中国金融当局のレバレッジ是正勧告は世界市場を溶かすかもしれない
2017/04/29
最近、なんだか世界金融市場に関するいや~な報道がいくつか目につきました。
まずはこちらの大暴落から。
画像ソース:Zero Hedge
カナダ最大の住宅ローン貸出企業ホーム・キャピタル・グループの株価が一日で61%も暴落してしまいました。こわいこわい。
暴落の理由は傘下のホーム・トラストの資金繰りが急速に悪化していることをほのめかす文書が投資家の目に入ったからです。3月28日から1ヶ月弱の間に定期性預金から5.91億カナダドルが引き出され、手元の流動性資産を一気に1/4程度失ってしまい、清算の足音が聞こえてきたのです。
ホーム・トラストは喫緊の流動性資金を確保するべく、一年間の20億カナダドルの信用与信枠を何とか得たのですが、現在の低金利環境では考えられない10%という法外な金利で契約を結んでしまいました。
契約内容から今後1年間で2.25-3億カナダドルの利払いの発生が確定したことに加え、現在までの資金調達方法が定期性預金に大きく依存していた関係上、今後定期性預金の大量引き出しが仮に起こらなくても、年間3億カナダドル程度の利払いは確定しています。
2016年のホーム・キャピタル・グループの住宅ローンからの金利収入が8.63億カナダドル程度ですので、定期性預金の引き出しがなくても金利収入の60-70%程度が利払いで消えてしまうという、非常に厳しい未来が待ち受けます。
カナダでは非居住者の住宅購入への課税を導入したことでバンクーバーの住宅市場がすでに崩壊し始めていますが、トロントでも同じように非居住者の住宅購入に課税する動きが出てきており、いずれトロントの住宅市場も溶け始めることでしょう。
そうなれば住宅ローンの不良債権化が生じ、ホーム・キャピタル・グループの清算が現実的になるだけでなく、世界中の不動産市場にも何らかの衝撃を与えるかもしれませんね。
中国マネーが世界金融市場のバブルを形成しているかもしれない
ホーム・キャピタル・グループの大暴落についてはオードブルのようなもので、それよりも今後の世界金融市場にとって不穏だなと思ったのはこちらのニュース。中国です。
【2017/04/25 ブルームバーグ】影の金融支える「委託投資」が突然の方向転換、中国相場に動揺
中国市場の巨大な資金源、いわゆる「委託投資」が突然、方向転換を始めた。資産運用業界は動揺し、人民元建ての債券と株式が大きく値下がりしている。
銀行は何年も外部の資産運用会社に資金運用を委託してきたが、ここ3週間ほどの間に当局がリスク抑制に向けて相次ぎ打ち出した指針に対応し、資金を引き揚げている。
銀行の資金引き揚げに伴い、株式市場は過去6営業日で時価総額を3150億ドル(約34兆7000億円)削り、債券利回りは約2年ぶり高水準に達した。
中国銀行業監督管理委員会(銀監会)は銀行に対し、投資信託・信託・先物会社や証券会社が発行した商品を含め委託投資の規模を報告するよう要請。銀監会は委託投資を明白には禁止していないが、6月12日までの報告と、高度なレバレッジなどが絡んだケースでは11月30日までの是正を求めている。ブルームバーグ・ニュースが入手した文書で分かった。
中国ではシャドーバンク問題という、中身が隠蔽された問題が何年も前から言われていましたが、そのうちの大きな問題の一つが委託投資の問題。
要は信託銀行が投資商品を販売して資金を顧客から集め、それを外部の機関投資家やヘッジファンドに委託運用してもらって高利回りを確保しているという話です。実はこうした昔からあるような話が、シャドーバンクという誰が作ったかわからない煙幕のような用語の中に隠蔽されているのです。
信託銀行は顧客から集めた資金だけではなく、運用資金のレバレッジも外部の機関投資家やヘッジファンドに提供しています。
上海の調査機関によるとこうして外部の資産運用会社に渡った資金は合計で11.8兆元(約1.7兆ドル)にも達するそうです。円換算で190兆円という莫大な額ですから(GPIFの運用資金よりも多い)、今後非常に深刻な問題を生み出すことが懸念されます。
ブルームバーグの報道によると190兆円という莫大な額に上る委託投資資金の一部が引き上げの動きを見せ始めたわけですから、この流れが加速することによりいずれ世界の金融市場を大きく揺るがす出来事に発展する可能性があります。
データを見ていくと、190兆円という巨額のマネーが世界の金融市場に流れ込んでいる可能性があります。
下図は世界の中央銀行による資産購入額(要は新たに創出されたお金のこと)の推移です。EMは新興国を指していますが、実質的に中国の中央銀行と考えて差し支えありません。2015年の中ごろと2015年末-2016年初にかけて中国がカネを一時的に引き上げていることがわかります。
