「金価格の歴史的上昇トレンド」が新興国から始まる
2018/07/31
最近の金価格の推移を、金市場に着目して振り返る。3ヶ月間下落を続けた金価格も、過去の動きと比較すれば反転間近だ。さらにドル建てでなく、新興国通貨建てで金価格を見ると、通貨安・高インフレに強い金の本領がすでに一部の国で発揮されている。金価格の上昇が「新興国→先進国」の順序で波及していくのだろう。
金投資・投機需要減トレンドが反転間近か
金市場目線では、ここ3ヶ月間の金価格下落は金投資・投機需要の減少によるものです。
短期の金価格に最も大きな影響を与えると考えられるのがNY金先物市場の大口投機家(ヘッジファンド等)の買い越しポジションです。
下図をみれが明らかなように、今年4月頃から現在まで大口投機家の買い越しポジションが減少を続けてきました。現在は過去と比較して大底付近にあります。
大口投機家の買い越しポジションの減少と並行して金価格も下落を続けてきました。
画像ソース: 第一商品
青棒:大口投機家の買い越しポジション
黄線:金価格
青棒の増減が金価格の変動を決めていることが明らか
青棒の大口投機家の買い越しポジションは大底付近です。
今後は底打ち反転し、それと並行して金価格も反転上昇しやすい環境にあります。
大底付近にあるのは金先物だけではありません。
世界最大の金ETFであるSPDRゴールドシェアの投資需要も今年4月末をピークに下がり続け、7月に大底に達しました。
現在は大底から抜け出しつつあります。
ここ3ヶ月の金価格下落の最大の要因である、ゴールド投資・投機需要の減少が近々解消される見通しなのです。
少なくとも短期的には、金価格は今後上昇しそうです。
夜長で広がる満天の「金の星空」
これだけでも金価格は今後上昇しそうな気がしますが、他にもポジティブ要因があります。
一つは金需要の季節性です。
金価格は2-7月ごろが下落基調で、8月-1月までは全体的に上昇基調という季節性があります。特に9月は金需要が大きく上昇する傾向にあります。
秋の終わりから冬にかけて、各国では次のようなお祝い事で金需要が増える傾向にあります。
- インド:結婚式シーズン到来
- 欧米:感謝祭、クリスマス
- 中国:旧正月
こうしたお祝い事での金需要増によりこれからは金価格が上昇しやすくなります。
特に9月は、こうした金需要増を見越して金価格が上がり過ぎないうちに金を購入する人々が増えるのです。
画像ソース: WORLD GOLD COUNCIL
「金価格の歴史的上昇トレンド」が新興国から始まる
もう一つの今後の金価格上昇要因、もっと重要な要因として考えられるのが、新興国通貨安・インフレ増による新興国における金需要の拡大です。
米国の金融引き締めやレパトリ減税により世界の資金が米国に吸い込まれる形となり、今年3月ごろから新興国通貨安が進んできました。
6月後半からはやや下げ止まった感がありますが、今後も米国の利上げ+量的金融引き締めや欧州が徐々に金融引き締めに動くことから欧米に資金が流れやすい状況が続きます。
また最近、日銀政策調整観測で世界の債券市場が揺れましたが、オーストラリアやケイマン諸島等の国債に日本からの資金が流れ込んでいるという報道が出てきました。
【2018/07/23 ブルームバーグ】日銀の緩和政策の微調整でも世界の債券市場に痛手か
先進国の金融政策次第では、
- いままで: 「新興国→米国」
- 今後: 「新興国→米国・欧州・日本」
という形で国際的にお金が動いていきそうです。
米国への資金の流れは減るものの、新興国から資金流出しやすい状況は変わらないだろう、新興国安はまだまだ収束しないだろうということです。
特に厳しいのが、トルコ、アルゼンチン、南アフリカといった対外債務に占める外貨準備が少ない国々です。
こうした国々では、今後「対外債務負担が急増⇔通貨安」という負のスパイラルが回り、金融危機がしばらく続くことになります。
画像ソース: Desjardins
黄緑棒、緑点、いずれも低い国ほど危険
特に緑点があまりにも低い国は、近いうちに対外債務の返済が困難となる可能性が高い
またインフレ率も今後上昇しやすいと考えます。
貿易戦争勃発で各国はサプライチェーンの変更に迫られ、スイッチングコスト上昇で輸入価格が上昇しやすい状況です。
米国とイランの対立でホルムズ海峡の封鎖という話も出てきており、エネルギー価格も高値圏を維持しそうです。
さらに海運業者に対する国際環境規制により世界の海運業者は硫黄化合物の排出量が少ない貨物船への多額の投資(業界全体で600億ドルとも言われる)が今後必要となります。
【2018/06/21 The Economist】A wave of new environmental laws is scaring shipowners
これが貨物輸送運賃に転嫁され、今後ますます輸入コストが増える懸念もあります。
これらの要因から、今後新興国(特に対外債務に占める外貨準備が少ない国、または輸入超過の国)では新興国通貨安、インフレ増の流れが続いていきそうです。
いずれの要因も短期で解決されるものではありません。新興国通貨安、インフレ増の流れは今後3-5年程度続くことも十分考えられます。
新興国通貨安、インフレ増となると、今後新興国通貨建ての金価格が今後大きく上昇することになります。
購買力が減少を続ける信頼できない自国通貨ではなく、ゴールド保有で資産防衛する動きが新興国で加速します。
実はもうすでに、通貨安やインフレ増が進んでいる新興国の中には、何年も前から金価格の上昇トレンドが続いています。
このトレンドが今後、さらに多くの新興国に波及し、ますます本格化しそうなのです。
画像ソース: GoldBroker
特に金需要に大きな影響力をもつ中国がどうも金融緩和の本格化へと舵を切り始めようとしていることは非常に大きな意味があります。
中国が金融緩和を本格化すれば、貿易戦争の影響にレバレッジが掛かり人民元安・インフレ増が進むことは必至です。
そうなると人民元建て金価格も大きく上昇するでしょう。
2016年2月以降、人民元建て金価格がダラダラと下げ気味で、中国人の金需要もやや減少傾向にありました。
しかし通貨安・インフレ増で金価格が反転上昇すれば、金価格の底打ち反転を待ち望んでいた中国人の金宝飾品、金投資商品の需要も伸びていくと考えられます。
上: 中国の現物金需要
下: 人民元建て金価格
2つの図をよく比較してみると、中国の金需要は人民元建て金価格が大きく下がり、近々底打ち反転するだろうと中国人が考えるときに大きく伸びることがわかる
さらに中国が金融緩和を通じて人民元安が進行すれば、他の新興国各国は中国との経済の結びつきを強めることで、過度な金融引き締めをせずとも経済を立て直せる環境が整っていきます。
同じ通貨下落仲間同士で経済連携すれば、為替変動による経済の不安定化を抑制することができるためです。
そうなれば、少なくとも対外債務の少ない新興国各国は米ドルとの為替の拡がりを気にすることなく、景気建て直しのために金融緩和しやすくなります。
そうなれば、ますます金価格も上昇に転じることでしょう。
「金価格の歴史的上昇トレンド」が、新興国からいよいよ始まるのではないでしょうか。
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