トランプは円安ドル高を許さない
2018/03/31
【2018/03/29 ブルームバーグ】受難続くキャリートレード、ボラティリティー観測で運用改善見込めず
1日に5兆1000億ドル(約544兆円)取引される外国為替市場で最も人気のトレーディング戦略の一つの「キャリートレード」は、この1年厳しい状況が続いている。そしてこの状況に近く歯止めがかかる可能性も低いようだ。
金利の低い通貨で資金を調達し金利の高い通貨で運用するキャリートレードが、過去3カ月の為替市場の相対的な落ち着きにもかかわらず、このまま行くと4四半期連続でマイナスの運用になる。世界貿易を巡る緊張の高まりでボラティリティーが高まる可能性があり、アナリストにとってこれは事態好転の望みがほとんどないことを示唆している。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのストラテジスト、マーク・チャンドラー氏は「金利差は大きいものの、調達通貨が下落していない」とし、「キャリートレードが有効なトレードだとは思わない」と語った。
大胆かつ素早い行動で円安ドル高の芽を次々と摘み取るトランプ政権。しばらく円高ドル安が続きそうだ。
私は米国と日本の金利差拡大によりキャリートレードが活性化し、大きくドル高円安になる可能性を一つのシナリオとして考えていましたが、どうもこのシナリオが実現する見込みは薄そうです。
出来るだけ低リスクにキャリートレードでリターンをあげるには、金利の低い日本円がしばらく強くならない環境となることを投資家がある程度確信できる必要があります。
しかしこうした環境はどうも訪れそうにありません。
トランプ政権は27日、韓国と米韓自由貿易協定(FTA)の見直しで大筋合意したと正式発表しました。同時に両国が競争的な通貨切り下げを禁じる「為替条項」の導入でも合意したことを明らかにしました。
【2018/03/28 日本経済新聞】米、韓国の通貨安誘導を禁止 FTA見直し合意
韓国側は為替条項について「米韓FTAとは別個の事案」としていますが、為替条項導入の合意について否定しているわけではありません。
【2018/03/29 日本経済新聞】為替条項「米韓FTAとは別」韓国政府高官、米の発表否定
当然ですが、この合意はトランプ政権が他国を巻き込んだ本格的なドル安政策に打って出る強い意思を持っていることを意味します。今後は中国や日本に対しても、交渉を通じて通貨安につながる行為を控えるよう要請し(圧力を掛けて)、相対的にドルが安くなるよう仕向けていくでしょう。
米国がドル安を望むのは、トランプが米国経済回復を最優先課題としており、米国の巨額の貿易赤字幅に不満を述べてきたことからも明らかです。
一方で、トランプは北朝鮮問題が解決するまで米韓FTA合意を保留する可能性について述べました。米韓FTA見直しが大筋合意した直後にも関わらず、あべこべのような発言ですね。
【2018/03/30 日本経済新聞】トランプ氏、米韓FTA合意「保留」も 北朝鮮問題解決まで
このトランプの発言は、為替条項について次のいずれかの解釈が可能です。
- 為替条項は保留しない
- 為替条項も保留する
為替条項は米韓FTAに含まれないとする韓国側の立場では前者のように捉えられます。為替条項も米韓FTAに含まれるのであれば、後者の解釈が必要です。
前者のように北朝鮮問題の今後の進展に依らず、為替条項を保留しないならば、このままドル安の流れが強まることでしょう。
しかし仮に北朝鮮問題が解決するまで為替条項導入も保留する、後者の解釈をとっても、少なくとも「円高ドル安」(「ドル安」ではない)となる可能性が高いと考えられます。
「ドル安」になるか「ボラティリティが上がる」か「両者顕在化」のいずれか
