの家計ローン残高からの利払い負担が、米国民の消費意欲をそぎ落とし続けます。

 

 

 戦後、米国のいずれの景気後退期でも、失業率の増加は少なくとも1-2年続きました。

 

 今回は世界大恐慌並みの景気後退が訪れることはほぼ確実ですから、失業率が少なくとも1-2年伸び続け、その間個人消費が冷え込み続ける可能性は高いです。

 

 これらを考えれば、GDPの7割を占める米国の個人消費が今年後半に大きく回復する可能性はほぼゼロであり、米国経済がV字回復を果たすというシナリオの顕在化は非現実的と言わざるを得ません。

 

金価格は早急にV字回復

 3月17日に配信した[アボマガ No.113]で、久しぶりに金・銀・金鉱株について取り扱いました。

 

 アボマガ・エッセンシャルご登録者には、当時いずれも価格が大きく下がっており、特に金鉱株と銀は金価格と比べても下げが大きすぎるので購入を推奨しました。

 

 金についても1トロイオンス1500ドルを下回ったタイミングでの購入は悪くないとお話ししました。

 


(引用開始)

 

下図は年初来から先週末までの米国株、金(GLD)、銀(SLV)、金鉱株(GDX)の価格推移です。ゴールドは今回のコロナショックの影響をほとんど受けず、ポートフォリオのリスク低減効果が大きく現れました。

 

銀は米国株とほぼ同じ下落率、金鉱株は米国株以上に下がってしまい、今回ポートフォリオのリスク低減効果がありませんでした。

 

(※昨日、金鉱株が反発し、金鉱株の年初来リターンはS&P500を少し上回りました)

 

 

過去1年間のチャートをみると、それまで金価格に沿いながら米国株をアウトパフォームしてきた金鉱株が今回のコロナショックで大暴落し、最も悪いリターンとなりました。

 

(※昨日の反発で、金鉱株は米国株を上回り過去1年間でプラスリターンに復活しました)

 

金価格と比較して、金鉱株は明らかに下げすぎです。

 

 

銀価格も暴落し、2009年来の低水準となりました。こちらも金価格と比べて下げすぎです。

 

 

先週、金価格も年初来最安値に近い水準にまで急落しましたが、株式や債券の暴落で信用取引における追証を求められた投資家たちの投げ売りが原因と思われます。実際、金ETFが大きく売られました

 

金鉱株と銀の暴落の理由は不明ですが、こちらも投げ売りの可能性があります。

 

根底にはCOVID-19拡大への不安がありますから、不安が解消されていけば金、銀、金鉱株の価格も回復するでしょう。

 

今後の短期的な金価格下落リスクを考慮しても、金価格に連動する傾向のある金鉱株と銀は下げすぎであり、金鉱株ETFであるGDX、銀地金、銀ETFのSLVなどを買い増すチャンスに見えます。

 

ゴールドも1トロイオンス1500ドルを久しぶりに下回りそうですから、保有割合を増やしたい方はそろそろ買い増しても良いかもしれません。

 

(引用終わり)


 

 下図は3月16日を基準にした、4月10日までの価格推移です。金価格と比べて値下がりが大きかった金鉱株と銀のリターンは、それぞれ28.7%と19.5%で、米国株をアウトパフォーマンスしました。

 

 金価格の伸びは米国株よりも小さいものでしたが、これは3月16日までの金の下落率が比較的小さかったためです。

 

 

 とはいえ、金についてもちょうど配信した週にのみ、金価格がうまく1トロイオンス1500ドルを下回ってくれ、翌週に反発しました。現在は再び1トロイオンス1700ドルを突破し年初来最高値の水準です。

 

 年初から金価格が値上がりしてなかなか買いタイミングが来ず、しばらく金関連の記事を書くことができませんでしたが、3月17日の配信で、数少ないゴールドの買い場を運よくお伝え出来てよかったです。

 

 

