少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
人間には少数の法則と呼ばれる性質があります。 少数の法則とは、サンプルが少なく信頼性の乏しい情報に対しても、疑うことなく自分なりに納得してしまう人間の性質のことです。
この少数の法則は、ギャンブルや投資といったお金に関する分野でもよく無意識のうちに働きます。 それによって間違った判断をして大きな損を出す...なんて可能性だってあるのです。
そこで今回はコイントスと投資ファンドの選択という二つの事柄に対して、少数の法則がどのように間違った方向に働いてしまうのかを見ていきます。
Gambler's Fallacyと少数の法則
まずは私たちがコイントスに対して少数の法則がどう関わっているかを見ていくことにしましょう。 そのためにまずは簡単なクイズを出します。
コインを5回投げたとき、次の3つの結果のうちどれが一番起こりそうだと思いますか(○:表、×:裏)。
- ○○○○○
- ××××○
- ○×○×○
直感で考えると3番目が一番起こりそうに思えませんか。
何故ならコインを投げて表が出る確率、裏が出る確率ともに同じであることを私たちは当たり前のように知っているからです。 こうした事実から、表と裏が同じくらい出るのが自然で最も確率が高そうに思えます。
しかし3番目が一番起こりそうだと思った方、間違ってます。 上の3つが起こる確率はすべて同じです(確率は1/32)。 残念ながら私たちの直感は間違っているのです。
これも一つの少数の法則の性質を表します。 目に見える情報と、コインの表と裏が出る確率は同じであるという当たり前の事実から、「表と裏が同じくらい出るのが一番あり得る」という結論を無意識に導いているのです。
特にコインやサイコロのように出る目が均等なものに対して、出る目が偏るのを不自然に感じたり、出る目が均等であるのが自然、確率的に高そうと感じる人間の性質をGambler's Fallacy(ギャンブラーの誤謬)といいます。
コインを5回投げてすべて表だったり、サイコロを5回投げてすべて5以上の目が出ることなんて普通にあり得ます。 特に投げる回数が少ないときには、こうした極端な目がたまーに現れることはむしろ普通です。
さらにその後も裏よりも表の方が良く出たり、5の目が良く出ることだって普通にあり得ます。
しかし私たちの直感は、例え投げる回数が少なくてもこうした極端なものを不自然だと認識してしまうのです。
投資ファンドの成績と少数の法則
ではコイントスとは違って、私たちが客観的な確率を知らないものに対しては少数の法則はどのように働くのでしょうか。
確率が不確かなものに対して少数の法則が働くと、少数の事実が未来にも当てはまると考えてしまいやすくなります。
そのために投資ファンドを考えてみましょう。 投資ファンドとは私たちの代わりに株や債券などで私たちの資産を運用してくれるサービスのことです。
ちょっとしたストーリーを考えてみましょう。 投資ファンド「もうかりファンド」は、ここ最近の3年間で年25%のリターンを出していました。 つまり3年前にもうかりファンドに100万円預けていれば、3年間の間に195万円まで殖えたことになります(=100万円×1.25×1.25×1.25)。
一方でここ3年間のアメリカのダウ平均株価(アメリカ株式市場全般を表す一つの指標)は年9%のリターンでした。 ちなみに年9%のリターンというのは、アメリカ株式市場の100年の歴史における平均リターンに近い値です。
そう考えると、もうかりファンドのここ3年間の年25%リターンというのは物凄いリターンです。 何せ年9%のリターンでは3年間で100万円は130万円までしか増えませんが、25%だと上に書いたように195万円、3年で実に2倍近く資産が殖えるわけですから。
もしこのリターンが10年間続いたら、リターン9%では100万円は237万円に殖えるだけですが、リターン25%だと100万円は何と931万円になります! リターンの違いは、長期的に見ると結果に大きく影響を与えるのです(複利効果)。
こういうことを知ったら「このもうかりファンドっていうファンド、めちゃくちゃすごいファンドじゃないか」と普通思ってしまうのが人間です。 さらに人間は原因や理由を求める生き物ですから、「3年連続で25%のリターンを続けてるということは、相当優秀なファンドマネージャーが集まっているんだろう」なんて推測しがちです。
そしてこうした推測から「よし、もうかりファンドだったら大丈夫だろう」と自分なりに納得した上で、もうかりファンドに多額の資産を預けてしまう。 こういうことを私たちはよくやりがちです。
実はここに少数の法則が隠されています。 私たちは無意識のうちに「たった3年間の過去が未来も続く」と考えてしまっているのです。
残念ながらたった3年間の成績では、そのファンドが長期にわたって株式市場を上回るリターンを出してくれるかどうかなんて統計的に判断できません。
しかし私たちはたとえ3年という短い期間で成績を上げていても、それをファンドマネージャーの能力などというリアリティのある理由付けをすることによって、無意識のうちに過去が未来に当てはまると考えてしまうのです。
定量分析の専門家であるBarr Rosenbergは、投資ファンドが長期的なリターンを得た理由がファンドの実力なのか、はたまた単なる運によるものなのかを判断するためには、70年もの記録が必要であると述べています。
ちなみに直近数年間に優秀な成績を収めたファンドは、その後低迷する方がむしろ普通です。
たまたまファンドの運用方針が直近数年間に渡って市場全般の環境に適していただけで、その後環境が反転してファンドの運用方針に逆風が吹き、成績が悪くなることの方が一般的です(ただしもちろんすべてのファンドに当てはまるわけではありません)。
投資は危険だとよく言われますが、投資自体が危険なのではありません。 投資に対する人間心理に危険が隠されているのです。
上の投資ファンドの例は、少数の法則によって私たちが私たち自身で投資を危険なものにしてしまう片鱗を教えてくれます。
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・有限の事実から普遍的な考えを導こうとする帰納の考えとリスクについて
→帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
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