心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない

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心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない

   今回は投資に関する経験論を一つ紹介します。 投資に興味のない人でも、人間心理についての話も含んでおり参考になる点があるかもしれませんので読み進めてもらえれば幸いです。


   たくさんの知識を持つことは大切なことです。 世界が広がりますし成長も実感できますし、新たな自分の方向性を定めるきっかけにもなり得ます。


   しかしいくら知識があっても、必要な時に知識を引き出して現実に活かせなければ意味がありません。 悲しいかな、投資というリスクが関わる不確かな分野については、人間は知識を必要なときに引き出すのが不得手な生き物なのです。

心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない

   私は現在投資を行っています。 最大の目的は資産を殖やすして将来配当収入で暮らせるようにすることですが、目的は他にもあります。


   リスクというものがどういうものなのかを肌で感じて、リスクを深く理解したいのです。 そしてリスクを負う中で私の心理にどういった影響を与えるのか、そういったことをリアルに理解し、将来的に心理とリスクについての深い経験論を皆様にお伝えしたいと思っています。


   本記事執筆時はまだまだ投資経験が浅いので大したことは言えませんが、それでも今回一つ伝えたいことがあります。


   それは「いくら心理学の知識を詰め込んでも、投資心理をコントロールできるわけではない」ことです。


   私は投資を始める前に様々な投資の本を読んで、投資の心構えを勉強してきました。 ウォーレン・バフェット、ベンジャミン・グレアムといった著名な投資家の本を読み、彼らから株価や周りの人々の熱気に振り回されないことの大切さを学びました。


   こうした経験があったので、いざ投資を始めるにあたってお金に心理がコントロールされないよう十分鍛えたつもりでいました。


   しかし実際に投資を行うと、残念ながら私はまだまだ未熟だということを痛感しました(いまでも痛感してます)。 例えば私は次のようなことを経験してきました:


  • 値下がり待ちしていた狙っている株の株価が急上昇した→うわぁ、待たずにとっとと買うべきだった!
  • 既に保有している株の株価が急落した→早く買いすぎた!買い急ぎしなければもっとたくさん仕込めたのに...
  • ポートフォリオの成績が赤色(損している)→何だか嫌な気分だなぁ...
  • 円→ドルに換えるとき、交換するタイミングを見計らうために為替相場を長期間にわたって見てしまった→円高になれ!円高になれ!(→より私のリアルな体験を知りたい方はこちら)

   こういう感情は投資経験のない人にとってはあまりリアルに感じられないかもしれませんが、実際に経験すると非常に嫌なものです。 自らの愚かさを感じます。


   そしてこうした感情はときに賢明でない行動を促します。 待ちたくても待てなくなるのです。


   私はベンジャミン・グレアムの教えである「株価が大幅に上昇したすぐ後には絶対に株を買ってはならない。また、大幅に下落したらすぐ後には絶対に売ってはならない。」を現在忠実に守ることはできています。


   しかし株価が上昇した後に少し様子を見て、株価があまり下がらなかった場合に、当初の予定よりも高い価格で株を買ってしまったことはあります。


   もちろん客観的なデータを調べた上でそこそこ妥当な価格で購入したとは思っているのですが、「これ以上上がったら嫌だから今のうちに買っておこう」という感情が働いているのもまた事実です。 待ちきれなかったのです。


   そして数日~数週間経って株価が下落する、こういうオチです。 こうした経験を何回かしてきました。


   このようにいくら私のように事前に投資心理を学んだとしても、実際に投資を行うと心理のコントロールがうまくいかないことはザラにあるのです。

投資とDomain Specificity

   私たち人間にはDomain Specificityという性質があります。 Domain Specificityとは、状況に応じて真っ先に頭に思い浮かべる考えや感情、考え方が異なるという人間のアド・ホック性のことです。 これは人間が無意識のうちに働かせているSystem1の典型的な性質の一つでもあります。


   例えば将棋が得意で対局中に相手の戦略を先読みする能力があったからといって、投資でその先読み能力を活かせるとは限らないです。


   これはDomain Specificityの一種です。 将棋から投資にフィールドが変わると、途端に将棋で培った能力を発揮できなくなって投資ではヨチヨチ歩きになるのです。 (ただし経験を積むことにより、一つのフィールドの知識を他のフィールドに活かすことはもちろん可能です。)


   またダイエット中で理性で甘いものを頑張って抑えていても、ふと街中を歩いていて小腹が空いているときに近くの店からあま~いクレープのにおいがすると、ついついクレープを買ってしまう人もいるかと思います。


   これもまたDomain Specificityの一種です。 普段は心の中で理性にアクセスできても、クレープのにおいとともに一気に気持ちが欲望に向かってしまい、いままでアクセスできていた甘いものを我慢するという理性にアクセスできなくなってしまったのです。


   投資をしている場合は特にDomain Specificityに大きな影響を受けます。 平常時は投資心理の一般知識をすぐに引き出せても、いざ株価が急変動すると感情が先走り、それまでの知識を中々思い出せなくなるのです。


   滅多に投資家を褒めないウォーレン・バフェットが珍しくお墨付きを与えている、不良債権投資で有名なハワード・マークスというファンドマネージャーがいます。 マークスは「投資は会計学以上に心理学が大切だ」と述べています。


   知識も経験も豊富で常に冷静に物事を見られる投資のプロでさえ、私たちの心理の脆弱性に警鐘をならしているのです。


   しかしさらに付け足せば、心理学の知識があるだけでは十分ではありません。 私たちは「心理学の知識はいざというときに忘れる」ということもしっかり体に叩き込まなければならないのです。


   これを叩き込むには、実際に投資経験を積んで自分の心理の変化を身に染みる必要があるでしょう。 実際に投資を行い自らの心理の愚かさを何十回、何百回と実感することにより、少しずつどんな状況に置かれても冷静に合理的に対処できる投資家になっていくのです。


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