System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-

投資ブログへのリンク

System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-

   最初の記事で人間心理に宿る2つの分類である、System1とSystem2を簡単に説明しました。


   System1は人間に常に働いている一方、System2は意識的に使う必要があります。 自由奔放なSystem1に対して、System1が生み出した考えや判断を意識的に審査する役割を担うのがSystem2なのです。

System1は無意識のうちに瞬間的に働く

   最初の記事でSystem1とSystem2の存在について説明した際に、「クラスにいる30人の生徒のうち、同じ誕生日の組が存在する確率はいくらか?」という問題をちらっと出しました。 そして何となく確率が低そうだと考えるのがSystem1、ちゃんと計算して正確な確率を求めようとするのがSystem2だと言いました。


   ではまずSystem1を使うとどのように何となく確率が低そうと考えるのかを見てみましょう。 このような問題が与えられたとき、私たちは次のように考えます。


   まず「一年は365日ある」「生徒は30人だけ」という数字に着目します。 そうすると一年が365日もあるのに比べて、生徒がたった30人と少ないことにすぐ気が付きます。 365と30、かなり差がありますね。


   そしてこうした数字の差から、何となく同じ誕生日の組が存在する確率は少なそうだと連想してしまうのです。


   ポイントなのはこうした一連の考えを無意識に行っていることです。 「一年は365日ある、生徒は30人だけ→だから同じ誕生日の組はあまりいなさそう」というのを頭の中で意識的に順序立てて考えるのではなく、 いきなりパッと「同じ誕生日の組はあまりいなさそう」という感覚に襲われるものです。


   実際、「365日に比べて30人って少ないから...」と頭の中で意識的に考えてないですよね。 そういう意識はなく、瞬間的に判断していますよね。 しかしそれでもこのプロセスの中で、365と30という二つの数字の無意識の比較を行っているのです。


   "無意識のうちに"365と30という数字を比較しているのはなんだか気持ち悪いですよね。 でもちょっと問題を変えればこのことに素直に納得できると思います。


   「高校の全生徒300人のうち、同じ誕生日の組が存在する確率はいくらか?」という問題を考えます。 このとき同じ誕生日の組が存在する確率は高そうですか?低そうですか?


   おそらくほぼすべての人が確率が高そうだと思うはずです。 理由は一年は365日しかないのに、全生徒は300人もいるからです。 (ちなみにこの直感は正しいです。 ほぼ100%の確率で同じ誕生日の組が存在します。)


   もし数字を使った無意識の比較が行われていないのであれば、何で前者の問題は確率が低いと答える人が多いのに、後者の問題は確率が高いと答える人が多くなるのでしょうか。 前者と後者の回答がもう少し近づいてもよさそうですよね。


   このように私たちは何か判断等を行う際に、System1を無意識のうちに使って瞬間的な判断を行っているのです。

System1による数値比較と結論

System2はSystem1の審査人

   しかしちょっとでも数学に馴染みがあったり、物事を疑って考える癖のある人にとってはちょっと計算してみたくなるものです。 特に確率の問題は直感と正反対の答えが出ることも多いので、そういうことを知っている人に取っては計算せずにはいられなくなることでしょう。


   こういう"考えよう"という発想に至ると、早速System2の出番です。 意識的に頭を使って、紙に書いたりして計算してみようと試みます。


   このように計算する人は、何も最初からSystem2を働かせているわけではありません。 最初は問題を見て、普通の人と同じようにSystem1を使って「365と30ってなんだか差があるな...」と感じるものです。


   しかし「本当に正しいのかな」「ちょっと計算してみよう」、こうした"考えてみようスイッチ"を押すことでSystem2へ依頼が届き、System2が動き出すのです。


   こうしてSystem1の直感が正しいのかどうか、System2による意識的な"審査"が始まります。 こうした意味でSystem2はSystem1の審査人なのです。