アボマガリンク


アボマガ・エッセンシャル(有料)の登録フォームこちら


アボマガお試し版(無料)の登録フォーム


このエントリーをはてなブックマークに追加   
 

関連ページ

ハイパーインフレ、基軸通貨の崩壊が株式に与える影響
COVID-19ワクチンの早期普及と量的緩和の拡大・拡充を期待する強欲な市場
「ピークオイル」は需要減ではなく老朽化・投資不足による供給減を指すことになる
市場は「Going To トラブル」?
機会を掴むには準備が肝心
「世界大恐慌×株高」というシナリオ
相場の終焉間際:コロナ禍で暇を持て余した素人投機家が市場に参入
米上場廃止?中国株ADRの行方
経済V字回復は厳しいが、金価格はV字回復
超高配当利回りとなった石油メジャー株
株価暴落時に守るべきたった一つのルール
COVID-19が石油需給に与える影響を考える
2020年、ドットコムバブル崩壊前後との類似点
アボマガで紹介した2銘柄のレビュー
アボマガで紹介している銘柄
「長期配当再投資+貴金属投資のハイブリッド戦略」
何故、金強気相場はこれから本気出すのか:マイナス金利、為替ヘッジ
ターニング・ポイント
ホルムズ海峡封鎖?短期的なエネルギー価格見通し
2019年、来るか、金融ショック
バブル崩壊は自分で気づく必要があるもの・輝きを増すゴールド
鮮明さ増す高インフレの流れ
有事の金
低リスク高リターンが見込める石油銘柄
見えない爆弾だらけの原油市場。目先にとらわれてはならぬ
備えあれば憂いなし
アルゴリズム取引の本格的な暴走までそう遠くはない?
中期的安定性の高い石油銘柄
原油価格は本当に、気分屋で困りますね(笑)
金価格は底打ち反転?不透明な将来への保険としてのゴールドの価値は増すばかり
ピーポじゃないよ!ヴィーヴォだよ!_2
ピーポじゃないよ!ヴィーヴォだよ!
割安なタバコ銘柄を探す
ESG投資:社会問題を相場吊り上げに利用する
日銀量的金融緩和はすでに瀕死、その先に待ち受ける「超円安」
「超円高」に期待しすぎてはいけない
消えかかるドル高材料、近づく金購入「ラストチャンス」
悪材料まみれになってきたテンセント_2
悪材料まみれになってきたテンセント_1
知ると知らずで大違い、配当再投資の隠れた特徴
配当再投資:雪だるま式に資産を殖やし残りの人生を謳歌する投資手法
人民元がゴールドにペッグしている??
「金価格の歴史的上昇トレンド」が新興国から始まる
米中貿易戦争勃発で米国株も怪しくなってきた。笑うのはロシア?
SECメンバーが「米国株式相場のクラッシュ」を厭わない規制導入を提唱した
米国政府の税収の1/4、1/3が利払いで消える日
金価格の伸び悩みはレパトリ減税の影響?
[2018/05/23]フラッシュクラッシュ時代、逆指値売り注文は自殺行為
[2018/05/16]新興国市場に赤信号点灯、世界金融危機の幕開け?
[2018/04/24]トランプが税制改革法案に埋め込んだ「マルウェア」
[2018/04/02]米国の自国優先主義は海外の金持ちを惹きつける
[2018/03/31]トランプは円安ドル高を許さない
[2018/03/24]リーマン・ショックから始まった金融市場の「真の終わり」の規模
[2018/03/17]新時代に向けて世界構造の破壊に本格的に着手し始めた米中
[2018/03/07]トランプの鉄鋼・アルミニウム輸入関税の真のターゲットはどこだ!?
[2018/02/28]物流、トランプ、中東、日銀...物価上昇・通貨減価懸念材料ズラリ
[2018/02/07]2018年2月5日-6日、世界同時株安だと?
[2018/02/03]144A for life -米国ハイイールド債市場を席巻する破滅的闇証券-
[2018/02/01]金利上昇が止まらないー草
[2018/01/24]米国経済が良くなると米国株相場はダメになる
[2018/01/10]配当再投資のリスク低減効果:私のポートフォリオの結果を材料に
[2017/12/29]2018年に向けて、金市場の動向をみる
[2017/12/06]ビットコインバブル→電力消費・発電問題発生→バブル崩壊
[2017/12/04]『金持ち父さんのこうして金持ちはもっと金持ちになる: 本当のフィナンシャル教育とは何か?』を読んでみた
[2017/11/27]トランプによる世界金融市場の大粛清がいよいよ始まりそうだ
[2017/11/23]トランプ税制改革は借り入れ依存企業への死刑宣告
[2017/11/18]ボラティリティ・ターゲット戦略は株式・債券市場を一瞬で破壊する
[2017/11/13]債券市場崩壊の初期段階がすでに現在進行中?
[2017/11/01]IMFは世界の中央銀行として世界を支配したいのか?
[2017/10/15]トータル・リターン・スワップの出現は第2のAIGショックの発生を暗示する
[2017/10/03]MiFID2は世界金融危機を拡大させ、大陸欧州を自滅に導く破壊ツール
[2017/08/26]世界金融市場クラッシュの予兆が見えた
[2017/09/21]暗号通貨に国債市場、日本円が抱える内憂外患
[2017/09/13]ドル離れの動きがFedの量的金融緩和政策再開を促す:その2
[2017/09/12]ドル離れの動きがFedの量的金融緩和政策再開を促す
[2017/08/24]日銀のETF買いは「貯蓄から投資へ」移行する家計を罠に陥れる
[2017/08/20]中国のシャドーバンキングスキームの崩壊はすでに始まっている
[2017/08/16]つみたてNISAのみの利用での長期資産形成は難しい
[2017/08/02]「金融の神様」がグローバル金融の崩壊を警告し続けている
[2017/07/26]世界の大揺れが確実に近づいています
[2017/07/13]「世界金融市場大揺れへのカウントダウン」は、すでに始まっている
[2017/07/09]相変わらず「自身の出口戦略」にしか興味のない日銀・黒田総裁
[2017/07/04]「悪徳」銘柄への投資こそ、年金運用には向いている...!?
[2017/06/29]短期の変動に目を奪われすぎず、本当のリスクに焦点を合わせよう
[2017/06/18]イエレンさん、本当にバランスシート正常化なんてできるの?
[2017/05/18]備えはお早めに:ゴールドへの備えに適した期間は着実に減っている
[2017/05/05]中国金融市況の悪化が米国株式市場の熱狂を生んでいる
[2017/04/29]中国金融当局のレバレッジ是正勧告は世界市場を溶かすかもしれない
[2017/03/07]FRBが3月利上げしそうですね。米国経済が回復していないなかで。
[2017/02/25]インサイダーたちによる爆売りブーム...米国株式市場のバブルの宴のフィナーレが迫っている
[2017/02/17]米国債しか頼れない日本、アジア国際金市場を着実に発展させている中国
[2017/01/24]トランプ政権は米ドル・米国債に対する大胆な政策を画策しているかもしれない
[2016/11/15]トランプの当選が市場に与える影響
[2016/11/05]今後世界の株価が大きく下がることは時間の問題
[2016/10/18]官製相場にかなり近づいた国債市場:日銀の八方美人的な振る舞いに潜む「テーパリング」への道

▲記事本文の終わりへ戻る▲

▲このページの先頭へ戻る▲