ホルムズ海峡封鎖?短期的なエネルギー価格見通し


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ホルムズ海峡封鎖?短期的なエネルギー価格見通し

2019/07/02

 

 今回は短期の原油価格、天然ガス価格に対する個人的な見通しを示します。

 

 イランの核開発をめぐり米国とイランの外交的、軍事的な緊張が急速に高まり、一部には中東産原油の供給懸念の声も出てきています。

 

 また先のFOMCの公表内容を受けて市場のFed利下げ期待が急速に高まり、株式、債券、コモディティなどの価格が一斉に上昇しました。

 

 直近の報道だけみるとエネルギー価格はなんだか上昇しそうな雰囲気ですが、実際のところはどうなのでしょうか。

 

[アボマガ No.78]短期的なエネルギー価格見通しと銘柄レビューの記事(一部)です。2019/06/25に配信したものです。

 

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原油価格:短期的には供給ショックよりも需要減が心配

 原油価格をみてみます。

 

 WTI原油価格は昨年末のクリスマスごろの1バレル42ドル台を底に上昇し、4月後半には1バレル66ドル程度に達しましたが、その後6月12日まで下落し1バレル51ドル台になりました。

 

 13日のオマーン沖での石油タンカー2隻への攻撃を受けて、地政学な石油供給リスク高まりへの懸念から原油価格は反発し、現在は1バレル57.75ドルです。

 

画像ソース: Finviz

 

 原油価格は米国株の値動きと同じように動く傾向があり、ここ1年間もそのような傾向を示してきました。4月後半から5月終わりごろまでの原油価格の急落も、米国株安と連動しました。ただ下落率は原油価格が圧倒的に大きいものでした。

 

 5月27日以降は米国株は反発し過去の最高値を更新しましたが、原油価格は6月12日まで軟調に推移しました。その後原油価格も反発したものの、米国株と比較するとこれまでの下げが大きすぎて戻り切れていません。

 

 オマーン沖での石油タンカーへの攻撃を皮切りにイランと米国の対立が激しさが増したことや、Fedの利下げ観測の高まりを受けて原油価格はポジティブに動くようになりましたが、その伸びは我々が抱く印象よりも不十分なものにとどまっています。

 

画像ソース: StockRover(有料サービス)

 

 現在の原油市況は、やはり需要面に対するネガティブな見通しが重しになっています。昨年10月以来、米中貿易戦争の激化で原油需要の1/3超を占める米中経済を含め世界経済が失速し、原油需要も減るだろうとの見通しが現在まで続いています。

 

 最新のOPECの月次レポートを見ても、原油需要は短期的に落ち込むとの印象を受けます。

 

 今年第1四半期の原油需要は日量9876万バレルでしたが、OPECの前月における予測値を日量29万バレル下回ってしまいました。

 

 今年1月のOPECの月次レポートでは、今年の世界の原油需要は日量1億バレルを超え、前年比で1.32%の需要増となるものでした。

 

 しかし最新のOPECの月次レポートでは、今年の世界の原油需要は日量1億バレルを下回ると下方修正されており、伸び率も前年比1.14%になるとしています。

 

 第1四半期の原油需要がOPECの見通しを下回ったのは、3月に米国の貨物輸送におけるガソリン需要が急減したことと、韓国の工業需要の落ち込みによるものです。

 

 ※下図をみると第2四半期以降は欧州の原油需要の見通しの数字が上方修正されていますが、これは2017年の原油需要を上方修正した統計上の調整であり、欧州の今後の原油需要見通し自体をOPECが引き上げたわけではありません。

 

画像ソース: OPEC

 

 深刻なのは韓国の工業需要の落ち込みです。これは韓国の石油化学メーカーが一時的に工場を閉鎖し稼働率が落ち込んだためです。

 

 ・・・

 

 韓国や日本などのアジアの石油化学メーカーは中東産原油に依存しており、中東情勢次第ではサプライチェーンの見直しも迫られますから、短中期的に厳しい状況が続く可能性があります。

 

 

 OPECの今年の原油需要見通しは、米国、中国、インド、欧州の需要が伸びる一方、アジア太平洋地域の需要が減るというものです。

 

