アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
今回はアンカリング効果と洗脳についてです。
情報化社会では洪水のように多種多様な情報を得られますが、信頼できるまともな情報を積極的に得るように情報を取捨選択していかないと、知らず知らずのうちに痛い目に遭う可能性が高いです。 アンカリング効果によって無意識に思考や感情がコントロールされて情報(源)に飼いならされてしまうのです。
害悪な情報にさらされると洗脳されてしまう
アンカリング効果とはある一つの起点となる情報(アンカー)によって、その後の判断がアンカーに無意識のうちに影響されてしまうという心理的性質のことでした。 マーケティングの値引き戦略などでよく利用されています。
あらゆる情報はその後の判断に影響を与えるアンカーになり得ます。 20000円という根拠のない数字、30という何も意味を表さない数字、神風神話、こういったものは全部アンカーになり得ます。
こういった意味を成さない数々の情報によって私たちは知らず知らずのうちに判断や意見が誘導されてしまうのです。
これから何が言えるのかというと、むやみやたらに情報に接触するとむしろバカになるということです。 何にも意味をなさない情報、真実とまるでかけ離れた情報、害悪な情報、こういったものに洗脳されてまともな考えや感情が浮かばなくなってしまうのです。
例えばニュースで政府が連日「景気は良くなっていますよ」「株価が上昇して経済が活性化される」「賃金もあがっている」と言っていたとしましょう。 しかし実感としては景気が回復している、生活が楽になっている実感は全くない。 変化の兆しすら感じられない。
このとき多くの人たちはこんな風に思うことでしょう。 「景気が回復しているなんて実感はない。だけどニュースで景気は良くなってきていると言っているから、これからよくなっていくのかなぁ...」
こうした感情は無意識のうちにアンカリング効果の影響を受けている証拠です。 景気回復を全く実感しないながらも、これから良くなるのではないかという気持ちも混在して極めて中途半端な思考、感情です。
こうした中途半端な思考や感情をもちつつ、漫然と仕事を行う。 将来を案じていまのうちから副業を行ってみたり、ゴールドを買うといった最低限の資産運用も行わないで借金だらけの国の通貨の安泰を信じ続ける。
本来であればもっとストレートに「景気なんか全然よくなってないじゃないか!」と怒りの感情を露にしても良かったり、将来を案じた行動を始めないといけないほど厳しい現実でも、景気が良くなっているというニュースばかり流れるので何となくのモヤモヤ感になる。 モヤモヤ感に浸りつつ特に目新しいチャレンジはしない。
アンカリング効果を考えれば、これは情報(源)によって知らず知らずのうちに思考や感情を懐柔させられていることを意味します。 自分では疑っているつもりでも、見事に飼いならされているのですよ。
このように身近なニュースはアンカリング効果を働かせてあなたの思考や感情を自在にコントロールできる代物であることはぜひとも理解すべきです。
アンカリングによる洗脳を防ぐには無駄な情報をシャットアウトせよ
ではこうした間違った方向に思考や感情が誘導されてしまうことを防ぐために、どのような対処をすれば良いのでしょうか。
最善の方法は「無駄な情報をシャッタアウトする」ことです。 信頼できる情報源以外は見ないようにする。
無駄な情報に全く触れないことは現実的ではないにしても、信頼できない情報源の情報は「嘘である、裏がある」と初めから疑っておく。 これが有効です。
要は信頼できる情報だけをアンカーにして、そうでない情報はアンカーにさせないように努めるってことです。
ネットや本などで信頼できる情報、事実に基づいた情報を積極的に取得している人は、適切なアンカーによって適切な思考が出来るようになるでしょう。
導かれた思考が必ずしも真実を映すわけではありませんが、少なくとも思考や感情が真実と真逆な方向に誘導されるという致命的なミスは防げるようになるでしょう。 「最悪の状況に備える」という行動も取りやすくなります。
一方でテレビばかり見ている人や大手ガラパゴスメディアが報じる情報ばかり受動的に取得している人は、残念ながら知らず知らずのうちに真実とはかけ離れた思考回路が出来上がってしまう可能性が高いです。 こうした思考回路は混沌とした世の中では自らを経済的困窮にするなどの引き金にさえなりえます。
「物事の本質は始まりにある」という言葉がありますが、人間心理も似たようなものです。 アンカーとして初期段階で受け入れてきたもの、これによってその後の思想に大きな影響を及ぼしてしまうのです。
「入り口」の段階から信頼できる情報を入手するように常に意識することは、情報化社会で健全に生きていくうえで必須の心構えとなるでしょう。
関連リンク
・アンカリング効果とは何か?
・アンカリング効果にはどんなプロセスが働いているのだろうか...
・アンカリング効果と不確かさとの関係について
→アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
・ランダムな数字、こういった無意味なものに対してもアンカリング効果は働いてしまうのです。
→ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
・本カテゴリーの中心話題であるSystem1とSystem2についてはこちら
→System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
関連ページ
- System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
- System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-
- System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-
- Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-
- Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-
- System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-
- 複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-
- 時間の牢獄から抜け出すことのすすめ-時間を排除し心理負担をなくす-
- 人間の本質は余剰と無駄にある-効率化を求める風潮へのアンチテーゼ-
- 不安を紛らわすバカげた対処法-自分で自分を実況する-
- プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
- プライミング効果を英語学習に生かす
- 3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
- 人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
- プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
- 確証バイアス(Confirmation Bias)とは-自己肯定や社会肯定の根幹-
- 社会の末期では確証バイアスは我々を地獄に落とす
- 人間の行動は信じることから始まる?-自ら信じられることを能動的に探すことが大切-
- 人間の行動は信じることから始まる?-教養は人間社会で豊かに暮らすための道標-
- 確証バイアスと医者-誤診の裏に自信あり-
- アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-
- アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
- アンカリング効果の認知心理的プロセス
- アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
- ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
- 「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果
- 後知恵バイアス(Hindsight Bias)とは-不当な評価の温床はここにあり-
- 後知恵バイアス×権威とモラルの問題
- Cognitive Easeとは-System1が生み出す安らぎとリスク-
- 単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-
- 単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-
- 単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-
- 株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-
- 実力を運と勘違いする-慢心を防ぎ自らを成長させるための心構え-
- Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-
- 人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である
- No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-
- Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-
- Planning Fallacyとは-何故残念な計画が沢山存在するのか-
- 改善されないPlanning Fallacy-計画の目的はプロジェクトをスタートさせること-
- Norm理論とは何か
- 英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-
- 因果関係を知りたがる気持ちは生まれつき備わっている
- 人間は可能性をリアルさで捉えてしまう
- 想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
- リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
- 人はリアルさでリスクを評価する-地震保険加入比率で見るリスク管理の傾向-
- 人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-
- 平均回帰の無視-客観的事実を無視して直近を将来に当てはめる-
- 歯のケアと想定外-日常的なものからリスク管理を見直す-
- 帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
- 少数の法則とは何か-人は大数の法則を無視する-
- 少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
- 仮定がおかしな結果は無意味-統計結果に対する最低限の心構え-
- リスクとDomain Specificity-リスクを考える分野、考えない分野-
- 心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない
- 疑う気持ちが情報に対処するための一番の基本
- 終わりよければすべてよし
- 何故終わりよければすべてよしと考えるのかその1
- 何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
- System2からSystem1にもっていく