米国政府の税収の1/4、1/3が利払いで消える日
2018/06/08
今後米国財政は、社会保障費の増加だけでなく国債費の増加に悩まされることが必至だ。米国議会予算局による試算で、11年で国債費が4倍近く増えるという数字が載っている。しかしこの数字もまだまだ「楽観的」だ。
米国議会予算局の試算では、20年連続で米国経済の安定成長を前提としている
前回は金価格の最近の低調が、米国のレパトリ減税といったドル還流策を大きな要因としたドル高が引き起こしているという、一つの見方を示しました。
しかしレパトリ減税によるドル高金価格安の影響は短期的であり、金価格の推移に心配するよりも今後の米国財政を心配したほうが良いとして前回記事を締めました。
米国政府債務は20兆ドルを突破し、米国GDPとほぼ同額に並びました。米国議会予算局も今年4月の最新予測で、米国の財政赤字は社会保障費増などで、今後11年で年率約4.8%で増え続けると予測しています。
年率4.8%という数字は、議会予算局が予測する今後の米国GDP成長率約4.1%よりも大きな数字です。米国の対GDP比政府債務残高は増え続けることを意味し、2028年には113-4%程度になる見通しです。これでも米国財政の将来は十分悲観的です。
しかし議会予算局の予測はまだ「楽観的」とみなければなりません。議会予算局の見通しは甘い点があるためです。
今回の議会予算局の予測では、早くも前回の予測値の修正に迫られ、米国財政赤字が1兆ドルを突破する年を2年前倒しし2020年に修正しました。昨年の見通しでは織り込まれていなかった、減税法案による所得税、法人税の減収分が加味されたためです。
また議会予算局の財政見積もりは米国経済が「常に控えめな規模ながらも安定成長を続けていく」という「楽観的な仮定」に基づいており、「世界金融危機を引き金にGDP成長率が-10%、-20%となるような年が生じる」ことを「全く想定していません」。
今後10年のあいだ、世界金融危機が一度も起こらず現在のようなぬるま湯経済が大きな断絶なしに続いていくと思いますか?リーマン・ショック後から20年間連続で米経済が安定成長することを確信できますか?
年率4.7%を超えるペースで米国政府債務が増えることが、十分現実的な一つのシナリオであると考えなければなりません。
今後の米国財政で最も深刻な懸念は米国政府の国債利払い費増です。議会予算局の最新見積もりでは、2028年に国債費は9150億ドルとなる見込みです。2028年の全歳出の13%にものぼり、税収の16.57%です。これは10年物国債利回りが3.7%という仮定のもとでの見積もりです。
2017年の国債費は2630億ドル、歳出全体の6.6%、歳入全体の7.93%であったことを考えると、国債利払い費が深刻なペースで増えていくと議会予算局が考えていることになります。
画像ソース:米国議会予算局
さらに予測では10年国債利回りが2028年に3.7%となると見積もっており、2028年の利率「(国債費)÷(債務残高)」は約2.7%としています。
2017年の10年国債利回りは2.3%で、「(国債費)÷(債務残高)」は1.37%でした。つまり国家予算局は、今後10年間で長期金利の上昇は1.4%程度で済むと考えているのです。
もし長期金利が見通しを超えて上昇し、それに伴い利率も増えれば、さらに国債費は増えていくことになります。
以上を踏まえれば、次のような可能性が十分現実的な一つのシナリオとなります。
- 米国議会予算局は2028年に国債利払い費が、全歳出の13%、名目GDPの6.1%にまで増えると考えている
- 2017年からの11年で国債費は4倍近く増えると考えている
- しかし議会予算局の財政赤字、政府債務残高の伸びは過小評価している部分がある
- さらに金利上昇次第ではさらに利払い費が増えるおそれがある
- よって今後11年の国債費の伸びは2017年の4倍では済まないおそれがある
- 税収に占める国債費が19.57%で収まる保証がない
1-2%のずれが米国政府の財布を炎上させる
では具体的に、どのくらい済まないおそれがあるのでしょうか。個人的に気になったので簡単なシミュレーションをしてみました。
