
米国債しか頼れない日本、アジア国際金市場を着実に発展させている中国
2017/02/17
【2017/02/16 日本経済新聞】米国債保有、9年ぶり日中逆転 変わる三角関係 2016年末時点
2016年末の米国債保有額で、日本が年末時点としては9年ぶりに首位になった。2008年のリーマン・ショック以降、中国が年末時点の保有額でトップを維持してきたが、日本が逆転した。中国が人民元の急落に歯止めをかけようとドル売り・元買いを繰り返し、米国債を減らしたことが主な理由だ。米国債を巡る日米中の「三角関係」が変わりつつある。
米財務省が15日発表した2016年12月の国際資本統計(対米証券投資動向)によると、日本の保有額は前年末に比べて2.8%少ない1兆908億ドルだった。2年連続で保有額を減らしたが、中国の減少幅の方が大きかった。中国の保有額は前年末比15.1%減の1兆584億ドルだった。
中国の保有額が大きく減った理由は、人民元の相場を下支えするためだ。外貨準備として保有していた米国債を売却し、ドル売り・元買いの為替介入の原資にあてていたことが大きい。
中国は元安ドル高の動きと平行して米国債を売却してきましたが、一方で金準備は増やし続けてきました。
下図は2000年末から2016年末までの日本と中国の金準備額の推移です。日本はこの間まったく金準備に変更はありませんでしたが、中国は金準備を増やしてきており、特にリーマン・ショック以降に金準備を大幅に増やしてきました。この間中国は金準備のネットでの売却は一度もありません。
2000年末には中国の公式の金保有量は14位でしたが、2009年には金保有量で日本を抜き、2017年2月現在で6位となっています。日本は9位ですが、中国とは2倍以上の差を広げられています(順位にはIMFも含む)。
ソース:World Gold Council(ソース1、ソース2)
他には例えばロシアやカザフスタンも金準備を着実に増やしてきました。ロシアの金保有量は中国に次いで7位です。
中国が金準備を大きく増やしてきた期間と平行して、中国は21世紀以降、上海の国際金市場を発展させてきました。
2001年3月に中国人民銀行(中国の中央銀行)がそれまでの金市場の管理独占を終了すると発表したことを皮切りに、同年には中国金協会(CGA)の創設、2002年に上海金取引所(SGE)、2008年に上海先物取引所(SHFE)、2014年に上海国際金取引所(SGEI)が開設され、人民元決済の国際金市場が着実に発展してきました。
2016年1月からは中国の銀行を主なメンバーとした、全16行によるインターバンク金取引も始まっており、中国国内の金流動性を高めて上海金市場の国際的信用のさらなる形成に努めています。
またロンドン、シカゴ、香港の金市場との業務提携も順次始まっており、人民元決済のアジア国際金市場としての地位は確実にあがっているように見えます。
金の取引量はまだまだ世界最大のコモディティ先物市場であるアメリカ・シカゴのCOMEXには及ばず、2015年の中国の上海金取引所(現物)と上海先物取引所(先物)を合わせた売買高はCOMEXの1/3程度です。
とはいえ2013年あたりから売買高は大きく増えています。下図は上海金取引所の売買高の推移を表していますが2013年から大きく増えていますよね。ちなみに上海金取引所は現在、世界最大の金現物取引所です。
画像ソース:BullionStar.com
ここ最近は香港からだけでなく、スイスから中国への金輸出も増えてきており、国際的な金サプライチェーンが出来てきているようです。何だか17-18世紀頃に欧州から中国に大量の銀が流入してきた時代のような趨勢に長期的になる可能性も否定は出来ないのかもしれません。
画像ソース:BullionStar.com
以前の記事で中国が人民元国際化に向けた動きを進めていることをチラッと話しましたが、その中には人民元決済の国際金市場を発展させて、金取引の活性化を通じて人民元の国際的な信用を高める戦略が大きな位置を占めているものと思われます。
中国は米国債の外貨準備を減らしており、これは今後中国の経済・金融にも何らかの大きな影響を与える可能性がありますが、一方で仮に米ドルが唯一の基軸通貨としての地位から陥落した後の新しい金融システムに向けた準備も着々と進めていることは無視することはできません。
将来を見据えた動きを21世紀以降着実に進めてきた中国、米国債に頼ることしかできない日本。金融面でのお互いの動きを見ていると、現在の両国の自立度が良くわかりますし、将来のアジアの国際的な地位を暗示しているように思えます。もちろん良い悪いは別にして。
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