当たり前を疑え-心理が生むリスクを理解し不確実を楽しむ-

投資ブログへのリンク

終わりよければすべてよし

   終わりよければすべてよしという言葉があります。 どんなに辛いことがあっても、どんなに大変な道のりであったとしても、最後の最後で上手く行けばそれでいいじゃないか、そんなことを表している言葉ですね。


   実はこの言葉は私たちの記憶の性質を的確に表している言葉でもあるのです。 私たちはどんなに長い道のりで苦労をしても、最後の最後で報われれば良い思い出として残るのです。


   私たちは次の二つの心理的、認知的な性質によって、過去の思い出に対して「楽しかった」「悲しかった」といった感情を持っているのです:

  • Peak-end-rule
  • Duration neglect

   Peak-end-ruleとは、私たちの思い出に対する印象は一番インパクトのあった出来事が起こった時に私たちが抱いた感情と、その出来事がちょうど終わった時に私たちが抱いた感情、この二つによって決まるという心理的性質です。


   Duration neglectとは、幸せや悲しみの「長さ」は思い出に対して私たちが抱く印象には影響を及ぼさない私たちの性質を指します。


   この二つを理解するために次のような例を考えてみましょう。


   大学受験の頃を思い出してみてください。 皆さんは大学受験に対してどのような印象を持っているでしょうか。


   多くの人は志望校に合格出来たときの嬉しい思い出や、逆に志望校に落ちてしまった悲しさ、悔しさの印象を強く持っていることでしょう。 また志望校には落ちてしまいましたが、それまでの模試でずっとA判定をもらっていたという嬉しい思い出も残っていることでしょう。


   一方で受験勉強を毎日毎日、何時間もしていたときの苦労はそれほど印象として残っていないのではないでしょうか。


   よくよく考えてみると毎日ずっと勉強勉強で、常に嫌で面倒な気分で受験勉強に励んでいましたよね。 ゲームもできず、友達とも遊びに行けず、誘惑にずっと耐えながら受験勉強に励んでいた人が多いことでしょう。 (もちろん中には受験勉強を楽しみながら行っていた人もいるかと思いますが)


   しかし私たちが受験勉強に対して抱いている思い出は、大抵受験に合格した、不合格したときの感情や模試でA判定をもらったときの喜びといった、瞬間的でインパクトのある思い出です。


   毎日誘惑に耐えながらひたすら受験勉強をしていたという、長い間継続した小さな苦労に対する思い出は、「毎日がんばって勉強してたな」くらいであのときの苦労をリアルに思い出として持っている人は少ないのではないでしょうか。


   このように私たちは、インパクトのある出来事に対する思い出や出来事が終わった時の感情をリアルに覚えています。


   一方で長い間積み重ねてきた小さな苦労はあまり思い出として残っていません。


   これらがそれぞれ、Peak-end-ruleとDuration neglectのことを指しているのです。


   この二つの人間の性質から、終わりよければすべてよしという言葉の意味がより理解できるのではないでしょうか。


   長い間苦労を続けていても、最後に笑うことができれば達成感や満足感が思い出として残りますよね。 それもそのはず、Duration neglectによって長い間積み重ねて来た小さな苦労は、思い出としては対して残りません。


   一方で最後に目標を達成したときのあの満足感は、とても大きくインパクトのあるものです。 よってPeak-end-ruleから、このときの感情は私たちの記憶に鮮明に残ることになるのです。


