当たり前を疑え-心理が生むリスクを理解し不確実を楽しむ-

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System2からSystem1にもっていく

   以前の記事でも書いたように、各物事に対してSystem2を使えば使うほど、System2を使うためのエネルギーは少なくて済むようになります。 いわばエコに使えるようになるのです。


   しかしSystem2を使って意識的に物事を考えるメリットは、System2をエコに使えることだけではありません。 System2を使って得られた考えや知識が頭に刷り込まれれば、それら考えや知識をSystem1によってアクセスできるようになるのです。


   つまり自分の頭に新しく蓄えられた考えや知識を、無意識のうちに瞬間的に引き出すことができるようになるのです。


   例えば英語の学習を考えてみましょう。 最初は単語も何も分からず、聞くことも読むこともできません。 ましてや話したり書いたりすることはもうお手上げです。


   しかし単語をノートに書いて暗記したりフレーズを声に出して文章を読んでみたり、いろいろなことをしていくうちに頭の中に英語の知識が蓄えられたり英語の雰囲気を理解することができるようになります。


   するとどうでしょうか。 しっかりと頭に刷り込まれた単語やフレーズが空で言えたり書けるようになりますよね。 頭を全く使っていなくても、無意識のうちに瞬間的に単語やフレーズが出てくるようになります。


   このようにSystem2を使って意識的に物事を行っていき、新しい知識や考えを頭の中に刷り込ませていくとだんだんと頭が慣れていき、System1を使って無意識のうちに、瞬間的に引き出せるようになるのです。 これは人間が満足の行く人生を送る上でとても重要な性質だと考えています。


   私たちは特に意識的に考えなくても、人間らしい行動を取ることは出来ます。


   例えば相手の表情から相手の感情を読み取ることができます。 相手から何かものを受け取ると、嬉しいと感じ相手にお返ししたい気持ちが芽生えます。 何をやれば良いのか自分ではわからない状況でも、他の多くの人がやっていることを真似て何となくやり過ごすことができます。


   しかし人間にあらかじめ備わった考えやそれに基づく行動は、必ずしも合理的とは限りません。 前にも話しましたが、System1によって導かれる考えや行動はときによっては自分に不利益となる結果をもたらすことがあるのです。


   とても雰囲気のいい人がおいしい話があると言ってくれて、良い人だからと誘いに乗っかったら実は詐欺だったであるというのは典型例です。 また多数の人が絶賛株価上昇中のIT関連の株を買っているので、自分も乗り遅れないようにとその株を大量に買ったら、途端に株価が急落して大損をすることもあります。


   私たちが判断を行う際の判断材料は、System1によって簡単にアクセスできるものに限定されがちなのです。


   上の二つの不利益を被る例も「雰囲気が良い→良い人→騙すはずがない」、「みんなが買っている→良いに違いない」、「絶賛株価上昇中→これからも株価は上昇し続ける」という連想によってもたらされます。 このような連想もまたSystem1によって無意識のうちに行われているのです。


   こういうときに大事なのは常に疑う癖をつけることです。


   疑うのは意識的に行う必要があるのでSystem2を使う必要があります。 しかし疑うことも英語の勉強と同じように、疑う癖をつけていくとだんだんと意識しなくても勝手に疑うようになってきます。 つまりだんだんとSystem1によって自然と疑うようになるのです。


   例え最初から詐欺だとわからなくても、無意識のうちに「疑うモード」になれれば、その後はSystem2を使ってしっかりと詐欺かどうか見極めればよいのです。 System1によって自然と頭の中を「疑うモード」になれることが大切です。


   System1によって合理的な考えを無意識のうちに引き出せるようにするが大切な理由は、何も不利益を防ぐためだけではありません。 新しいアイデアを生み出すといった、自分にとってプラスに働くものをつくりだすためにも大切となってきます。


   新しいアイデアは、何も努力しないである日突然ひらめくようなものではありません。 考え、行動し、試行錯誤を繰り返すうちにだんだんと形成されるものなのです。


   つまりSystem2を繰り返し繰り返し使って自分の世界をちょっとずつ広げていった先に、先見的なアイデアといったものは存在するのです。 このような努力をした人にのみ、System1によって直感的に素晴らしいアイデアがひらめくための権利が与えられるのです。


   System2を使って努力をして、合理的でオリジナリティのある考えをSystem1によって直感的に引き出せるようにする。 そしてこの行動を滞りなく続けていくことが、満足のいく人生を送るためにとても大切だと思っています。

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