3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
今回は人間に生まれつき備わっている連想能力、プライミング効果を生かして財務諸表の基本を連想によって記憶してしまおうという企画です。
財務諸表は会計士や経営者、投資家などはもちろん読めたりしないといけません。 しかし資本主義社会ではお金の流れが世の中を理解するための基本です。 そのため財務諸表を読めることは世の中をちゃんと理解するための強力な武器となります。
しかし財務諸表を一から勉強しようとしても、買掛金とか引当金とか難しい言葉がいっぱい出てきて何がなんだかさっぱりわからないもの。
そこでそんな財務諸表を、ちょっとしたツボを連想によって理解しちゃいましょうというのが今回の目的です。 これから説明するイメージを連想できるようになれば、今後財務諸表をより詳しく勉強するときに的を得た自然な連想がどんどん生まれてくると思います。 その結果よりみなさんの勉強がはかどればいいな、そう思っています。
本記事ではほとんどの財務諸表の説明で行われている、財務諸表の構造を事細かに説明するような方針はとりません。 売掛金とか減価償却、繰延といった難しい言葉は一切使いません。
そうではなく、次の二つの方針のもとで説明します:
- 財務諸表の最も基本となる部分とは何か?
- 最も基本となる部分からどういうイメージを広げればよいか?
最大の目標は「財務諸表とは?」と訊かれたら「企業活動を表すもの」と即座に連想できるようになってもらうことです。 これだけ、ホントこれだけです。
そうした上で、あとは興味のある人は各自本格的に勉強してみてください。
財務諸表を理解する基本は「企業活動の流れ」にあり
財務諸表を連想によって真に理解するための一番のポイントは、実は財務諸表の外にあります。 財務諸表の理解で最も大切なのは企業活動の理解です。
どんな企業も必ず次の3ステップに沿ってビジネスを行っています:
- 資金を調達する
- 調達した資金を使って投資して資産をつくる
- 資産を使って利益を得る
そして利益を得ることが出来たら、その利益を投資に回してさらに資産を増やして、より多くの利益の獲得を目指します。
実は財務諸表を理解するための一番のポイントはこの企業活動の流れです。 「資金調達→投資→利益→資金調達→・・・」という企業活動の流れを数字(お金)によって表現したもの、これが財務諸表なのです。
上のイメージをぜひ連想できるようにしてください。 これさえ連想できるようになれば、次にこんなことを連想できるのではないでしょうか?
「企業活動の流れと3種類の財務諸表とはどんな関係があるのだろう?」
財務諸表には次の3種類が存在します:
- バランスシート(BS)
- 損益計算書(PL)
- キャッシュフロー決算書(CS)
ではこの3つがどういったものかを、企業活動との対比で簡潔に説明しましょう。 相当贅肉を削ぎ落したラフな説明ですが、ツボを押さえた説明になっています。
- バランスシート→資金の調達と、投資して得た資産を表すもの。つまり企業活動の1番目と2番目を表したもの
- 損益計算書→資産から得た利益と、負債によって失った損を表すもの。つまり企業活動の3番目を表したもの
- キャッシュフロー決算書→企業活動の1番目から3番目までの現金の流れを表したもの
連想で財務諸表が次のようなものであることが感覚的にわかってきました。
「財務諸表が企業活動の流れを表すもの」とさえ連想できれば、自然とここまで連想できるのです。 人間のプライミング効果ってすごい!