画像ソース:SNBCHF.com
そして下図はナスダックのチャートです。赤丸で示した部分で指数が下がっていますが、これはちょうど上図で中国の中央銀行がカネを一時的に引き上げていた時期に大体一致しています。
画像ソース:みんなの株式
では何故2016年以降に株価が上昇しているのでしょうか。多くの人は日銀とECBによる量的金融緩和の影響だと思うかもしれません。確かに量的金融緩和の直接的な影響もある程度はあるでしょうが、それだけではなさそうです。
2016年以降の金融市場で最も顕著な動きは、中国が非銀行金融機関への膨大な貸出を急激に増やしていることです。上で外部資産運用会社への委託運用でレバレッジも供与していると書きましたが、その動きは下図を見ればわかるように2015年末-2016年初から急激に現れ始めてたのです。
画像ソース:Zero Hedge
そしてこの時期から信用創出を積極的に増やした国は、ほとんど中国ただ一国のみだったのです。
画像ソース:Zero Hedge
このようにいくつかのデータを観察していくと、もしかしたら現在の世界金融市場の運命は中国が握っているかもしれません。中国マネーの流入先は不動産市場に限った話ではないのかもしれないのです。
実は2015-16年にかけて中国に進出するヘッジファンドが急増しています。登録されたヘッジファンドの数は2015年3月末には5,544でしたが、2016年末には27,015に増加しており、1年9ヶ月で中国のヘッジファンド数は5倍近くにまで増加しました。運用資産も現在までに4,000億ドルにまで膨れ上がったようです。
【2017/02/15 Bloomberg】China's Hedge Fund Elite Live in Their Own Private Village
【2017/02/28 WALL STREET SURVIVER】THE HIDDEN HEDGE FUND VILLAGES OF CHINA
よって中国の信託銀行が富裕層から資産をかき集め、それをレバレッジとともに外資系資産運用会社にカネを渡して彼らが好き勝手運用している構図がもしかしたら存在しているのかもしれません(あくまで推測)。
こうした構図が正しければ、米国で企業の自社株買いの勢いがなくなり、インサイダーも2017年に入って株式を大幅に売り越したのにも関わらず、米国等の株価が上昇してきたことも頷けます。
資産運用会社は運用で利益をあげれば追加報酬を得ますが、運用で損失を出してもペナルティを支払うわけではありません。運用で損失を計上しても運用資金さえあればその一部を手数料としてポケットにしまうことができるのです。
極端なことを言えば、仮に運用で損失を出し続けても、それを顧客等に隠し通し、融資を提供している金融機関に債務返済期限を先延ばししてもらうよう説得し続けられれば、高額な給料を得られ続けるのです。
中国という金融に関する厳格なルールが十分備わっているとはあまり思えない国であれば、裏で金融屋による好き勝手な活動が行われていても不思議ではありません。
米国だって現在のような証券取引に関するまともな仕組みが出来上がったのは世界恐慌が起こった後です。1920年代の株式バブルの頃は、国際証券取引の主役がイギリスのシティから米国のウォール街に移行したばかりで、証券の発行や取引に関する十分な規制が存在せず、インサイダーたちによる株価操作も横行していたダーティな賭博場でしたから。
そう考えれば、リーマンショックによって肩身の狭くなったトレーダーたちが、まだ証券全般に関する厳格な規制があるとは思えない中国に進出して、同業者ネットワークを作り出して裏でバブルを人工的に生み出して手数料+運用報酬を荒稼ぎしているというのは一つの可能性としてあり得ると思うのですがどうなのでしょうかね。
**********
確かなことはわかりませんが、もし莫大な中国マネーが世界の金融市場に流れていたら、今後は非常に大変だと思います。
最初に引用したブルームバーグの報道にあるように、中国金融当局は金融機関に対して6月12日までの委託投資の規模の報告と、高度なレバレッジが絡んでいる場合に11月末までの是正を求めています。
これ、もしかしたら大変なことになるんじゃないですか。特に11月末までの高度なレバレッジ取引に関する是正要求は、中国マネーの市場からの大幅な引き上げにつながる可能性があります。
今年の夏から秋にかけて、世界の金融市場が大津波に襲われるリスクを一つの可能性として頭に入れておいたほうが良さそうです。
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