 ただ、欧州の鉱工業生産や受注状況は悪いですし、世界の自動車メーカーは自動車販売ペースを急速に落としているようです。

 

 米国では2017年終わりごろからトラック輸送の需要が下げ止まらず、需要の少なさやトラックの空き容量の多さは2016年以来の悪い水準にあります。5-6月はここ20年で最も閑散とした期間だったというトラック運送会社の声もあります。

 

 ・・・

 

 世界経済の大幅な減速という見通しはOPECの現在の原油需要見通しに織り込まれていません。今後の世界経済の動向次第では、原油需要がOPECの予想をさらに下回る可能性は十分考えられます。

 

 そうなれば、原油価格は短期的に急落することでしょう。

 

ガス価格:需要面、供給面ともに期待できず軟調な推移が続くか

 原油以上に価格下落が著しいのが天然ガスです。

 

 米国ヘンリーハブ天然ガス価格は昨年11月ごろに先物投機家の急激な買いにより一時100万BTUあたり4.8ドル台をつけましたが、一時的な高値はすぐにしぼんでしまいその後はダラダラ価格下落が続いてきました。現在は100万BTUあたり2.27ドルしかありません。

 

 

 米国の天然ガス価格が下がっている理由は単純で、米国で供給が需要を上回りガスの在庫が増えているためです。

 

 欧州の天然ガス価格はさらに下落しています。昨年9月から今年5月まで9ヵ月連続で下がりました。米国からのLNG輸入が急増しているほか、この前の冬が温暖だったアジアではの天然ガス価格が下がり、欧州がアジアからのLNG輸入を増やしたためです。(→欧州の天然ガス価格)

 

 欧州は米国からのLNG輸入を急増させていますが、その背景には政治が絡んでいます。

 

 昨年の7月11日、米国務省がロシアとドイツの間で建設が計画されている天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」へ投資する西側企業に対し、制裁対象となる可能性があると警告しました。

 

 その後2週間後の18年7月25日、欧州委員会のユンケル委員長とトランプ大統領は、エネルギーに関する戦略的協力で合意し、EUは米国産LNGの輸入拡大を事実上約束したのです。
[2019/05/02 欧州委員会]U.S. liquefied natural gas exports up by 272% as EU and U.S. host High-Level Business-to-Business Energy Forum

 

 18年9月から米国の欧州向けLNG輸出の本格化が始まり、2019年3月は、米国産LNGの欧州への輸入は14億立方メートルを超え、過去最高となりました。現在、欧州はアジアに引けを取らない、米国の主要なLNG輸出先となっています。

 

 <余談>トランプの経済制裁を武器とした強硬な外交の本質が、エネルギー輸出拡大による貿易収支の改善にあることを裏付けています。現在の対イランへの強硬姿勢や両国間の軍事的緊張の高まりも本質も同じでしょう。

 

画像ソース: EIA

 

 ・・・

 

 需要と供給面に着目すると、短期的に原油価格も天然ガス価格も下がるものと見られます。原油は主に需要面の弱さ、天然ガスは需要面の弱さと供給の多さというダブルの理由です。

 

 米国とイランの対立が激しさを増す中、ホルムズ海峡封鎖という地政学リスクの顕在化を心配する声も一部には出てきていますが、いまのところはあまり気にしなくて良いのだろうと思います。

 

 ホルムズ海峡封鎖はイランの輸出入に深刻な影響を与えかねない、イランにとっても諸刃の剣ですから。

 

 ホルムズ海峡封鎖が起こるにせよ、それは世界経済が減速し通貨安や高インフレ下にあるイラン経済もますます困窮化する、換言すればエネルギー価格が大きく下がったあとである可能性が高いものと考えます。

 

 短期的には主に需要面の減速を理由に、エネルギー価格が下がる可能性が高いとみます。エネルギー価格が下落するときの勢いはすさまじく、リーマンショックの年である2008年は1バレル145ドル台の原油価格がたった5ヵ月ちょっとで1バレル33ドル台にまで暴落しましたから、油断しないほうが良いでしょう。

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