System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-

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System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-

  

「われわれの意識的行為は、…無意識の基盤から起こるのである」(ル・ボン著『群集心理』より)


   私たち人間には複雑な心理が備わっています。 嬉しい、悲しいといった感情はもちろんのこと、相手の気持ちを読んだり、連想したり、無愛想な表情をして何やら難しいことを考えるモードに入っていたり、そういった様々な心理があります。


   心理学者たちはこうした人間の心理は大きく分けて2種類存在すると考えてきました。 それはSystem1System2※1です。


   本カテゴリーでは、主に心理学者のダニエル・カーネマン氏の著書「ファスト&スロー ※2を参考に、System1とSystem2に関連した心理学的なトピックを紹介します。


   またこうした心理を日常生活に活かして自らに役立てるにはどうしたら良いのかといった応用的な事柄について、個人的主観を入れながらいろいろ書いていこうと思います。


   ※1:System1、System2という用語を最初に提唱したのは心理学者のKeith StanovichとRichard Westです。


   ※2:私が読んだのは原著の英語版のみのため、日本語版の訳と用語が異なる場合があります。 ご了承ください。

System1とは何か

   System1とは人間が無意識のうちに直感的に働かせる心理を表します。 例えば次のようなものはすべてSystem1が働いているものです:


  • 相手の笑顔を見たらこちらまで嬉しくなった
  • 高級なスーツや時計を身にまとっている男性を見ると、デキる男だと感じる
  • 風呂に入っていてフワフワしていたら突然アイデアがひらめいた
  • 飛行機の墜落事故で何百人もの乗客が亡くなったというニュースを見て、しばらく怖くて飛行機に乗れなくなった
  • 「クラスルームに30人の生徒がいます。30人のうち、同じ誕生日の組が存在する確率はどれくらいでしょう。」という問題が与えられると、何となく確率は小さそうに感じる

   多くの皆さんは無意識のうちに上のような経験をしたり共感してくれるのではないでしょうか。 実はこうした「あるある!」「わかるわかる!」的な気持ちが生まれるのは、みんなSystem1が働いているからなんです。


   System1は言ってみれば私たちの"人間らしさ"を表すものです。 常日頃から私たち人間には知らぬ間にSystem1が働いていて、事あるごとに上にあるような感情やとっさの判断を生み出すのです。


   一方でSystem1によって得られる感情や判断はあくまでも感覚的。 ときにはまったく非論理的で非合理な間違った判断を生むこともしばしばです。 特に統計や確率と言った数字を無視した結論を生み出してしまうことが大きな特徴です。


   上の飛行機事故やクラスルームの例は、まさに統計や確率を無視してSystem1による感情的な判断をしてしまう例です。 そしてこうした判断は時として自分に大きなリスクを生む場合もあるのです。

System2とは何か

   一方でSystem2とは意識的に働く心理のことです。 次のようなシチュエーションでSystem2が働いています:


  • 会社で自分が作った資料に誤植がないか一言一句確認する
  • 政府が出した楽観的な経済見通しを疑ってみる
  • 相手からの誹謗中傷に対する怒りの感情をグッと堪えて大人の対応をする
  • 「クラスルームに30人の生徒がいます。30人のうち、同じ誕生日の組が存在する確率はどれくらいでしょう。」という問題が与えられたとき、数学的に計算してみる

   上のようなシチュエーションを自分に当てはめてみると、感覚的に何となくやってはいませんよね。 頭をしっかりと働かせて合理的、理性的に考えている自分がいると思います。


   これがSystem2を使っている証です。 System2とは意識的に頭を使うことで働く心理を表すのです。


   上のように何か数えたり、疑ったり、感情を堪えたり、計算したりするときにはSystem2が欠かせません。 System1とは違ってSystem2は論理的に物事を考えるのが得意なのです。


   System2はSystem1と違って、常日頃から働いているものではありません。 System2は無意識のうちに働くことはなく、自分で意識して頭を使うといったことが必ず必要になります。


   System1では賄いきれない物事をSystem2で対処する。 言うなれば、System2とはSystem1を補完するものなのです。


   しかしSystem2をずっと使うことは人間、得意ではありません。 あまりにSystem2を使い続けると電池切れしてしまいます。


   会社が終わって家に帰ると、ものすごい疲労感とともに頭が全然働かなくなりますよね。 これは仕事中にずっと緊張感をもってSystem2のモードばかり働かせていたので、バッテリー切れになってSystem2が使えなくなっているのです。

あらゆるリスクの根本にはSystem1が関わっている

   本サイトでは主に心理、リスク、不確実、ランダムをテーマとした記事を紹介していきますが、これらテーマの根本にあるものがSystem1です。 あらゆるリスクの根本にはSystem1による無意識な感覚的な判断があるといって過言ではありません。


   System1によって感覚的に物事を判断してしまう結果、統計や確率、世の中の事実を客観的に判断しないまま間違った方向に進んでしまうことがあるのです。 例えば次のようなものはSystem1が発端となって生まれるリスクです:


  • 好景気で株価が上がって、周りはみんな儲かっている。私も乗り遅れたくない!
  • ここらへんの土地では何百年も大きな地震が起きてないから、これからも起きるはずないわよ
  • この投資ファンドは3年間トップの成績を誇っていたから、きっと優秀なファンドなんだろう
  • 胃がんだと言われて医者から手術と抗がん剤治療を勧められた。医療の専門家が言うんだから、間違いなく受けるべきだろう

   こうした判断はSystem1による無意識で感覚的な判断が根本にあります。 もしかしたら人によっては上に書いたことが何故リスクなのか、そういうことが全く分からない人もいるかもしれません。 そういう人こそ最もSystem1が生み出すリスクに晒されやすいだともいえます。


   私たちが物事を冷静に客観的に判断するためには、ある程度System2を使って意識的に物事を考える必要があります。 相手の発言を疑ったり、ニュースの報道内容を鵜呑みにせず政府が出した生の統計データを見て自分なりに考えたりするなどが必要になります。


   しかし上にも書いたように、System2を使うにはエネルギーが必要です。 しかも人間、出来るだけ楽に暮らしたい生き物ですから、できるだけSystem2を使いたがりません。


   その結果あまり深く考えもせず、System1によって主観的に"何となく"物事を判断して結論を下したり行動したりする。 しかも無意識に。 これによって自分が気づかいうちにリスクを生み出すのです。


   もちろんSystem1には素晴らしい側面がいっぱいあります。 System1は人間らしさを表すもの。 System1をしっかり使っている人は魅力的ですし、新しいアイデアをひらめいたり職人的、専門的な特別な感覚だってSystem1があってこそです。


   一方でSystem1だけに頼ることはリスクの観点から言えば問題です。 特にあらゆる情報が乱立する現代では、情報を直感的に間違って解釈することによって知らず知らずのうちにリスクを生んでしまいます。


   心理、特にSystem1の性質とその未熟さを理解することは、今後不透明な世界を生きていくうえであなた自身のためにも必須なスキルと言えるでしょう。

System1、System2の性質まとめ

   最後にSystem1、System2の性質を表としてまとめておきます。


System1 System2
無意識に働く 意識的に働かせる
自由奔放 自制心が働く
エネルギーをほとんど必要としない 多くのエネルギーを要する
速い思考スピード 遅い思考スピード
規約に縛られない 規約を順守する
直感的、感覚的 合理的、論理的
Domain specific(Domain dependent) Domain general(Domain independent)
(進化論的に)昔から人間に備わっているもの (進化論的に)比較的最近になって人間に備わったもの

関連リンク

   ・System2はSystem1を補佐する役割を担っています

   →System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-


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