人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
人間心理のSystem1が持つ性質の一つである連想能力(プライミング効果)。
何故私たちには連想能力が生まれつき備わっているのでしょうか。 それを紐解くカギは昔の人々の生活にあります。
古代の人々のコミュニケーション手段としての連想能力
昔の人々は少数のグループを作って暮らしていました。 グループのみんなで食糧を探したり狩りをすることは生存確率を高めて、より人間が繁殖するための重要な手段だったのです。
グループの中でうまく暮らすにはどんな能力が必要だと思いますか? それは間違いなくコミュニケーション能力です。
グループが上手く機能するためにはチームワークが欠かせません。 そしてチームワークを高めるためには、お互いのコミュニケーションが上手くできていることが必須です。 これは普段学校、職場などで周りの人たちと過ごすことの多い私たちの生活を考えても当たり前のことですよね。
古代はいまみたいに言語が発達していません。 なので会話や文字でのコミュニケーションは全くできないか、出来たとしても限られています。
このときにコミュニケーションをするためのカギは何だと思いますか? それは表情です。 私たちは相手の表情から相手の感情や相手の求めているものを連想することで、相手のことを理解していたのです。
相手が笑顔でいれば、何か良いことがあったのかと連想できます。 そうなればこっちも笑顔になって、仲間との絆を強くできます。
相手が怒っていれば、何かこちらが相手に悪いことをしてしまって行いを改善してほしい合図なのかと連想できます。 振る舞いを改善することによってグループの絆が壊れるのを防ぐことができます。
相手が何か真面目な表情をしていれば、周りに敵が潜んでいたり台風などの自然現象が起きる予兆など、何か危険なことが起こるのではないかと連想できます。 そうすれば逃げたり災害に対する準備をすることで、グループの人たちが死んでしまうのを防ぐことができます。
このように連想能力はグループ内のコミュニケーションを行い、グループがちゃんと維持するために必須だったのです。
危険から身を守る手段としての連想能力
さらに連想能力はグループ内のコミュニケーションとしての用途以外にも重要な役割を担っています。 それは危険から身を守るための手段です。 連想能力は人間が不意な危険から身を守る手段としても大活躍してきました。
例えば登山をしている最中に何かガサゴソと物音がしたらどう思うでしょうか。 「熊か!?」と、一瞬のうちに考えることでしょう。 それと同時に頭は切り替わり、一気に体全体に緊張が走って身の危険に対する不安が体全体をよぎります。
また普通の道を歩いているときに、ふと道に置かれた何か黒い物体を見たときに「うわっ、カラス!?」と一瞬ビクッとすることもあるでしょう。 良く見るとただの黒いごみ袋だということがわかって、「何だごみ袋かよー」と心の中で呟きつつ安堵している自分がいます。 皆さんも似たような体験をされているのではないでしょうか。
これらは古代から人間に備わってきた、一種の連想能力の名残だと考えられています。 昔は食糧や狩りのために、森などの危険な場所に行く必要がありました。 危険なものに対処するためには、危険を知らせる合図を素早く察知しとっさに逃げ出す必要があります。 そのために「大きな物影や不自然な音→危険」という連想を使って切り抜けていたのです。
こうすることで、はっきりと熊と確認しなくてもすぐに逃げられる態勢がとれたのです。
もちろん大きな物陰や不自然な音が、毎回毎回危険なわけではありません。 それこそシカのように対して危険ではない動物の場合だってあるでしょう。
しかしいつ起こるかわからない危険を回避するためには、大きな物陰や不自然な音を"すべて危険"だと連想するほうが都合が良いのです。 何故ならその方が生き残る確率を高められるからです。
もちろんシカを熊と勘違いして逃げだすこともあるでしょうが、勘違いしようがしまいが、死なないことには変わりありません。
しかし不自然な物音がしても熊という姿を確認するまで逃げないでいたら、逃げ遅れて死ぬ可能性が高くなってしまいます。
連想は正確さには欠きますが、瞬間的に行えるのでいざというときに危険からすぐに回避できるという大きなメリットがあります。 このような大きなメリットを持つために、連想は自分の身の危険を早くから対処するための手段としても用いられていたのです。
連想能力はグループのコミュニケーションを高めたり、身の危険を防ぐなどの用途で発達して、その名残としていまの私たちにも備わっているのです。 連想能力は太古の人たちが進化の過程で身につけていった、人類を繁栄させるための知恵なのです。
関連リンク
・英語は連想を自由自在に操ることで学習能率が一気にアップします
・プライミング効果を生かして財務諸表の入り口を理解する
→3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
・プライミング効果は気持ちや行動にも無意識のうちに影響を与えるのです
→プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
・プライミング効果とは何か?
→プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
関連ページ
- System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
- System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-
- System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-
- Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-
- Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-
- System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-
- 複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-
- 時間の牢獄から抜け出すことのすすめ-時間を排除し心理負担をなくす-
- 人間の本質は余剰と無駄にある-効率化を求める風潮へのアンチテーゼ-
- 不安を紛らわすバカげた対処法-自分で自分を実況する-
- プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
- プライミング効果を英語学習に生かす
- 3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
- 人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
- プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
- 確証バイアス(Confirmation Bias)とは-自己肯定や社会肯定の根幹-
- 社会の末期では確証バイアスは我々を地獄に落とす
- 人間の行動は信じることから始まる?-自ら信じられることを能動的に探すことが大切-
- 人間の行動は信じることから始まる?-教養は人間社会で豊かに暮らすための道標-
- 確証バイアスと医者-誤診の裏に自信あり-
- アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-
- アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
- アンカリング効果の認知心理的プロセス
- アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
- ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
- 「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果
- 後知恵バイアス(Hindsight Bias)とは-不当な評価の温床はここにあり-
- 後知恵バイアス×権威とモラルの問題
- Cognitive Easeとは-System1が生み出す安らぎとリスク-
- 単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-
- 単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-
- 単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-
- 株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-
- 実力を運と勘違いする-慢心を防ぎ自らを成長させるための心構え-
- Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-
- 人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である
- No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-
- Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-
- Planning Fallacyとは-何故残念な計画が沢山存在するのか-
- 改善されないPlanning Fallacy-計画の目的はプロジェクトをスタートさせること-
- Norm理論とは何か
- 英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-
- 因果関係を知りたがる気持ちは生まれつき備わっている
- 人間は可能性をリアルさで捉えてしまう
- 想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
- リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
- 人はリアルさでリスクを評価する-地震保険加入比率で見るリスク管理の傾向-
- 人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-
- 平均回帰の無視-客観的事実を無視して直近を将来に当てはめる-
- 歯のケアと想定外-日常的なものからリスク管理を見直す-
- 帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
- 少数の法則とは何か-人は大数の法則を無視する-
- 少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
- 仮定がおかしな結果は無意味-統計結果に対する最低限の心構え-
- リスクとDomain Specificity-リスクを考える分野、考えない分野-
- 心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない
- 疑う気持ちが情報に対処するための一番の基本
- 終わりよければすべてよし
- 何故終わりよければすべてよしと考えるのかその1
- 何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
- System2からSystem1にもっていく