ビットコインバブル→電力消費・発電問題発生→バブル崩壊
2017/12/06
画像ソース:The Merkle
ビットコインバブルに酔いしれる投資家たち。しかしビットコイン取引決済処理の中核に位置する「マイニング」に着目すると、長くても2020年までにビットコインバブルも終わらざるを得ない姿が見えてくる。キーは中国と消費電力。電力消費・発電問題に帰着されれば、ビットコインバブルの維持は到底無理。
ビットコインバブルは消費電力量もバブル化させうる
今年はビットコインが急拡大した年になりました。年初から11ヶ月でビットコイン価格は10倍上昇し、ビットコインを含む仮想通貨全体の時価総額はウォルト・ディズニーとネットフリックスの時価総額の合計を上回るまでになりました。
ビットコインを巡っては、JPモルガン・チェースのダイモンCEOが「ビットコインは詐欺だ」と発言したり、中国が取引所でのビットコイン取引を禁止(ただし相対取引は引き続き可能)とするなど、ビットコイン敵視の逆風も吹き荒れました。
しかしビットコイン熱は冷めるどころかますます過熱気味。世界最大の仮想通貨取引所を運営する米コインベースの口座数は現在でも1日5~10万が新規開設されているようですし、米先物市場ではシカゴ・オプション取引所、CMEグループがそれぞれ今月10日、18日にビットコイン先物取引を開始し、さらなるビットコイン価格の大暴れ懸念があることも事実です。
いままでビットコインを「知らない」「犯罪取引に使う通貨」だと考えてきた一般人も、最近では「どうやって買うの?」「どこまで値上がりするの?」と、ビットコインに興味を持ち始めているみたいですし、ビットコインや暗号通貨への投機熱は今後ももうしばらく続くのかもしれません。
【2017/12/05 Newsweek】2017年は中流でもビットコインを買える最後の年になる!?
しかし、ビットコイン決済システムの中核プロセスに位置する「マイニング」に着目すると、ビットコインブームは長くても2020年にはしぼんでしまう可能性が高そうです。
マイニングとは、ビットコイン取引の承認のために必要な計算(ハッシュ計算とよばれる、コンピュータが行う演算)を実行し、"最も貢献した人"に報酬として一定のビットコインを付与する仕組みのことです。マイニングを行う人々や組織のことを、マイナー(採掘者)と呼びます。
ここで"最も貢献した人"とは、ハッシュ計算を通じてビットコイン取引の承認に必要な「ナンス値」を最初に発見したマイナーのことを指します。マイナーたちは、報酬を得るためにいち早くナンス値を発見するべく、マイニングに特化したコンピュータをわざわざ用意してせっせと膨大なハッシュ計算を行っているのです。
マイニングはビットコイン決済の中核プロセスであり、逆にいえばマイニングが適切に、ビットコイン開発者たちの当初の想定通りに行われなければ、ビットコイン決済に遅延が生じ、ビットコインの信用問題にもつながる話になっていきます。
実はいま、ビットコイン取引を完了するために必要不可欠であるマイニングで使用される消費電力量をめぐる懸念が出始めています。
前述のように、マイニングでは「ナンス値」を発見するために専用のコンピュータを利用して膨大なハッシュ計算を行います。この計算の際にコンピュータが消費する電力量が、ここのところ指数関数的ペースで急増しているのです。
マイニングに使用される全世界の年間の消費電力量の見積もり値である「ビットコインエネルギー消費インデックス」という指数を見ると、12月4日現在で31.6TWhとなっています。これは1時間平均3.6GWhの消費電力量(つまり平均消費電力が3.6GW)を意味します。
画像ソース:Digiconomist
※ビットコインエネルギー消費インデックスは、マイナーのマイニングに掛かる経費と得られる報酬という、2つの経済的要因をもとに弾き出された、消費電力量の概算です。あくまで概算であり、どこまで実際の消費電力量と整合性があるのか、不確かな点もあるのでご注意ください。ただ、実際の消費電力量が不明な以上、同インデックスは重要な指標でしょう。
同インデックスは今年10月、前月比30%近く上昇したとのことです。現在も同インデックスは上昇中であり、今後仮に毎月30%ペースでマイニングの消費電力量が増加すれば、2020年2月には全世界の電力量をすべて消費することになるようです。
