2018年に向けて、金市場の動向をみる
2017/12/29
今回は金市場の動向を簡単にみていきます。金相場面、需給面、それに世界の金融市場や地政学面からみて、いまゴールドという選択はどうなのでしょうか。
ゴールドの需要を供給を上回る状況が続きそう
下図は今年の相場です。
- 青線:金価格(SPDRゴールドシェア、金ETF)
- 橙線:米国株(S&P500指数)
- 黄緑:ドイツ株(ドイツ株価指数)
- 黄線:英国株(FTSE100種総合株価指数)
- 赤線:日本株(日経平均株価)
画像ソース:MORNINGSTAR
米国株と日本株が年初来19%程度の高リターンをたたき出しました。一方英国株はブレジグットの経済・金融面の着地点がいまだ見えないこともあって伸び悩んだようです。
金価格は9月以降に下落したとは言え、米国株バブル継続中ながら年初来12%のリターンを出しました。ドイツ株と同じくらいのリターンです。金価格は米国株価と反対の値動きをする傾向がありますが、その中で意外と高いリターンを出したという印象です。
今年の金価格上昇の背景には、米ドル安の影響があるようです。金価格と米ドルは反対方向の値動きをする傾向がありますが、今年はこの傾向がくっきりと反映されています。
画像ソース:Zero Hedge
金価格が9月以降下落した理由はいろいろあると思いますが、少なくとも同時期に投資家・投機家は金ETFや金先物を売却しています。
World Gold Councilによれば、今年第3四半期の金ETFの金需要は前年同期比-87%の18.9トンという大幅下落となり、投資家・投機家が金価格を押し下げた姿が鮮明となっています。
ただ、金の需給に着目するとどうやら需要が供給を上回る状況が続いています。
中国を除く金の需要(水色)と供給(紫色)を見てみると、ここ5年は金の需要が供給を上回る状況が続いています。
画像ソース:BullionStar
中国は世界最大の金産出国および金輸入国ですが、中国に持ち込まれた金は原則として国外に持ち出すことが禁止されています。当然中国からの金輸出も禁止です。
中国は2013年以降、海外からの金の輸入を大幅に増やして今年第3四半期には中国国内に2万トン超の金があると言われています。2012年終わりから5年で2倍増えました。
しかし2万トン超ある中国の金は、闇取引でもない限り海外に流れることはないのです。
画像ソース:BullionStar
よって我々のように中国以外の市場で金取引する人々にとって、金の供給量はそこまで増えにくい状況にあります。
中国以外の金需要を見ると、米国の宝飾品需要が2012年以降現座にかけて上昇傾向が続いています。インドは国内金価格の上昇や付加価値税の導入により直近は宝飾品需要が落ち込んでいますが、中間所得層による中長期の金需要増が見込まれます。
トルコはリラの下落に伴い金需要が増えています。今後はFedの利上げ等で新興国通貨の下落リスクが高そうですので、トルコのように安全資産としての金の需要増もあるかもしれません。
画像ソース:World Gold Council
そういうわけで、中国を除く世界金市場で、金の需要が供給が上回る状況は今後も継続していきそうです。
よって投資家や投機家がゴールドの保有を減らしている現在は、金を購入するのに良い期間だと言えるでしょう。
さらに2018年以降、市場面や地政学面の不確かさも金にとって追い風となりそうです。
市場、地政学的リスクの高まりはゴールドにプラスに働くだろう
2018年以降は何が起こるかわからない、そんな不確定で不安定な状況が続きそうです。
市場面では、中国の不動産市場と高リスク債券市場(ハイ・イールド債、新興国債券など)の大調整が起こるかもしれません。Fedや中国人民銀行の利上げに非常に脆弱であり、流動性が低く売りに売れない状況に陥りやすいからです。
不動産や高リスク債券投資家たちを絶望的な状況に陥らせる主要因になりそうなのは、やはり以下の米国の政策でしょう。
- Fedの金融引き締め政策(利上げ、バランスシートの削減)
- トランプの税制改革
これらの政策はいずれも米金利、国債利回りの上昇や米ドルインデックスの上昇を招きうるものです。
中国は2015年夏~2016年にかけて起こった資本流出にトラウマのようなものを持っています。米金利の上昇は中国からの資本流出リスクを高めますので、中国当局はリスク防止のために今後も利上げといった金融引き締め策をとってくるでしょう。
