ターニング・ポイント
2019/07/30
今回は間近に迫った今月末のFOMCに関する内容です。
今月末のFOMCは、Fedの将来の存続にも関わる極めて重要なターニングポイントとなるものと考えています。フェイスブックの暗号通貨「リブラ」をめぐり、中央銀行が金融政策の制御を失う可能性があるとの指摘も国際機関から出てきているのでなおさらです。
市場予想やトランプの要求通り、本当にFedは今月末利下げ決定を下すのでしょうか。またFOMC後の米国株や債券・クレジット市場の世界にどのような影響があるのでしょうか。
Fedは本音では利下げを先送りしたいのでは?
まずは今月末のFOMCにおけるFedの利下げ判断についてです。
市場は今月のFOMCの利下げ決定は既定路線だと信じ、先物市場における今月末にFedが利下げに踏み切る確率はほぼ100%あります。
パウエル議長は今月10日の下院金融サービス委員会での議会証言で、6月のFOMC以降も、貿易摩擦などが引き続き米景気の先行きの重荷となっていると述べました。
この発言を市場やメディアは、6月のFOMCの議事要旨内で指摘された景気リスクを追認した発言であり、今月のFOMCで利下げに踏み切る大きな根拠だと考えています。
しかし、本当にFedは今月のFOMCで利下げに踏み切るのでしょうか。
Fedの動きをよく見ると、今月末の利下げについて曖昧な立場を続けてきました。
例えば今月10日の議会証言で、確かにパウエル議長は景気の下振れリスクが解消されなければ近く緩和的な政策を取るだろうと述べていますが、条件つきかつ「近く」という曖昧な表現が含まれます。
いやむしろ、先月19日に公表されたFOMC参加者による政策金利見通し(ドット・チャート)によれば、参加者の過半数は今年中の利下げに反対していました。
下図がそのドット・チャートです。下図の各点(ドット)は、各FOMC参加者よる毎年の政策金利の誘導範囲を示しています。先月の時点でFOMC参加者は17名ですので、各年ごとに17個の点があります。
下図の青線と赤線に囲まれた領域が現在の政策金利の目標レンジである2.25-2.5%の範囲を表しており、政策金利は現状維持と考えている参加者を意味します。青線より下は利下げ支持、赤線より上は利上げ支持です。
先月19日時点で、FOMC参加者のうち今年中の利下げを支持しているのは8名であり、過半数の9名が今年は政策金利を現状維持もしくは1回利上げを支持しています。
画像ソース: YAHOO! FINANCE
米国経済は好調です。米国の実質GDPは過去50年平均である2.7%を上回っており、先月のFOMC参加者の過半数が今年の政策金利を現状維持もしくは引き上げるとする予想は正常な見立てです。
しかし市場の考えはこうした堅調な米国経済の状況に基づいていません。貿易戦争等により米国経済が減速するという、IMF等が創り出した「神話」の信奉者になってしまっています。
FOMC参加者の政策金利の予想と先物市場における市場の政策金利予想との乖離は甚だしく、市場は今年0.75%の利下げを見込んでいます。さらに2020年にも0.5%の利下げ、計1.25%の利下げを期待しています。
たしかに市場がFedの大幅な利下げを期待するのはわからないでもありません。昨年の9月から今日にかけて、FOMCの政策金利見通しがハト派方向に流れ続け、この流れでいけばFedが今年から来年にかけて利下げしてもおかしくないからです。
政策金利に対するFedの急速な態度の変化が、市場とのコミュニケーション不全をもたらしてしまい、Fedと市場の考え方の大きな隔たりを生んでしまった点は否定できません。
しかし上図の今年3月と6月の政策金利見通しを比べると、興味深いことがわかります。2020年は利下げ見通しを大きく強めましたが、今年の政策金利については不変なのです。
少なくとも先月時点で、FOMC全体としては今年の利下げはマズいと考えているようです。またトランプ大統領への妥協案を提示しているようにも見えます。「今年の利下げは厳しいが、2020年の大統領選挙は株高演出に協力する」と。