【POWER COMPARE】Bitcoin Mining Now Consuming More Electricity Than 159 Countries Including Ireland & Most Countries In Africa
マイニングの消費電力量が指数関数的に急増している理由は、マイナーたちの競争が熾烈であることと、ビットコインの仕組みそのものによるものです。
マイナーたちは熾烈な競争に勝ち抜いて報酬を得るために、彼らが使用する専用コンピュータを24時間365日フル稼働させて出来る限り多くのハッシュ計算を行ってきた結果、計算量が指数関数的に増大してきました(ハッシュ率という、1秒間に何回のハッシュ計算を行うのかを示す指標をみればわかります)。
ハッシュ計算量が増えればより早く「ナンス値」が求まるようになり、マイニングが効率化される(=決済処理のスピードがあがる)のですが、ビットコインの規約(プロトコル)はマイニングの効率化を許していません。
ビットコインプロトコルは、ビットコイン取引の承認ペースを約10分に一回となるように規定しており、マイニングがハッシュ計算量の増加に伴って効率化されて決済処理のスピードが速まると、ナンス値を求めるためのハッシュ計算の「難易度(difficulty)」を上げてしまうのです。
そうするとマイナーたちは、さらに高速でハッシュ計算を行うために計算量を増やそうとします。すると決済処理が速まり、ビットコインシステムはさらにハッシュ計算の難易度を上げていきます。
つまり次のような循環の仕組みが働くのです。
- マイナーたちがハッシュ計算量を増やす
- ビットコイン取引の決済処理スピードが速まる
- 10分に一回の決済承認ペースを維持するために、ビットコインシステムはマイニングに必要なナンス値を求めるためのハッシュ計算の難易度を上げる
- マイナーたちはさらにハッシュ計算量(つまりハッシュ率)を増やす必要がある
- 以下、2-4の繰り返し
この循環によりハッシュ計算量(ハッシュ率)が指数関数的に増大してしまうのです。ハッシュ率の増大は当然演算を行うコンピュータの消費電力量を増やします。
これがビットコインのマイニングで使用される消費電力量の指数関数的増大を生み出す根源となっているのです。
現在まで、ビットコイン価格とマイニングの消費電力量はいずれも指数関数的に似たように上昇してきました。マイニングで得られる報酬としてマイナーたちはビットコインを得ますから、ビットコイン価格の上昇は直接的にマイナーたちの報酬アップにつながっていきます。これはマイナーたちの経済的インセンティブを高めますから、マイニング競争はますます熾烈になります。これはマイニングの消費電力量の増加につながります。
さらに現在は半導体の微細化技術の進歩の行き詰まりで、これまでムーアの法則で言われてきたようなマイクロチップの計算効率の指数関数的上昇を大きく望むことができなくなっています。マイニングを行う大量の稼働中のコンピュータが配備されているデータセンターの設備環境(コンピュータの冷却システムなど)の改善による消費電力量抑制効果も、どの程度功を奏すのかわかりません。
マイクロチップの効率化やデータセンターの環境改善以上に、ビットコイン価格やハッシュ計算量(ハッシュ率)がものすごい勢いで増加しているため、専門家のなかにも今後、マイニングによる電力消費量の増加は避けられないとの懸念を表明する人達も存在するのです。2020年までに消費電力は14GW程度にまで増えるだろうと見積もっている専門家もいますが、果たしてそれで済むのかどうかはわかりません。
【2017/09/28 IEEE SPECTRUM】The Ridiculous Amount of Energy It Takes to Run Bitcoin
ビットコインバブルが今後も続けば、マイニング消費電力量も同じくバブル的な推移をたどる可能性は否定できないのです。
マイニングの将来は中国政府が握っている
現在、マイニング市場は中国企業がほとんど独占している状態です。全世界のハッシュ率(1秒間のハッシュ計算量)に占める中国企業の割合は、12月6日現在で8割を超えているようです。今年8月時点では中国企業の占有率は68%程度だったのですが、どうも中国企業によるマイニング市場独占の勢いはますます強まっているようです。
【BLOCKCHAIN】最新のハッシュレート分布
(中国企業:AntPool, BTC.com, ViaBTC, BTC.TOP, F2Pool, BTCC Pool, BW.com, 58COIN, 1Hash, Bitclub Network, Bixin)