中国政府は来年、不動産やインフラ投資を減らしたり、金融機関や金融市場への規制を強める方針があるようですし、米国の政策は中国の金融引き締め姿勢をより強める方向に作用しそうです。そうなれば中国の不動産バブルの近いうちの終焉はもはや確定した未来となります。
また米国債利回りが上昇すれば、機関投資家たちは昨今の超低金利環境で利回り目的で保有せざるを得なかったハイ・イールド債等を売却して、より安全な米国債に投資することになります。
海外の機関投資家は米国債に投資したくても為替ヘッジコストが高すぎて米国債に投資できない状況が続いてきましたが、Fedの金融引き締め策やトランプの税制改革で米ドルが強くなるという確信が得られれば、為替リスクをとってでも米国債に投資する可能性もゼロではありません。
いずれにせよ、米国の金融・税金政策は米国債の魅力を高めていくのです。米国債に魅了された機関投資家は、リスクの高いハイ・イールド債や新興国債を持つ意味がなくなります。ハイ・イールド債や新興国債の死につながるのです。
2018年は、米国の政策を主な要因として世界の脆弱な市場が崩壊を迎える元年となるかもしれません。それは最終的に米国株式市場にも波及するでしょう。よっていまのうちに金融市場、特に米国株式相場の崩壊に備えた行動を取ることは必須と言えます。
例えばゴールドは米国株と反対に価格が動く傾向にあるので、一つの対策となります。リーマンショックの前後のときも、米国株が2008年初の価格に戻るまでの間に金価格は8割上昇しています。
今回は世界の中央銀行の量的金融緩和政策で刷られた前代未聞の大量マネーの一部が株式市場に投入されたので、リーマン・ショックよりも崩壊の規模は大きいでしょうし、その反動で金価格が8割では済まない上昇に向かう可能性は楽観的でも何でもない、現実的な見方でしょう。
地政学面では中東問題と北朝鮮問題があり、これらのいずれか一方でも最悪な方向に向かえば、金といった安全資産に資産退避する可能性もゼロではありません(仮想通貨市場に流れる可能性もありますが)。
特にサウジアラビアには注目しなくてはなりません。サウジアラビアがダメになると40年以上続いてきた国際金融システムが大きく揺れることになり、資産価格も大きく変化することが見込まれるからです。これは少なくとも米ドルの減価をもたらすのは必至です。
サウジは政治面では緊縮財政によるサウジ市民への締め付け政策の実施、政府と宗教指導者との対立、イラン・ヒズボラ・フーシとの深刻な対立などの内憂外患状態にあります。財政面では原油価格が上昇しても財政赤字を解消できず、最近財政黒字化目標を当初の2020年から23年に3年先送りしており、慢性的な財政赤字を抱えそうです。
かなり行き詰っているように見えるサウジの混乱などにより、国際金融システムの大変動につながるリスクは絶対に無視しないでください。
金価格は米ドルと反対方向に動く傾向があるので、ここでもゴールドは対策にもってこいなのです。
市場面、地政学面をみても、ゴールドをいまのうちに多少なりとも購入しておくべきに見えます。
**********
金の市場・需給面、世界の金融市場面、地政学面をざっと見ましたが、いまはゴールドを安値で買うチャンスに見えます。価格変動リスクを受け入れられる方であれば、金鉱株もありでしょう。
ゴールドは価格変動が比較的大きく、今後も投資家・投機家の売りなどにより一時的に最大3割ほど下落する可能性もありますが(金鉱株なら最悪半値もあり得る)、金の需要が供給を上回る状況は今後も続きそうですので粘り強く保有しておくと良さそうです。
少なくとも私は今後もずっとゴールドを保有しておく予定です。最終的には皆さんの判断でゴールドを購入する、しないを決めてください。
最後に、資産防衛を余裕を持って行える期間は1年あるかないかくらいだと思っています。資産防衛するなら早めに動くことをおすすめします。
2017年のブログ記事はこれで最後となります。ご覧いただきありがとうございました。2018年も変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
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