Fed解体を回避したいのであれば、絶対にいま利下げしてはならない
パウエル議長は先の議会証言で、貿易摩擦や世界景気の減速懸念による企業投資の減速や低インフレの定着化に対する懸念を述べました。
このパウエル議長の懸念は事実に基づいたものであるのか、確認してみましょう。
・・・
直近の経済データをみるかぎり、パウエル議長が懸念する企業投資の減速や低インフレの定着化は、金融緩和政策を施すほどのものではありません。
それに、現在Fedは量的金融引き締めを実施中です。にもかかわらず7月末に利下げを決定してしまえば、Fedの金融政策は「金利政策は緩和」「量的政策は引き締め」というねじれ状態に陥ります。この点を多くの人は無視しています。
バランスシートの縮小は今年9月末で終了するので、10月以降に利下げするのであればまだわかりますが、その前に市場やトランプに屈して利下げを実施すれば、Fedの金融政策のスタンスにおける一貫性や中央銀行の独立性が毀損され、Fedの今後の信用棄損、最悪Fed解体にもつながりかねません。
Fedの存立意義を考えれば、Fedは今月末に利下げ判断を下せない、というよりも「下してはならない」のです。
独立性を有する中央銀行としての矜持をもって政策金利の変更を見送るのか、それとも金融政策のねじれ状態を生み出しても利下げして市場やトランプの奴隷と化すのか。
今月末のFOMCは、今後のFedの運命を大きく左右することになりそうです。
少しだけマーケットについて
以上の考察から、今月末のFOMCは「0.25%の利下げ」または「政策金利の維持」のいずれかになるものと思われます。
市場の3割は今月末0.5%の利下げもあり得ると考えていますが、これまでのFOMCメンバーの政策金利見通しの推移や米国の経済状況をみるかぎり、ほぼあり得ません。
現在のマーケットを見てみましょう。世界株やゴールドの価格をみると、5月末~6月初ごろからどれも上昇トレンドに入っています。このトレンドにより米国株は過去の最高値を更新し、金価格は2016年8月の1オンス1340ドルの水準を超えました。
5月末~6月初というのはFedの利下げ観測が大きく高まった時期ですから、現在の世界株や金価格の上昇トレンドはFedの今月末の利下げ(部分的に0.5%の利下げ)を完全に織り込んだ推移となっています。
そのため今月末のFOMCは、マーケット全体の価格を押し下げやすいでしょう。仮に利下げが延期となったり将来の利下げ時期への明言が控えられれば、株価や金価格は急落する可能性があるわけです。
金価格の上昇を喜んでいる方も多いかもしれませんが、現在の金価格の上昇は投機家・投資家マネーが流入したためであり、Fedの利下げ延期により一時的に急落する可能性があることは気に留めておいてください。
さらに気になる動きとして、米国債の10年物と3ヵ月物の差であるイールド・スプレッド。これが今年3月の終わりに一時的にマイナス(逆イールド)となり、その後今年5月後半から逆イールドの状態が続いてきました。
しかし今月に入り3ヵ月物米国債の利回りが急落する一方、10年物米国債の利回りも高まり、逆イールドが解消間近となっています。
3ヵ月物米国債の利回りが急落(需要が急増したということ)による逆イールドの解消は、逆イールドの解消が起こった1989年、2000年、2007年に共通する事象です。これら3つの年ではその後3ヵ月物米国債の利回り急落が止まらず、1年足らずで景気後退入りしました。
ゴールドにとってはポジティブ要因ですが、株式にとってはネガティブ要因となります。
画像ソース: FRED
米国株に対するFedの影響力は消失しつつある
(省略)
Fedの政策金利判断でどこの債券・クレジット市場がババを引く?
(省略)
・・・
今月末のFOMCは、どのような決定が下されても、米国の金融システムや株式、債券市場にとって大きなターニングポイントとなるでしょう。
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