想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
今回は想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりが存在することについて話します。
私たち人間はリスクを正確に把握することがとてつもなく苦手な生き物です。 リスクをどのくらいリアルに感じられるか、そういう何の根拠もないフィーリングによって無意識のうちにリスクを捉えているのです。
その結果私たちは色々なリスクを比較する際に、本当はリスクが小さいものをリスクが大きいと勘違いしてしまったり、逆にリスクが小さいと思っていたのに実際はリスクが大きいなんてことがよくあります。
※「可能性」、「リアルさ」という用語は独自の意味合いで使用しているのでご注意ください。 それぞれの意味についてはこちらをどうぞ。
想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
私たちが想像するリスクと実際のリスクとの間にどれだけの乖離があるのかを、具体例をあげてみていきましょう。
問題です。 交通事故による死亡者数と糖尿病による死亡者数とではどちらの方が多いでしょうか。
この問題を見てどのように思いますか。 直感的には交通事故による死亡者数の方が多いように何となく思いませんか。
交通事故の方が糖尿病よりもより身近に感じられますし、テレビや新聞でも交通事故死のニュースは時折大々的に報道されますが、糖尿病による死亡のニュースが大々的に報道されるなんて普通ありません。
しかし実は交通事故よりも糖尿病による死亡者数の方が多いのです。 平成23年の交通事故による死者数は4,611人でしたが(ソース:警察庁)、同じ年の糖尿病による死亡者数は14,664人でした(ソース:厚生労働省)。
糖尿病による死亡者数の方が交通事故死者数よりも多いことはおろか、なんと3倍以上もの大差を引き離していたのです。 これには驚いた方も多いのではないでしょうか。
もう一つ同じような質問をしましょう。 テロによる死亡者数とHIV感染による死亡者数とではどちらの方が多いでしょう。
多くの人はやはりテロの死亡者数の方が多いと思われるかもしれません。 しかし実はHIV感染による死亡者数の方がテロによる死亡者数よりも多いのです。 しかも圧倒的に。
米国のテロ問題研究団体によると2012年の全世界のテロによる死亡者数はおよそ15,550人とのこと。 しかし同じ年のHIVによる死亡者数は何と推計170万人(ソース:国連合同エイズ計画)。 100倍以上もの差をつけているのです。
ここまでの大差はまさにびっくりされた方も多いのではないのでしょうか。
びっくり、驚きという感情はあなたの頭の中にある世界観とのギャップが激しいほど大きくなるもの。 つまり私たち人間がもつ想像上の、感覚的なリスクは、実際のリスクとはまるでかけ離れているものなのです。
想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりが生じる理由
それでは何故私たちが想像するリスクと実際のリスクとの間にはこんなにも大きな隔たりが生じる場合があるのでしょうか。
理由はこちらの記事で「可能性をリアルさで捉えてしまう理由」と同じです。 つまり「リスクを想像のしやすさ、鮮明さといったリアルさで捉えている」からです。
リスクというのは可能性と同様に抽象的で漠然とした概念であり、正確に捉えるのが困難なものです。 というのはリスクも結局は「害を与える可能性」を考えなければならないからです。
私たちは抽象的な概念や言葉を無意識のうちに無視し、具体的でより鮮明なものに置き換える傾向にあります。 リスクという抽象的な概念を、リアルさという直感的なものに無意識のうちにすり替えているのです。
こうして上の2つの例で見たように、リスクを統計的な数字といった客観的な情報ではなく、ニュースなどによって頭に刷り込まれたリアルさから来る恐怖心によってリスクを捉えているのです。
関連リンク
・可能性やリスクに対するリアルさを決める要因についてはこちら
→リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
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