中国企業がマイニング分野で世界を凌駕している大きな理由の一つは、1キロワット時の電気代が安いからです。日本が約30円、米国が約12円であるのに対し、中国は約4円であり、経済面で圧倒的優位に立つのです。
よって、マイニングおよびビットコインバブルの将来を透視するには、中国の電力事情を確認することが大切となります。
中国の電力供給面をみると、現在の中国の総発電設備容量は1530GWあります。中国は今年1月に発表した「エネルギー発展第13次5カ年計画」のなかで、火力(石炭・天然ガス)、水力、風力、太陽光、原子力発電所のインフラ設備開発を通じ、2020年までに総発電設備容量を2000GWに引き上げる計画をもっています。
画像ソース:三井物産 ※PDFファイル
需要面を見てみると、中国の2016年の電力消費量は5920TWhでした。これは平均電力(1時間あたりの平均電力消費量)が676GWであることを意味します。
しかしこれはあくまで平均であり、実際には消費電力量は時間帯によってバラツキがあるものです。経済活動が活発である朝~夕方は消費電力量が増えますから、現在でもピーク時は1000GW程度の電力消費があると考えるのが妥当です。
2020年の総発電設備容量の2000GWと現在のピーク時の消費電力の雑な見積額である1000GWとを比べ、2020年までの消費電力の増加の可能性やその他突発的な電力需要増への備えの必要性も考えれば、マイニングで使える消費電力はせいぜい最大600GW程度ではないでしょうか。
さて、上述した通り、12月4日現在の全世界のマイニングに必要な平均消費電力は約3.6GWと言われています。中国がマイニングの全ハッシュ率の8割を占めており、同じように消費電力の8割を中国が占めていると雑に仮定すると、中国はマイニングで約2.84GWの電力消費をしていることになります。
この場合、今後も毎月16%のペースでマイニング時の消費電力量が増えていくと、いまからちょうど3年後のマイニング時の消費電力が600GWになり、中国の電力需給が逼迫することになります。
今後マイニング作業の消費電力量がどの程度増えていくのかはわかりませんが、現在1ヶ月で30%程度消費電力量が増えることもあること、そしてマイニングが中国企業の独壇場であり、中国企業同士のさらなる競争激化が起こる可能性も考えると、中国におけるマイニングの消費電力量の問題は、看過できないように思えます。
考えてみてください。中国人民銀行副総裁が「ビットコインの死体が流れてくるのを待つ」という極めて刺激的で挑発的言動をするくらい、中国政府にとってビットコインは邪魔な存在なわけです。
そうであれば、中国政府が国内のビットコインマイナー企業たちにさらなる競争を促し、わざとマイニングの消費電力量を指数関数的に増やすよう仕向ける可能性は、頭に入れておかなければなりません(中国の5大発電企業は国営企業で、政府の懐にも電気料金が転がり込みますから)。
だって、そうすれば中国政府は「中国人民の生活を停電という脅威から守るため、ビットコインマイニングを禁止する!」と表明できるでしょ?
(そこまでしなくても、中国は世界環境問題で主導的役割を担う気満々ですから「ビットコインマイニングに必要な電力供給のための石炭火力発電がひどい大気汚染を生んで環境を悪くするから禁止!」でもOKでしょう。)
さらにいえば、中国政府は電気自動車の普及を国家経済政策の一つの柱としていますが、いずれ電気自動車が中国国内で1億台走るようになれば、数百GWの消費電力が必要となる可能性もあるわけです(10年以上先の話だと思いますが)。電気自動車の普及という面をみても、マイニングは中長期的に強さが増していく逆風に晒されるのです。
要は、ビットコイン決済の中核プロセスであるマイニングの将来は、どうも中国政府が握っているように見えるのです。
別に発電発電設備容量ギリギリまでビットコインマイニング活動を過熱化させる必要はありません。「マイニング×電力」という組み合わせであれば、環境問題でもなんでも好きなような見せ方で、中国政府はマイニングを禁止にする口実をいくらでもつくることができるのです。
中国政府がビットコインマイニングを禁止すれば、ビットコインマイナーの大部分がマイニング市場から一挙に脱落することもあり得ます。これはビットコインシステムにどのような影響を与えるのでしょうか?
