株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-

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株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-

   繰り返し何かを行ったり何かに触れたりするなど、様々なことでCognitive Easeという心理的作用が働いて頭の中が安らぎに満たされます。


   しかしCognitive Easeが働き続けると、だんだん頭の中がCognitive Ease祭りになって判断が直感的になっていきます。 人間の直感はしばしば間違いを生み出すもの。 これにより油断が生まれて知らず知らずのうちに失敗に晒されるリスクが高まっていきます。


   Cognitive Ease祭りによってリスクを増やしてしまう典型的な領域は投資の分野です。 株価や為替といった変動チャートを繰り返し見ることで、知らず知らずのうちに株価や為替を見たくて見たくてたまらなくなります。


   すると心理的にも直感的で感受性豊かになり、損に対する心構えが脆弱になります。 そのためいざというときにあたふたしてしまって、間違った愚かな判断をしてしまい兼ねないのです。

株価を見続けるとCognitive Ease祭りが起こる

   私たちが株式投資を行うときに一番気になってしまうのが株価です。 理由はもちろん、株価の変動によって私たちの資産が決まってしまうからです。


   ITが発達してから、株価の変動をリアルタイムにいつでも確認できるようになりました。 空いている時間があればいつでも株価を確認できるというのは利便性の向上という観点では素晴らしいことです。


   しかし一方で株価を確認しやすくなったことは精神衛生上の観点からは最悪です。 何故なら株価に晒されすぎることによって、頭の中がCognitive Ease祭りになって中毒症状に掛かってしまうからです。


   私たちが考えなければならないことは単に株価を見続けるだけでも、単純接触効果によってCognitive Easeが働いてしまうことです。 これによってただ何回も株価を見ているだけで、株価を見ることが癖になってしまいます。


   人間、長い間変化の少ないものを見ているとだんだん飽きてくるものです。 しかし残念ながら株価は常に変動しています。 時に5%、10%、それに20%以上の増減だってあるもので、こうしたダイナミックな変化は私たちの興奮を刺激します。


   つまり飽きる要素がないのです。 だから株価を見続けても飽きは来ず、むしろ単純接触効果によるCognitive Easeが働きまくって見れば見るほどやめられなくなっていってしまいます。


   さらにもしも購入した銘柄の株価が上昇すれば、Cognitive Ease祭りはさらにヒートアップします。 場合によっては「自分天才なんじゃない?」なんていう自信を生み出し、これもCognitive Ease祭りに拍車をかけます。


   単純接触効果、株価の上昇、自信、これらが複雑に絡み合って知らず知らずのうちにCognitive Ease祭りが大盛況を迎えてしまうのです。 そして一歩引いて冷静に考えるのが苦手になり、直感的に考えるモードになり、感受性豊かになっていくのです。


   こうして気分が高揚しているときに株価が暴落したらどうでしょうか。 感受性豊かになっているので損に対する心構えができておらず、暴落に対するショックをまともに受けてしまいます。 しかも人間は損に対しては得以上に過剰に反応する生き物です。


   つまりCognitive Ease祭りによって感受性が豊かになり過ぎている状態だと、暴落したときの心理的ダメージは想像以上に凄まじいのです。 場合によっては精神崩壊レベルにまで達するのです。 バブルの歴史を見ても、Cognitive Ease祭りに陥った愚か者の中には暴落によって精神が崩壊したり自殺したりする人は普通にいます。


   長期投資をしている人にとっては常識ですが、短期的な値動きはほとんどが"ノイズ"です。 ノイズとは考えるだけ無駄な情報のことです。 単なるうわさ、大統領や総理の経済見通しに対する発言、こういったものはほぼノイズです。


   つまり短期的にはノイズによって価格が上下しますが、長期的に見ればこうしたノイズは株価に織り込まれなくなるのです。 要は短期的な株価の変動に一喜一憂してもほとんど意味がないのです。


   しかし株価に目をずっと晒してしまうと、株価の変動に物凄く敏感になってしまいます。 そうすることによって長期的に重要な情報とノイズとを区別できなくなって、あらゆる変動をすべて真に受けてしまうのです。


   ほとんどの人は多くの情報を知ることは良いことだと思っていますが、この考えは場合によっては危険です。 上のように多くの情報を知れば知るほど、ノイズに晒される率が高くなって心理的に悪影響を及ぼす可能性が高くなるのです。


