System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-

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System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-

   意識的に物事を考えるときに働く心理であるSystem2。 しかしこちらの記事で紹介したように、System2は消耗品です。 System2を使えば使うほど頭の負担が増して、頭の中のライフが落ちていき、だんだん意識的に物事を考えられなくなります。


   こうしたことから、私たちはSystem2を使うことに毛嫌いしてしまいがちです。 元々私たちは怠け者ですから、仕事のように強制的にSystem2を使う状況以外では、わざわざ頭に負担を掛ける行為はしたくないものです。


   しかしSystem2を使わないのはもったいないです。 何故なら、System2を使えば使うほどSystem2をエコに使えるようになるからです。

System2を使えば使うほどエコに使える

   System2を使えば使うほどエコに使えるとは、System2を働かせて意識的に考えることを積極的に行っていけば、だんだんと意識せずとも頭の負担を減らして思考、行動ができるようになるということです。


   この状態になりさえすれば、考えたり行動することが苦でなくなり、仕事なり勉強なりを積極的に、半ば趣味のように捕らえる事だってできるようになるのです。


   System2を使えば使うほどエコに使えることは、おそらく皆さん気づいていることです。


   例えば読書を始めたころを思い出してみてください。 全く読書をしなかった人間が急に読書を始めると、最初はまったくスムーズに読めません。


   読書に慣れていないため、一言一句しっかりと文字を追って読もうとします。 すると数十ページ読むだけで頭が相当重くなってしまいます。


   一言一句文字を追おうと意識的に、ゆっくりと読むためSystem2がたくさん働いてしまうものです。 そのためSystem2を使うためのライフが一気に減ってしまい、ちょっと本を読んだだけですぐに疲れてしまいます。


   しかししばらく読書を続けていくと、だんだん読書にも慣れてきて以前よりもスピーディに読むことができるようになりますよね。 もちろん内容を理解しようという意識は働いていますが、それでも以前よりは圧倒的にスムーズに読めるようになっています。 数十ページ読んでもまだ頭は疲れず、100ページ以上読むことだってできるようになります。


   こうしたSystem2をエコに使えるようになる性質は、他の領域でも共通しています。 英語を勉強するとき、投資を始めるとき、新しい仕事を始めるとき、何でもそうです。 最初は大変でも、慣れれば英語の勉強だって仕事だってスムーズにできるようになっていきます。


   実際、何か新しい物事を取り組むときには必要な脳の領域が多いですが、慣れてくればなるほど、必要な脳の領域もやり始めた頃に比べて減ることが知られています。


   そう考えると、System2を意識的に使うことが面倒などと考えるのは非常にもったいないことです。 System2を積極的に辛抱強く使っていけば、新しいスキルや思考は得られるわ、積極的に考えて行動していくことが楽しくなるわで加速度的に自分の能力を高めていけるわけです。


   継続的に多少の負担もいとわずに意識的に思考、行動することが出来るかどうか。 ここが将来の自分の立ち位置を決めるといっても過言ではありません。

やり始めは大変であることを織り込まなくてはいけない

   しかしSystem2を使えば使うほどエコに使え、将来の自分の立ち位置を決めることになり得るといっても、人によっては中々納得できないかもしれません


   それもそのはず、そういう人はいままで人生の中で何か一つでも数年にわたって努力してきた経験がないので想像することができないのです。人間は直感に反することは「知らなければ想像できない」ものです。 人間は嫌なこと、苦痛に感じることを直感的に避けてしまいますから、「継続して努力する」なんてワードを聞くだけで思考停止してしまうのです。


   そういう人はどうすれば三日坊主にならずに継続的に意識的な思考、行動をすることが出来るようになるでしょうか。 そのためには、やはり一つの現実を肝に銘じておく必要があるでしょう。


   肝に銘じなければならない現実とは、何事も新しいことを始めるときに「どの分野もやり始めは大変である」ことです。


   残念ながら誰だって共通して、どの分野もやり始めのときは大変です。 何故ならやり始めはその分野について何も知らないので、直感や想像力を発揮することができないからです。


   ある程度の知識が頭にあれば、そこから無意識にSystem1を働かせてアイデアが思い浮かんだりどういった行動をすればよいのかが直感的にわかるようになります。 System1をうまく働かせられるとCognitive Easeという心地よさも得られるので、ポジティブな気持ちを持ってさらに前へ進んでいきやすくなります。


   しかし"頭の中に目に見える"情報がない段階では、無意識のうちに考えたり想像したりすることはできません。 教養や技術など、本能的に全く備わっていないものを最初からSystem1で無意識のうちに楽に引き出すなんてできないのです。


   System1で対処できないのであればSystem2を使って意識的に考えるしかありません。 こうして最初はSystem2への依存度がどうしても高まってしまうので、何事もやり始めはどうしても負担が大きくなってしまうのです。


   私も数学、英語、投資、そして本サイトの作成は年単位で取り組んだり取り組んできましたが、どれも最初の数ヶ月-1年くらいは特に大変でした。 中々コツがつかめず、必死に頭を働かせながら何とか少しずつ覚えたり慣れていったりしたものです。


   私は東工大の院卒ですが、これを聞くと人によっては「東工大の院卒だったら何をやってもすぐできるようになるだろ」と思われる方もいるかもしれません。


   残念ながらそんなことはありません。 面倒になりながらもSystem2を使って意識的に思考、行動を繰り返してきただけに過ぎません。 学歴や生まれつきの能力は関係なく、「面倒なことの継続」をどれだけ出来るかどうかだけが問題なのです。


   よって何事もやり始めのときは、誰だって大変であることを当たり前のように理解してください。


   この厳しい現実を受け入れて、何か物事を行うときに継続的にSystem2を意識的に働かせる癖をつけておきましょう。 そうすれば数ヶ月、数年経つにつれてだんだんと頭の負担が減っていき、同時にアイデアがだんだん自然と湧き上がるという光の差し込む新境地にたどり着けることでしょう。

最初の数ヶ月を乗り越えるためのコツ

   最初の数ヶ月を乗り越えるためのコツについてちょっとだけ。


   最初は質や効率は無視して、とにかく量をこなすことが大切だと考えています。 細かい部分は深追いせず、量をこなしてとにかく慣れることを優先させるのです。


   というのは人間には、ただ繰り返すだけでだんだんと好意的になるという単純接触効果という性質が備わっているからです。


   System2を使って考えることはもちろん重要ですが、最初からすべてを理解しようと頑張りすぎるのはさすがに大変です。 適度にSystem2を使いつつ、最初は完璧を求めずに量をこなすことに力を注ぐのがおすすめです。(→詳しくはこちら)


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