ここまでくれば次に連想するのは決まっています。 「上の図をもうちょっと具体的に理解したい!」
そういうわけで上の企業活動の流れと財務諸表との関係を、もう少し詳しく見てみましょう。
1. 資金を調達する
企業がまず行うのは資金調達です。 銀行等からお金を借りるか、株主から資金を得るかのどちらかによって資金を調達します。
調達したお金はキャッシュフロー計算書に入っていきます。 また借りたお金は負債として、株主から得たお金は純資産として、バランスシートの右半分に表現されます。
図で表すと下のようになります。
2. 投資して資産をつくる
今度は調達した資金を投資して資産、つまり"お金を生む機械"をつくる番です。 石油を運ぶ船、車を造る工場、こういったものが資産というわけです。
投資をするわけですから、手持ちのお金を使って投資するわけです。 つまりキャッシュフロー計算書にある調達した現金を使って投資をします。
そして投資をして得た資産はバランスシートの左半分の「資産」の欄に表現されるのです。
3. 資産を使って利益を得る
最後に資産というお金を生む機械から利益を得ます。 工場といった資産を使って車といった販売する製品を生み出し、お客さんに売ることで利益を得ていきます。
利益は現金のほかに、まだ受け取っていないが近いうちに受け取れるはずの「未来のお金」も含まれています。 「現金+未来のお金」が利益として、損益計算書に計上されるのです。
利益のうちの現金部分はキャッシュフロー計算書にも加えられます。
基本を理解してイメージの力を利用する
ここまで理解できればあなたは財務諸表を9割マスターしたといってもいいです。 あとは他のサイトなり本で、売掛金とか減価償却と言った細かな言葉や、経費とか利子とかを含めたより正確なお金の流れを学び、財務諸表のより深い理解に努めてください。
このときもいま説明したイメージは忘れずに。 上で使ったイメージを再掲しますので、これだけは連想できるようになってください。
このイメージを頭の中に思い浮かべながら学べば、さらに深く財務諸表を理解するための連想が自然と出来るようになると思います。 これがプライミング効果を生かした財務諸表を理解する方法です。
上のように基本的なことを連想できるようにして、あとはそこから細部を一歩一歩連想できるようにする。 これを財務諸表だけでなく、他の学習にも応用してみてください。 バカみたいに暗記しなくても、ふと連想によって無意識のうちにアイデアが浮かび上がる脳内体験が自然と出来るようになりますよ。
関連リンク
・英語は連想を自由自在に操ることで学習能率が一気にアップします
・プライミング効果は進化論的な意味があります
→人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
・プライミング効果は気持ちや行動にも無意識のうちに影響を与えるのです
→プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
・プライミング効果とは何か?
→プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
関連ページ
- System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
- System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-
- System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-
- Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-
- Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-
- System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-
- 複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-
- 時間の牢獄から抜け出すことのすすめ-時間を排除し心理負担をなくす-
- 人間の本質は余剰と無駄にある-効率化を求める風潮へのアンチテーゼ-
- 不安を紛らわすバカげた対処法-自分で自分を実況する-
- プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
- プライミング効果を英語学習に生かす
- 3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
- 人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
- プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
- 確証バイアス(Confirmation Bias)とは-自己肯定や社会肯定の根幹-
- 社会の末期では確証バイアスは我々を地獄に落とす
- 人間の行動は信じることから始まる?-自ら信じられることを能動的に探すことが大切-
- 人間の行動は信じることから始まる?-教養は人間社会で豊かに暮らすための道標-
- 確証バイアスと医者-誤診の裏に自信あり-
- アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-
- アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
- アンカリング効果の認知心理的プロセス
- アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
- ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
- 「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果
- 後知恵バイアス(Hindsight Bias)とは-不当な評価の温床はここにあり-
- 後知恵バイアス×権威とモラルの問題
- Cognitive Easeとは-System1が生み出す安らぎとリスク-
- 単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-
- 単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-
- 単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-
- 株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-
- 実力を運と勘違いする-慢心を防ぎ自らを成長させるための心構え-
- Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-
- 人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である
- No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-
- Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-
- Planning Fallacyとは-何故残念な計画が沢山存在するのか-
- 改善されないPlanning Fallacy-計画の目的はプロジェクトをスタートさせること-
- Norm理論とは何か
- 英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-
- 因果関係を知りたがる気持ちは生まれつき備わっている
- 人間は可能性をリアルさで捉えてしまう
- 想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
- リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
- 人はリアルさでリスクを評価する-地震保険加入比率で見るリスク管理の傾向-
- 人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-
- 平均回帰の無視-客観的事実を無視して直近を将来に当てはめる-
- 歯のケアと想定外-日常的なものからリスク管理を見直す-
- 帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
- 少数の法則とは何か-人は大数の法則を無視する-
- 少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
- 仮定がおかしな結果は無意味-統計結果に対する最低限の心構え-
- リスクとDomain Specificity-リスクを考える分野、考えない分野-
- 心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない
- 疑う気持ちが情報に対処するための一番の基本
- 終わりよければすべてよし
- 何故終わりよければすべてよしと考えるのかその1
- 何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
- System2からSystem1にもっていく