プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
私たちはSystem1を無意識に頭や心で働かせていることで、人間らしい感情、判断が行われています。 こうしたSystem1の性質の中で顕著な性質の一つとしてあげられるのが、人間の連想能力を表すプライミング効果です。
プライミング効果とは何か
プライミング効果(Priming effect)とは「一つの刺激が別の考えを生み出す」という人間心理がもつ性質のことです。 プライミング効果はSystem1の性質の一つ。 つまり無意識のうちに瞬間的に、反射的に頭の中で起こるものです。
プライミング効果が無意識のうちに心理で働いていることを最もリアルに感じるのは「10回クイズ」でしょう。 相手に「シャンデリア」と10回言わせた後に「毒りんごを食べて死んじゃったお姫様は?」と聞くと、相手は大抵「シンデレラ」と答えてしまいます(正解は白雪姫)。
シャンデリアと10回言ってしまうと、頭の中にシンデレラという言葉が嫌でも残ってしまいます。 そこで「毒りんごを食べて死んじゃったお姫様」と聞くと、すぐに有名な童話を連想します。 すると「シャンデリア+童話」という刺激が瞬間的に「シンデレラ」という連想を促してしまうのです。
上のプロセスは意識的に感じることなく、無意識のうちに行われますよね。 このように知らず知らずのうちに、System1によってプライミング効果が発揮されているのです。
他にも、例えばあなたがいま動物園にいると想像してみてください。 キリン、ライオン、パンダといった動物たちがエサを食べたりあちこち動き回ったり、寝てたりしています。
いろいろな動物を見ながら歩いていると、足元に何かカードらしきものが落ちていてそれを拾い上げました。 カードを見ると、次のように書かれています:
「文字を一つ埋めて言葉を完成させてください:コ○ラ」
このとき、私たちは最初に何を連想しますか? 大半の人は真っ先に「コアラ」を思い浮かべてしまうでしょう。 「コーラ」「コブラ」など他にも埋め方はありますが、それでも「コアラ」を真っ先に考えてしまうものです。
これも「動物園+コ○ラ」という刺激によって、瞬間的にコアラと連想してしまうプライミング効果の一種です。
プライミング効果を活かす努力をする
プライミング効果は単なるSystem1の性質の一種と考えるのはとてももったいないです。 何故なら、プライミング効果は私たちが賢くなる上でとても大切な能力だからです。
例えば学生時代に教科書に載っている問題やテストの問題を解くときに、初めて見た問題は中々簡単に解くことができません。 しかし繰り返し問題を解くことによって慣れていき、最後には問題を見ただけで解答が頭の中に自然と思い描けるようになるものです。 皆さんもご経験あることでしょう。
これは繰り返しによって「似たような問題を見る→解法を頭に思い描く」という瞬間的な連想が出来るようになることを意味しています。 まさにプライミング効果。
このように繰り返し頭を使って問題を解くという"意識的な行動"の積み重ねによって、プライミング効果が"無意識のうちに"上手く働いてくれるのです。
そう考えると、賢くなるためには次のような意識的な行動が大切なのかもしれません:
「プライミング効果を活かす努力をする」
プライミング効果を活かす努力? さてどうすればよいのか。
それは物事の"基本"をしっかり理解すること。 そして基本を起点にしていろいろと考えを巡らせられるようにする。 私はここが肝だと思っています。
例えば英単語を覚えるときに、語源を意識するとすっと理解できることがあります。
英単語を覚えようと勉強していると、たまに数多くの意味を持つ単語に出くわします。 その中で特に顕著なのが前置詞(of, in, asなど)です。 前置詞はいろんな使い方があって、全部の使い方を覚えようとしても中々覚えられません。
例えば前置詞の"as"。 「~として」とか、「~のときに」といった複数の意味があります。 これを一つ一つ全部覚えようとすると脳みそが悲鳴をあげてしまいます。
そこで語源を見てみましょう。 asの語源は「quite so」(まったくもってそうである、まったく一緒)です。
そう考えると「~として」とか「~のときに」といった意味が連想できませんか? 簡単な例文をあげましょう。
- I think of A as B.(AをBとして考える、つまりAとBは一緒)
- I noticed my cell phone left in my house as I left.(家を出たときにケータイを家に置き忘れていることに気が付いた、つまり「家を出る時間」と「忘れ物に気付いた時間」がまったく一緒)
asの語源を知っていれば、上の文章は「~として」とか「~のときに」といった、頭を使う和訳をしなくても何となく勝手にイメージできると思います。
語源を知っていれば、そこから連想することによって単語の意味を感覚で分かるようになります。 しかも暗記する量も圧倒的に減るので一石二鳥です。
これがプライミング効果を活かすための意識の仕方の一例です。
一を聞いて十を知る
非常に賢く理解力があることを、ことわざでは「一を聞いて十を知る」と言います。 一を聞いて十を知るって、まさにプライミング効果を上手に利用できている人だと思いませんか?
一つの知識を聞いて刺激を受けることで、いまある自分の知識や経験と瞬間的な化学反応を起こしていろんなアイデアが浮かび上がってくる、そんな人が一を聞いて十を知る人なわけですから。
プライミング効果は誰にでも備わっています。 よって誰にでも賢くなれる、素晴らしい人間になれるチャンスはあるのです。
いろいろなことに好奇心をもって、学んだり考えたり行動したり、そうした地味な行為を積み重ねて基本を身につけていくうちに、プライミング効果が上手く働いてくれる確率は高まってくれることでしょう。
プライミング効果を活かすも殺すも、あなた次第です。
関連リンク
・英語は連想を自由自在に操ることで学習能率が一気にアップします
・プライミング効果を生かして財務諸表の入り口を理解する
→3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
・プライミング効果は進化論的な意味があります
→人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
・プライミング効果は気持ちや行動にも無意識のうちに影響を与えるのです
→プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
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