シミュレーションしたのは、議会予算局の仮定からの乖離が生じた場合の、2028年の税収に占める国債費の割合です。仮定というのは次の2つの仮定を指します。
- 政府債務残高の今後11年間での平均伸び率は毎年4.8%
- 2028年の「(国債費)/(債務残高)」で表される利率が2.7%(言い換えれば2017年からの11年間での10年物米国債利回りの伸びが+1.4%である)
後者の利率の乖離は、10年国債利回り(長期金利)の乖離とほぼ同じです。「利率が予測より0.5%ずれる」=「長期金利が予測より0.5%ずれる」と考えても大きな差し支えはありません。
例えば下図の黄色は、「政府債務残高の年率が仮定より0.5%多い」かつ「2028年の利率が仮定より0.2%大きい」場合の、2028年の税収に占める国債費の割合が18.74%であることを意味します。
結果は以下の通りです。
薄赤色は税収に占める国債費が25%以上パターンを表します。債務残高伸び率と利率がともに予測から1.0%ずれるだけで、国債費は税収の1/4超を占めるようになります。債務の伸びが予測どおりでも、外的要因に左右される利率が予測からさらに1.4%ずれると、それだけでも国債費が税収の1/4超を占めるようになります。
真っ赤な部分は税収に占める国債費が33.3%以上のパターンを表します。債務残高伸び率と利率がともに予測から1.8-9%程度ずれると税収に占める国債費が1/3を超えるようになります。
このように、国家財務局の予測からたった1-2%ずれるだけで、米国財政をますます火の車にするだけの十分な燃料となってしまうのです。
国家財務局の予測がリスクを過小評価している点と合わせれば、今後10年で米国政府の収入の1/4、1/3が毎年減り続け、そこに増え続ける社会保障費が加わり、米国国家財政がもはや持たないところまで行き着く可能性すら排除できないのです。
今後短期的には金利上昇を「米国債への投資チャンス」に映るかもしれませんが、ある時点(例えば長期金利が5%を超える時点)を境に金利上昇が「米国デフォルトリスクの高まり」と市場が認識を180度改めることを意味します。
換言すれば、ある時点を境に、米国債はもはや安全資産とはなりえないことそ意味します。
また金利上昇は株価、不動産価格の下落にも寄与すると考えられます。
つまり、長期金利が5%、6%の水準へと上昇してしまえば、この世に価値が目減りしない資産クラスの市場規模が大きく縮小してしまうのです。
当然ドル安に作用します。金価格も上がるでしょう。ただでさえ双子の赤字を抱える米ドルは現状過大評価されています。今後10年で米ドルの購買力が50%以上下がっても驚くことはできません。
しかもこのときには資産価値の目減りを防げる資産クラスの種類が限定されているので、資産価値の目減りを防げる数少ない資産クラスに資金が集中することになります。
代替案全資産としてゴールドが選択されるかはわかりませんが、もし選択されれば、ゴールド価格が長期的に何倍にも膨れ上がってもおかしくありません。
1920s、1970s、2020s
最後に、リーマン・ショック後の10年は「政府債務が膨張した時代」でした。日米欧の国々の政府債務が大きく増加したことが、リーマン後の10年の金融史を大きく特徴付ける現象の一つだったのです。
同時に日米欧の中央銀行は大規模量的金融緩和に踏み切りました。
つまりリーマン・ショック後の10年とは「日米欧の先進国が実質的な財政ファイナンスに踏み切った10年」ということです。
画像ソース:incrementum
1970年代は米国を中心とした世界的なスタグフレーションの時代でした。1920年代はドイツ、オーストリア、ハンガリーがハイパーインフレとなったときでした。
「高・ハイパーインフレ50年周期説」というのがあるのでしょうか?もし存在するとしたら、2020年代はまさにその50年周期に該当することになります。
2020年代は、リーマン後の10年で積み増された政府債務のツケ、実質的な財政ファイナンスのツケを、世界中の市民が払わされる時代となるのでしょうか...?
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