後知恵バイアス×権威とモラルの問題

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後知恵バイアス×権威とモラルの問題

   何か物事が起こった後に「それ起きるの知ってた」と、まるで自分が予言者かのごとく振舞う人間の心理的傾向である後知恵バイアス


   後知恵バイアスは状況によっては人としてのモラルを問われる性質にさえなり得ます。 特に後知恵バイアスと権威が組み合わさったときにその傾向は強いように思えます。


   後知恵と権威が組み合わさると、意思決定の多様性を否定することに繋がったり、権威のある者がさらなる権威を獲得するというおかしな流れに向かっていきます。 つまりトップダウン形式がより助長されてしまうのです。

後知恵バイアスと叱責

   後知恵バイアスと権威が組み合わさることの悪影響の典型が「常識とは異なる行為による失敗を責めたてる」ことです。


   例えば部下が仕事で失敗したときに、上司が「そんな方法で仕事したら失敗するなんて誰だってわかるだろ」とまくしたてるのは後知恵バイアスが掛かっている証拠です。 本当に部下が失敗することをわかっていたのであれば、部下が大きな失敗をする前に止めるのが上司としての責任です。


   部下が部下なりに考えて仕事を行って、結果的に失敗してしまった場合も普通にあるでしょう。 それを知らずしてなりふり構わず怒鳴りつける上司は、後知恵バイアスという人間の本能に従う、理性なき感情の塊からなる愚者であることを周りに証明しているに他なりません。


   何も上司と部下との関係だけではありません。 上下関係が成り立っている場面においては、下にある者の失敗を上の者が後知恵によって不当に叱る、怒鳴りつけることはよくあることです(親子、教師と生徒など)。


   常識と比較して相手の失敗を後知恵で叱ってしまう傾向が多くの人間に残っていることは、ある意味で仕方のないことだと思っています。 何故なら古来から人間は集団行動によって生き延びてきたからです。


   集団で行動するためには、集団内の掟、秩序を守ることはとても大切です。 グループのうち一人が掟から外れた、裏切りとも取れる行動をとったときは、秩序を保つために戒めることが必要です。


   もし誰かが裏切り行為をしたあげくに失敗したとき、相手を戒めるために後知恵バイアスはとても有用なツールです。 後知恵バイアスによって、叱る側は相手の失敗を「掟から背くから失敗するんだ」と、多少理不尽でも構わず勢いで叱ることができますから。


   しかしだからといって後知恵と権威によって「失敗することくらいわかるだろ」という謎の論理で相手の反省を促すことは全く良いと思えません。


   上下関係の間で常識と比較することによる後知恵バイアスが働くと、多様性を否定することに繋がってしまいますから。


   さらに人にはInner responsibilityという性質があります。 これは自分の意思で考えたこと、行動したことに対して責任をもつ人間の性質です。 これは自分自身のやる気を高めることにもつながります。


   そう考えると、決して後知恵によって叱ることは良いことではありません。 人のやる気を高めるためにも、次のような策が重要になるでしょう:


  • 失敗原因が何であるのか、本人なりに考えさせる
  • 今後どう改善していくか、本人なりに考えさせる

   反省してそれを次に生かすことで最も重要なのは、プロセスを省みて問題点を発見することで、今後の行動のクオリティを高めていくことです。 プロセスを一番知っているのは、紛れもなく意思決定を行った本人です。


   人間のやる気に関わるInner responsibility、反省をすることの意義、こうしたことを考えると周りは無用に口出しせずに本人自身に考えさせるのが最も大切なのです。 さらにこうすることで意思決定の多様性を認め、誰もが思いもよらない成果が生まれる可能性だってあり得ます。


   本人のプロセスを知らずして、後知恵と権威によって非合理的に怒鳴りつける人は、失敗した相手のための行動ではなく自分のストレスを発散するための自分本位な行動であることを認識しなければなりません。


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