何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
(前回の記事の続き)
私たちが終わりよければすべてよしと考える別の理由は、System1は自分の中の狭い世界にある物事を常識と考えることです。 ここで自分の中の狭い世界とは、自分の頭から簡単に引き出せる知識、考えなどを指します。
私たちは自分の中の狭い世界を常識と考えます。 世の中的には当たり前でないことでも、私たちにとって慣れていることや常にさらされている環境などに対して私たちはそれらを当たり前と考えます。 例えば3か月間英語の勉強を行い続けると、もはや英語の勉強が日課となります。 そうすると英語学習に対する、面倒くさいだとか疲れるだとかのネガティブな感情が鈍くなります。
しかも一度英語学習が日課になると、それまでの3か月間の英語学習に対する感情も変わってきます。 最初の3か月間は面倒くさい、疲れると思っていたにも関わらず、3か月以上経つと過去の英語学習に対するネガティブな感情が薄れていきます。
このように私たちは数々の経験によって、自分独自の当たり前の考えを無意識のうちに身につけていくのです。
物事が当たり前になればなるほど、自分にとってインパクトの薄いものとなります。 そうなるとちょっとしたことでは私たちは何とも思わなくなってしまいます。
しかもそれは過去に対しても適応されます。 過去の印象もインパクトの薄いものになってしまうのです。
さらに私たちは、インパクトのある出来事や直近の出来事を引き出すのが得意です。
例えばファーストキスの場所を引き出すことは簡単ですよね。 それは初めてでものすごくインパクトのある出来事だからです。
ファーストキスは過去の出来事ですが、いまの基準で考えてもインパクトの大きい出来事であるため私たちはファーストキスの思い出を忘れないのです。
また今まで仲良かった友人から最後に嫌なことを言われてしまうと、どうしてもその友人に対して悪い印象を持ってしまいがちですよね。
直近のインパクトのある出来事もまた私たちの記憶に残りやすいのです。
これらのことを前記事の実験に当てはめてみましょう。 1番目の実験内容に対しては、下図の赤丸の部分が私たちの記憶に残る箇所となります。
まず私たちはインパクトのある出来事や直近の出来事を引き出すのが得意です。 そうすると、図の赤丸のところがまさに私たちが思い出しやすい点となります。 一番冷たさを感じた部分でもあり、さらに一番直近の出来事であるわけですから。
またその他の部分は赤丸に比べてインパクトが弱い部分です。 もちろん冷たさは感じていますが、赤丸部分に比べて冷たさは感じていませんからそれに比べればまだまし、まだ普通と判断してしまうのです。 よって私たちは赤丸以外の部分はあまり記憶に残らないと言えます。
続いて2番目の実験内容を考えてみると、今度私たちの思い出に関わる場所と判断できそうなところは下図の赤丸部分だと言えます。
今度は赤丸が2箇所ありますね。 最初に左側の赤丸、60秒経ったときでは一番冷たさを感じた部分です。 つまり一番インパクトのあるときです。 よってこの部分は私たちが冷たさを思い出すときに関係ありそうな部分です。 もう一つの赤丸、90秒経ったときというのは一番直近の出来事です。 人は直近の出来事を思い出しやすいですから、ここもまた冷たさを思い出すときに関係ありそうな場所です。
その他の部分はインパクトの弱い部分ですから、前と同様に私たちは「まだまし」「まだ普通」と考えてしまいあまり思い出として残らないと考えられます。
これこそがまさにPeak-end ruleとDuration neglectが意味しているところです。 このようにSystem1の基本的性質に立ち返って考えてみると、この2つの性質が成り立っていることが納得できます。
最初に私たちは平均で物事を考えるのが得意であると話しました。 ということは、私たちが冷たさの記憶として残っているのは上図の赤丸たちの平均だと考えられるのではないでしょうか。 そう考えると、私たちが記憶として残っているのは下図の赤線の部分の高さ(冷たさ)だと言えます。
よって私たちは2番目よりも1番目の方が嫌な思い出として残ってしまうのです。
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