米上場廃止?中国株ADRの行方

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米上場廃止?中国株ADRの行方

2020/05/25

 

 今回は深刻さを急速に増している米中関係についてです。

 

 米中対立に新たに「資本戦争」という争いが加わり、米上場中国企業の廃止につながる法案が米上院で可決しました。

 

 この法案の中身、提出された背景、米上場中国企業が利用する「独自の仕組み」についてお話しし、仮に法案が成立した場合に中国がどのような対応を取り、米上場中国企業のADRの行方はどうなるのかについて考えていきます。

 

[アボマガお試し版 No.122]VIEスキームと中国株ADRの行方の記事(一部)です。2020/05/25に配信したものです。

 

 

会計監査状況の検査に応じない米上場中国企業を追放へ

 これまでの米中対立は貿易戦争とテクノロジー・知財をめぐる争いでした。

 

 しかし最近、米中対立に「資本戦争」という新たな争いが加わりました。

 

 最近米国は、公的年金基金による中国株式への投資を許可しないことを決定しました。

 

 保守的な米国のシンクタンクは、世界最大の資産運用会社のCEOに、米国に上場している中国企業137社の保有を売却するよう要請しました。

 

 こうしたなか、資本戦争の象徴的出来事として、中国企業の米国での上場廃止につながる動きが急速に強まりました。

 

[2020/05/20 日本経済新聞]米ナスダック、中国勢のIPO制限へ 米中対立飛び火

 

 米取引所大手ナスダックは新規上場ルールの厳格化に乗り出す。海外企業は新規株式公開(IPO)時に、最低でも2500万ドル(約26億円)、または時価総額の25%相当の金額を投資家から調達するよう義務付ける。監査状況についても新たな審査基準を設ける。事実上、中国勢の米上場を制限する内容だ。トランプ政権や対中強硬派の議員が監視強化を求めており、取引所も対応を迫られた。

 

[2020/05/21 日本経済新聞]中国企業、検査拒否なら米上場廃止 上院が法案可決

 

 米上院本会議は20日、米国に上場する外国企業に経営の透明性を求める法案を可決した。外国政府の支配下にないことを証明するよう求めるほか、米規制当局による会計監査状況の検査を義務付ける。3年間、検査を拒否した場合は上場廃止となる。中国企業の「締め出し」につながりかねない内容で、米国の対中強硬姿勢が一段と強まる。

 

 前者は小企業が対象なので影響はそれほど大きいとは思えませんが、後者はすべての米上場中国企業が対象となるので、インパクトは相当大きなものとなり得ます。

 

 後者の上院が可決した法案について、数々のニュース記事を見ると情報が錯綜しており、「会計監査状況の検査の拒否」が問題なのか「外国政府の支配下にあること」が問題なのか、本質が掴めませんでした。

 

一次ソースから法案のサマリーを確認すると、次の内容となっております。

 

  • 米国監査当局が、企業の会計監査を担当する会計事務所が作成する指定した報告書を検査できない場合、当該企業は外国政府によって所有またはコントロールされていないことを示す証明書を作成しなければならない
  • 米国監査当局が、企業の会計監査を担当する会計事務所を3年連続で監査できなかった場合、当該企業は米国の取引所から上場廃止となる

 

 よって上院が可決した法案の本質は「米国監査当局による会計監査状況の検査」の方にあります。

 

 サマリーを読む限り、検査に応じ、中身に問題がなければ、外国政府によって所有またはコントロールされている企業であっても上場廃止対象とはならないようです。

 

 共和党・民主党問わず反中で一致していますから、法制化される可能性はかなり高いでしょう。

 

 ただ、いつ法制化されるかは不明です。下院での投票時期は未定ですし、外国政府によって支配されていないことの証明に関するルールを米証券取引委員会が定める必要があるためです。

 

 

 引用した2つのニュース記事を併せると、米国内で「会計監査状況の検査に応じない中国企業を米国市場から追放する」流れが急速に強まっていることになります。

 

 この背景には、中国が米国からの会計監査状況の検査要請を長年拒み続けてきたなかで、米上場中国企業の不正会計の発覚が相次いでいることがあります。

 

 米上場中国企業の監査体制について、次の特徴があります。

 

  • 米上場中国企業は、実際の会計監査は中国企業が本社を置く中国で行う
  • 大手の監査法人は、現地の中国法人に監査を任せる体制を取っている
  • 中国の監査法人監督機関は、独立性を有する欧米とは異なり、政府直属である
  • 世界各国の監督機関が加盟している国際機関(IFIAR)に中国は参加していない

 

 米上場中国企業に対する会計監査システムは、中国共産党政府や利権を握る共産党員たちの意向に沿った恣意的なものとなり得る構造となっているわけです。

 

 2011年6月にカナダに上場していた中国の木材会社の不正会計が明らかになり、ここから中国企業の不正が相次ぎ表面化しました。同年の証券集団訴訟の11%近くが中国企業でした。

 

 米証券取引委員会(SEC)や米公開会社会計監査委員会(PCAOB)は中国に対し、PCAOBによる米上場中国企業の監査状況の検査に応じるよう求めてきました。

 

 しかし中国は帳簿などの詳細な監査資料について、国外へ持ち出すことを法律で禁じており、これを盾に中国政府は米国側の要求を拒み続けてきました。

 

 2014年にアリババがNYSEに上場してから、成長著しい中国企業の上場を米国投資家が歓迎したため、不正会計問題追求の空気はしぼみました。

 

 同時に、2018年まで中国のインターネット会社等の米上場が進んでいきました。

 

 SECによると、現時点でPCAOBが監査できない米上場企業は全部で224社、時価総額合計は1.8兆ドルあります。

 

 しかし米中対立の激化や、最近米上場中国企業であるラッキンコーヒーとTALによる売上高水増しの不正会計が発覚したことで、中国企業の米上場廃止への動きが急速に強まったのです。

 

不正会計と「VIEスキーム」

 中国民間企業の米上場では、必ずと言ってよいほど「VIEスキーム」と呼ばれる手法が利用されます。アリババ、テンセント、バイドゥ、JD.com、みなVIEスキームを使っています。

 

 ...(お試し版は省略。アボマガ・エッセンシャルにご登録されると、残りの重要な情報をご覧になれます)

 

中国株ADRの行方

 ・・・

 

 上の見方通りに進展した場合、ババを引くのはVIEスキームを利用している中国企業のADRを保有する投資家たちです。

 

 中国当局の一声でVIEスキームが違法となり、下図の契約関係が切断されれば、外国人投資家は単にペーパー会社を保有するにすぎなくなります。

 

 彼らが保有するADRはただの紙切れとなるわけです。

 

 アリババ、テンセント等のADRを保有している方々は、くれぐれもご注意ください。

 

 早速、バイドゥがナスダック撤退を検討し始めているとの報道が出ています。同じくナスダックに上場する中国ゲーム大手のネットイースはすでに香港取引所への上場を申請し、6月にも上場となる見通しです。

 

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