   こうしたことを知らずに、株価やそれに付随する多くの情報に惑わされてCognitive Ease祭りの宴によった愚か者が、やがて駆逐されるのです。

為替相場に翻弄された私

   株価ではありませんが、私は為替相場を見過ぎて頭の中が為替でいっぱいになった経験があります。


   私は海外投資をしているのですが、海外投資を始めた頃に投資資金を円からドルに交換する必要がありました。 このときに出来るだけお得に変えようとずっと為替相場を見ていたのです。


   円からドルに交換するときはできるだけ円高のときに換金するのがお得になります。 当時は1ドル102円前後で揺れ動いていたので、100円を切ったら円をドルに交換しようと思っていました。 このとき、もし1ドル100円を切らずに円安が進行したときの対策を全く行っていませんでした。


   毎日毎日、時間があれば為替相場を見ていました。 朝、昼休み、夜と時間があるごとにちょこちょこ見ていました。 1ドル100円を切る、その瞬間を逃したくなかったのです。


   最初は一日3回程度しか見ていなかったのですが、知らず知らずの間にだんだんと為替を見ないと落ち着かない状態になってしまいました。 その結果、多い日は一日20回以上見るほどに。


   為替を見ることが、日課というよりかはだんだんと中毒症状に発展してしまったのです。 為替を見ることで働くCognitive Easeが次第に麻薬のように働いてしまったのです。 しかも当時自分が中毒に陥っていることを知らずに。


   そんな中毒症状に陥りながら、1ドル100円を切ってくれ切ってくれと切に願っていました。 しかし100円台までにはなってもあとちょっとのところで100円を切ってくれず、しびれを切らして待っていました。


   するとあるとき突然円安に動き出して、1ドル103円、104円、そして105円とトントン拍子に上がっていってしまいました。


   正直私はめちゃくちゃ焦りました。 どうしよう、100円切るまで待つべきか、それともこれから上がり続けるとまずいから105円で我慢するかと...そんな葛藤が心の中で渦を巻いていたのです。


   このとき私は為替を見続けたことによって、為替に対する感受性が知らず知らずのうちに高まっていました。 しかも事前に「もしも円安が進行したらこう対処する」という予防線を張っていなかったので、全く心の拠り所がなかったのです。


   その後、1ドルの値段によって換金したドルの価値がどれくらい変化するかを急いで計算しました。 このまま1ドル105円でドルに交換しても良いものかどうか判断したかったのです。 本当はこういうのは事前にやるべきものです。


   結局私はかなりの悔しさを感じながらも、何とか悔しさを振りきって1ドル105円で換金することを決心しました。 計算結果を客観的に見て、さらに人間は損がかさむと好転するのを願って待つことでさらなる損を生み出しやすいという人間の性質を思い出した上で決めました。


   ちなみにこの判断は結果的に正解でした。 その後1ドル105円を切ることはなく、どんどん円安方向に進んで1ドル120円まで円安が進みました。

教訓

   上の私の例は結果的には正解でしたが、あくまで結果論です。 投資に対する心構えとしては最悪です。


   何が最悪かと言えば、事前に「いくらまで円安が進んだらドルに交換しよう」という"ストッパー"を決めていなかったことです。 このストッパーを事前に決めていなかったため、急に円安方向に振れたときにあたふたしてしまって精神的に危険な状況に陥ったのです。


   投資を行う際は絶対にこうしたストッパー、心の拠り所を事前に決めておく必要があります。 ストッパーさえ決めておけば、どんなに株価や為替などの変動にセンシティブなっていても、ストッパーを思い出すだけである程度気持ちを和らげられます。


   逆にストッパーを事前に決めていないと、いざというときにあたふたして自分に対して銃の引き金を引いてしまう恐れがあります。 何か問題が起こってから対処すれば良いと思っても、いざ問題が起こると人間はそう簡単に冷静な判断ができずにとんでもない悪手を打つのです。


   「私は大丈夫」と思っている、そう思っているあなたこそ一番危険です。 何故ならこうした自信過剰はCognitive Easeを生み出すので、より直感的で感受性豊かで損に対して脆弱になってしまいます。 そんな状態で株価の暴落などが起きたら...考えただけでも恐ろしい。


   ストッパーは何も「いくらまで安くなったら売ろう」という損切りだけではないです。 例えば株価に比べて企業の真の価値(本源的価値)が十分高いという自らの意思もストッパーです。 こうしたストッパーがあれば、いくら株価が下落しても売らないという強気の姿勢で凛としていられます。


   私のように精神を翻弄されないためにも、投資を行うときに事前のストッパーの構築は必須です。


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