▲System1、System2関連記事一覧に戻る▲

アボマガリンク


アボマガ・エッセンシャル(有料)の登録フォームこちら


アボマガお試し版(無料)の登録フォーム


このエントリーをはてなブックマークに追加   
 

関連ページ

System1、System2とは-人間心理の最も基本的な分類-
System2はSystem1の審査人-考えてみようスイッチでSystem2が動き出す-
System2の2つの弱点-System1のシグナルをSystem2に変換できるか-
Cognitively Busyとは-不安が負担を生む-
Ego Depletionとは-感情を押し殺すことの代償-
System2は使えば使うほどエコに使える-やり始めは何事も大変-
複数の作業を同時にこなすと負担が掛かる-Switching costとMixing cost-
時間の牢獄から抜け出すことのすすめ-時間を排除し心理負担をなくす-
人間の本質は余剰と無駄にある-効率化を求める風潮へのアンチテーゼ-
不安を紛らわすバカげた対処法-自分で自分を実況する-
プライミング効果とは何か-賢くなる上でとても大切な連想能力-
プライミング効果を英語学習に生かす
3分で理解する財務諸表-賢くなるためのプライミング効果活用例-
人間が連想能力を持つ理由-進化の過程で身につけた人類繁栄のための知恵-
プライミング効果による、言葉や表情と気持ちや行動意欲との結びつき
確証バイアス(Confirmation Bias)とは-自己肯定や社会肯定の根幹-
社会の末期では確証バイアスは我々を地獄に落とす
人間の行動は信じることから始まる?-自ら信じられることを能動的に探すことが大切-
人間の行動は信じることから始まる?-教養は人間社会で豊かに暮らすための道標-
確証バイアスと医者-誤診の裏に自信あり-
アンカリング効果とは-プロにも働く強大な力-
アンカリング効果と洗脳-信頼できる情報を積極的に取得せよ-
アンカリング効果の認知心理的プロセス
アンカリング効果に潜む二つの要因-不確かさはアンカリングを助長する-
ランダムなアンカーの魔力-どんなものにも人は意味を見出す-
「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果
後知恵バイアス(Hindsight Bias)とは-不当な評価の温床はここにあり-
後知恵バイアス×権威とモラルの問題
Cognitive Easeとは-System1が生み出す安らぎとリスク-
単純接触効果(Mere Exposure Effect)とは-繰り返しが与える安らぎ-
単純接触効果を学習に応用する-まず量こなせ、話はそれからだ-
単純接触効果を学習に応用する-効率を求めず量をこなすことがよい理由-
株価を見続けるリスク-Cognitive Ease祭りが中毒症状を引き起こす-
実力を運と勘違いする-慢心を防ぎ自らを成長させるための心構え-
Domain Specificityとは-人間は何と非合理なのか!-
人間の本質を満たすために、人間は本質を考えるのが苦手である
No skin in the gameの許容-Domain Specificityの無視が引き起こす問題-
Skin in the gameとは-信頼度を測る最適な指標-
Planning Fallacyとは-何故残念な計画が沢山存在するのか-
改善されないPlanning Fallacy-計画の目的はプロジェクトをスタートさせること-
Norm理論とは何か
英語学習のちょっとしたアドバイス-背景を知ることが大切-
因果関係を知りたがる気持ちは生まれつき備わっている
人間は可能性をリアルさで捉えてしまう
想像するリスクと実際のリスクとの間には大きな隔たりがある
リスクに対するリアルさを形成する要因-Availability heuristicと好き嫌い-
人はリアルさでリスクを評価する-地震保険加入比率で見るリスク管理の傾向-
人間の重大な欠陥-時が経つにつれて可能性とリアルさとのギャップが広がる-
平均回帰の無視-客観的事実を無視して直近を将来に当てはめる-
歯のケアと想定外-日常的なものからリスク管理を見直す-
帰納とリスク-不確かな分野で歴史を未来に当てはめてはいけない-
少数の法則とは何か-人は大数の法則を無視する-
少数の法則が私たちに与える影響-コイントスと投資ファンド-
仮定がおかしな結果は無意味-統計結果に対する最低限の心構え-
リスクとDomain Specificity-リスクを考える分野、考えない分野-
心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない
疑う気持ちが情報に対処するための一番の基本
終わりよければすべてよし
何故終わりよければすべてよしと考えるのかその1
何故終わりよければすべてよしと考えるのかその2
System2からSystem1にもっていく

▲記事本文の終わりへ戻る▲

▲このページの先頭へ戻る▲