ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-

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ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-

   最初に与えられたアンカー(基準)によって、私たちの判断が無意識のうちに影響を受けてしまうアンカリング効果。 アンカリング効果は実はどんなに無意味に見える情報に対しても成り立つのです。

ランダムな情報とアンカー

   ただ単にサイコロを投げている自分の姿を思い浮かべてみてください。 別にすごろくとかギャンブルとかを行っているわけではなく、ただ単純にサイコロを投げている姿をです。


   サイコロを投げて、もしも1や2の目ばっかり出るとどう思いますか。 何だかちょっと心がモヤモヤした気分になりませんか。 「ちぇっ、今日はついてないな」とか思っちゃいますよね。


   逆に5や6の目が連続で出るとどうでしょうか。 今度は逆に物凄く心が晴れる感じがしませんか。 「おっしゃラッキー!」とか「今日は何だかいい日だ」なんて思ったりするものです。


   サイコロを投げて出た目はもちろんランダム。 サイコロの目に運以外の要素はまったくありません。


   しかし私たちはランダムに出た目を見るや否や、出た目から思いつく連想をすぐにしてしまう変わった生き物です。 小さい目が出れば暗くてちょっと陰鬱としたことを思いつきやすくなりますし、逆に大きい目が出ればポジティブで前向きなことを連想しやすくなります。


   こうしたランダムな情報が私たちに与える影響は何も連想にとどまりません。 ランダムな情報は私たちのその後の判断に大きな影響を与えるのです。 つまりランダムな情報に対してもアンカリング効果が生まれるのです。


   ランダムな情報に対するアンカリング効果の中で、一番有名なのは次のような心理学の実験です。 実験の参加者は、まず最初に0~100の目をもつルーレットを回して出た目を紙に書くように言われます。 ただしこのルーレットは実は"10"と"65"の目だけ出るように仕組まれています(参加者はこの仕様を知りません)。


   ルーレットを回して紙に出た目を書いた後に、参加者たちは「国連加盟国のうち、アフリカ大陸の加盟国の割合はルーレットで出た目よりも大きいか小さいかどう思いますか。また実際の割合は何%だと思いますか。」という質問を受けます。


   参加者の回答は、まさにルーレットで自分が出した目に大きく影響するものでした。 ルーレットで10を出した人は平均で「25%」と回答し、65を出した人は平均で「45%」と回答したのです。


   ルーレットで出した目とそこから回答を出すまでの正確な認知心理的プロセスはまだ不明です。 しかし現状の論文の結果を考慮すると、次のように考えることができます。


   以前の記事で話したように、人にはSelective accessibilityという性質が宿っています。 これによってルーレットの目をアンカーとして、そこから増やしたり減らしたりして答えに近づけようとする思考プロセスを無意識のうちに採用してしまうのです。


   例えば10という目を出して頭の中に嫌でも「10%」という数字が植えつけられると、「10%はさすがに少なすぎるだろう」と考えつつ10%から徐々に増やしていってあたりをつけようとします。


   アフリカ大陸の国数と他の大陸の国数をなんとなく比較しつつ「15%はまだ少ない」、「20%はう~ん、もうちょっとありそう」なんて考えていって、最終的に「アフリカ以外の国も沢山ありそうだし、25%くらいかなぁ」と思ってしまうのです。


   逆に65スタートになると、65%はさすがに多すぎるとわかるので60%、55%と減らしていって、「でもアフリカ大陸は広くて国も多いから、このぐらいはあるだろ」と納得して45%あたりに落ち着くのです。


   Selective accessibilityによって、10という少ない数字は「アフリカ以外の国々の多さ」を連想させやすくし、65という大きい数字は「アフリカ大陸の国の多さ」を無意識に印象付けやすくします。 こうした印象によって、アンカーから徐々に増減させていく思考プロセスに考えが制御されるのです。


   そして25%~45%といった、大体これくらいだろうけどそこから先はわからないようなところで考えをストップさせて回答を出します。 何故なら人は不確かなことを考えるのがとても苦手だからです。


   こちらの記事にも書いたように、人は不確かなことを考えようとすると相当のエネルギーを消費します。 しかし人間は怠惰な生き物なので、不確かな場面に遭遇するとそこで考えるのをやめてしまいやすくなるのです。


   上で述べたプロセスは認知心理学の結果をもとに考えられる一つの解釈に過ぎませんが、ルーレットで出した目という、何の意味も持たない数字でさえもアンカリング効果を生じさせることは確定的です。


   意味を持たない情報に対しても、私たちは勝手に意味を見出してしまう。 ランダムな情報に対するアンカリング効果は、そういった人間の不思議な性質の一端を表すのです。

関連リンク

   ・アンカリング効果とは何か?

   →アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-


   ・アンカリング効果による洗脳を防ぐためにはどうしたらよいのだろうか...

   →アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-


   ・アンカリング効果にはどんなプロセスが働いているのだろうか...

   →アンカリング効果の認知心理的プロセス


   ・アンカリング効果と不確かさとの関係について

   →アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-


   ・本カテゴリーの中心話題であるSystem1とSystem2についてはこちら

   →System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-


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