何故なら、もはや北朝鮮問題は、5月の米朝首脳会談で目立った進展がなければ戦争に向かうしかないシナリオが考えられるからです。換言すれば「官僚お得意の先送りというオプションが選択肢から排除されている」と考えられるのです。
※平和的解決となっても、米朝が表向き仲良くなるとはかぎりません
「官僚お得意の先送りというオプションが選択肢から排除されている」という見方は、国務長官が国際協調重視のディラーソンから、CIA長官のポンペオに交代することから生まれます。
【2018/03/13 ロイター】トランプ氏、ティラーソン国務長官を更迭 後任に強硬派ポンペオ氏
時間を掛けた話し合いを通じて外交的解決を目指す「のろまな」人物から、世界中でクーデターを引き起こしディープステートの傀儡政権樹立の陰謀を長年企画・実行してきた、時間を掛けた話し合いで仲良くなれるとは程遠いCIAという組織の長官へと、国務長官がバトンタッチするのです。
「早急な外交的解決を望まないなら戦争しかない。先送りは許さない」。トランプの「たたき上げの経営者魂」を感じさせるものがあります。
中朝首脳会談がサプライズ的に実施され、金正恩朝鮮労働党委員長が朝鮮半島の非核化実現の立場を明確に示しました。4月27日には南北首脳会談が実施されます。現在、北朝鮮問題は平和的解決に向けて急ピッチで進んでいるように見えます。
【2018/03/28 ロイター】北朝鮮の金正恩氏、訪中で習氏と会談 中国「非核化の誓約得た」
この流れであれば、5月の米朝首脳会談を経て、北朝鮮問題が外交的な平和的解決を迎えることも現実的シナリオとなります。そうなれば為替条項が導入され、ドル安に向かうことになるでしょう。
もし北朝鮮問題が短期で外交的解決に向かわなければ、米朝戦争勃発が現実的な一つのシナリオになります。しかしこれは市場のボラティリティを高め、世界最大の対外債権国である日本の投資家が為替リスク排除のためにドル売り円買いポジションを増やすことにつながります。つまり円高ドル安に向かうのです。
以上から、米韓の為替条項と北朝鮮問題に関し、どのようなシナリオが来ても円高ドル安の流れ継続の可能性が高いと言えます。そしてこれは円売りドル買いのキャリートレード意欲減退につながるので、結局円高ドル安傾向が続くだろう、というわけです。
なお、北朝鮮問題の平和的解決が確実になれば、「在韓米軍撤退→在日米軍撤退→日本の戦後の対米従属政治・官僚システムの崩壊→日本大再編に伴い日本流動化」という流れになり、日本の金融情勢も予測不能な領域に突入していく可能性があります。
おそらく日本流動化リスク健在化も、最初は円高ドル安方向に作用すると思います。ただし中長期では、日本の政官財のトップたちの腐敗、生産年齢人口の長期的減少や低生産性、テクノロジー関連の人材不足、そして何より絶望的な財政リスクが顕在化してかなりの円安に向かう可能性は捨てきれません。
心を落ち着かせて今後の金融大ショック(いつ起きるかは予測できないが間違いなく起こる惨事)に備えられる期間がいつ終了してもおかしくない状況にあることは、間違いないでしょう。
ドル売りユーロ買いの先物ポジションが溜まっていることから急激な円高ドル安になるかどうかは微妙ですが、例えば「ドル高→ドル建て金価格下落期待で、ドル建て金投資の購入タイミングを待ち続ける」といった戦略に固執するのは良くないかもしれません。
中長期でドル安(円高ドル安を意味するのではない!)に向かう、つまり米ドルが減価する可能性は高いでしょうし、先を見据えて有利なポジション(米ドル減価で価格が上昇する資産の購入)をいまのうちにとっておき、川のせせらぎの如く心を「静」にしてじっと待つのが良さそうです。
【P.S.】
私は本記事を書くまで一時的にドル高になると思っていたので、今年(1-2ヶ月ほど前に)少し円売りドル買いをしましたが、どうも損することになりそうです(笑)
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