System2はSystem1の審査人

System2を使って確率の計算が行われる


   System2にアクセスして上の図のように意識的に確率を計算をすることで、本当の答えを得ます。 こうして私たちは最終的に正確な答えを得ることになるのです。


   一つ大事なことがあります。 それは"考えてみようスイッチ"はSystem1によって瞬間的に押されるものであることです。


   具体的にいうと、考えたり疑ったりすることを日ごろから行っている人は、考えてみようスイッチを無意識のうちに押しやすい状況にあります。 逆に考えたり疑うことをいままでほとんどしてこなかった人は、考えてみようスイッチを中々押すことができません。 考えることが無意識化していないからです。


   ではどうやってスイッチを押しやすくすればよいのかというと、結局いまからでも考える癖をつけておくことです。 例えばニュースを見て「これは本当なのかな?」と疑ってネットでそのニュースに関していろいろ情報を集めて真相を探ってみるとか。 こうすることで自然と思考訓練できて、だんだんと考えることが自然とできるようになっていきます。


   考えたり疑ったりする癖を持ち続けていると、だんだんと考えてみようスイッチを意識しなくても押せるようになり、自然とSystem2によって意識的に考えるモードに入っていけるのです。


   いくら頭がよくて計算が得意でも、それを行うSystem2を呼び起こさなければ宝の持ち腐れです。 常日頃から考える癖をもって、考えてみようスイッチを養ってみてください。 そうするとだんだん考えることが楽しくなっていきますよ。

関連リンク

   ・System2の利用は賢くなるために必須ですが、残念ながらSystem2には大きな弱点があるのです

   →System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-


   ・System2を使えば使うほど楽に使えるようになっていきます

   →System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-


▲System1、System2関連記事一覧に戻る▲

アボマガリンク


アボマガ・エッセンシャル(有料)の登録フォームこちら


アボマガお試し版(無料)の登録フォーム


このエントリーをはてなブックマークに追加   
 

関連ページ

System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-
System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-
Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-
Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-
System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-
複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-
時間の牢獄から抜け出すことのすすめ-時間を排除し心理負担をなくす-
人間の本質は余剰と無駄にある-効率化を求める風潮へのアンチテーゼ-
不安を紛らわすバカげた対処法-自分で自分を実況する-
プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
プライミング効果を英語学習に生かす
3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
確証バイアス(Confirmation Bias)とは-自己肯定や社会肯定の根幹-
社会の末期では確証バイアスは我々を地獄に落とす
人間の行動は信じることから始まる?-自ら信じられることを能動的に探すことが大切-
人間の行動は信じることから始まる?-教養は人間社会で豊かに暮らすための道標-
確証バイアスと医者-誤診の裏に自信あり-
アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-
アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
アンカリング効果の認知心理的プロセス
アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果
後知恵バイアス(Hindsight Bias)とは-不当な評価の温床はここにあり-
後知恵バイアス×権威とモラルの問題
Cognitive Easeとは-System1が生み出す安らぎとリスク-
単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-
単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-
単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-
株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-
実力を運と勘違いする-慢心を防ぎ自らを成長させるための心構え-
Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-
人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である
No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-
Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-
Planning Fallacyとは-何故残念な計画が沢山存在するのか-
改善されないPlanning Fallacy-計画の目的はプロジェクトをスタートさせること-
Norm理論とは何か
英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-
因果関係を知りたがる気持ちは生まれつき備わっている
人間は可能性をリアルさで捉えてしまう
想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
人はリアルさでリスクを評価する-地震保険加入比率で見るリスク管理の傾向-
人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-
平均回帰の無視-客観的事実を無視して直近を将来に当てはめる-
歯のケアと想定外-日常的なものからリスク管理を見直す-
帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
少数の法則とは何か-人は大数の法則を無視する-
少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
仮定がおかしな結果は無意味-統計結果に対する最低限の心構え-
リスクとDomain Specificity-リスクを考える分野、考えない分野-
心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない
疑う気持ちが情報に対処するための一番の基本
終わりよければすべてよし
何故終わりよければすべてよしと考えるのかその1
何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
System2からSystem1にもっていく

▲記事本文の終わりへ戻る▲

▲このページの先頭へ戻る▲