中国政府のサジ加減一つでビットコインバブルは終わる
ビットコインマイニングに関する、次のような循環の仕組みが存在すると話しました。
- マイナーたちがハッシュ計算量を増やす
- ビットコイン取引の決済処理スピードが速まる
- 10分に一回の決済承認ペースを維持するために、ビットコインシステムはマイニングに必要なナンス値を求めるためのハッシュ計算の難易度を上げる
- マイナーたちはさらにハッシュ計算量(つまりハッシュ率)を増やす必要がある
- 以下、2-4の繰り返し
もし、現時点でマイニング市場の8割超を占める中国のマイナーが将来一挙に市場から消えてしまうと、全世界のマイナーたちのハッシュ計算量がごっそり消えることになります。
ハッシュ計算量が減少すれば、それだけナンス値を求めるための時間が掛かってしまうことになります。8割の計算量が失われれば、単純計算でナンス値を求める時間は5倍増えてしまいます。つまりビットコイン決済の時間が純粋に5倍増えてしまいます。
上の循環の仕組みを見ると「ビットコインシステムは10分に一回の決済承認ペースを維持するために難易度を変更しているのだから、自動的に難易度が下がるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
たしかにそれは正しいのですが、残念ながら難易度はリアルタイムで調整されるわけではありません。難易度は、2016回の決済承認ごと(正確には沢山の決済の集まりからなる"ブロック"とよばれる承認単位が2016回承認されたとき)に調整されます。
【bitcoinwiki】How often does the network difficulty change?
Every 2016 blocks.
※2016という数字は、ビットコイン開発者たちが2週間に一回のペースで難易度の調整を実行することを想定していることを意味します。
つまり、直近の難易度の調整から1000回目の決済承認後に中国のマイナーたちが一斉にマイニングをやめてしまうと、その後1016回決済が承認されるまで、難易度の調整はされないのです。それまでは、ビットコイン決済の承認ペースは50分に一回という、極めて遅いものとなり得ます。難易度の調整が行われるまで一ヶ月以上も掛かってしまう計算で、一ヶ月以上も一種の決済障害のような状態が続くのです。
もし、最後の難易度の調整直後に中国系マイナーが一斉退去したら、決済障害期間は単純計算で70日続く可能性があります。そのときの中国マイナーの占有率が9割であれば、決済障害期間は140日程度になる可能性もあるのです。
そんなに長い期間決済障害のような状態が続いて、果たしてその間もビットコイン価格が維持されていると思いますか?
常識的に考えれば「ビットコイン大パニック」が勃発して、ビットコイン価格が半値では済まない暴落をしてもおかしくありません。
2020年は、マイナーたちに支払われる報酬が半減する年でもあります。中国の電力需給面を合わせれば、もし今後もビットコイン価格が上昇しても、遅くとも2020年までにビットコインバブルが弾ける公算は結構高いのではないでしょうか。
現在、ビットコイン取引の過半数は日本円(大半は日本人でしょう)で決済されています。
画像ソース:CryptoCompare
2020年といえば、東京オリンピック開催の年で、その後日本が不況入りすると考えているる人は多い印象があります。現在の日本の財政や金融面をみれば、その前から不況入りしたり、日本が財政・経済面で非常に厳しい状況におかれている可能性も無視できません。
そのため、もしかしたらビットコインを安全資産だと思って日本人のビットコイン保有増いるのかもしれませんね。
しかし(現在のビットコイン価格のバブル的推移はもちろんのこと)今回話したマイニングの消費電力問題を考えると、もし日本人の中に資産防衛目的でビットコインを購入している人がいれば、かなりリスキーな選択のように思えます。
※リスクを承知でギャンブル目的でビットコインの売買を自己責任で行うことについては、個人の自由です
それに、中国政府のサジ加減一つでその後の運命が決まるっていうのも、悲しいではありませんか。
遅くとも2020年(もっと早くなる可能性もある)、日本の経済状況悪化×ビットコインバブルの破裂により、多くの日本人が絶望する事態にならなければよいのですが...
最後に、中国政府はビットコインは嫌いですが、一方でゴールドは大好きです。中国の中央銀行は金準備を増やしてきましたし、中国の上海金取引所は世界最大の金現物取引所になるまで成長しました。
中国政府が非公表の金地金を隠し持っているという噂や、いずれ開始すると言われている人民元建て原油先物取引で、当初報道されたように本当にゴールドで裏づけされるのかという不確定要因はあるものの(これらはゴールド価格には織り込まれていない)、少なくともゴールド価格にネガティブな噂は耳にしません。今後の中国の動向いかんでゴールドに対するポジティブサプライズはあっても、ネガティブサプライズは考えにくいのです。
中国のサジ加減一つで、ビットコインとゴールドの評価が180度反転する可能性も、捨てきれません。
私が利用しているゴールド購入サービスのブリオンボールト。株式・債券・不動産バブルが破裂し、ビットコインもダメとなれば、さぁ、どうされます?
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