「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果


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「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果

   いままで、アンカーという基準に従って判断してしまいやすい現象をあらわすアンカリング効果について説明してきました。


   その中でマーケティング、交渉、裁判、それに世の中についての認識まで、ありとあらゆる場でアンカリング効果が働くことを述べてきました。


   しかしアンカリング効果が働く場として一つ、ある重要なフィールドについて説明しないといけません。 それは投資です。

「安く買って高く売る」の解釈とアンカリング効果

   最も有名な投資原則である「安く買って高く売る」。 私もこの原則はとても重要だと考えています。


   しかし「安く買って高く売る」という最も基本的な投資原則は、解釈の仕方によって投資家に「悪い方向にアンカリング効果を働きやすくするか否か」という大きな分かれ道を与える役割を担っていることをご存知でしょうか。


   「安く」、「高く」とありますが、そもそも安い、高いというのをどう判断すればよいのでしょうか。 具体的には、株価を"何と比較することで"安い、高いを判断しなければならないのでしょうか。 ここに「安く買って高く売る」という分かれ道が潜んでいるのです。


   私たちの安い、高いという判断は必ず比較によってなされるものです。 よって比較対象を何に定めるかによって安い、高いの意味は大きく変わってしまいます。


   比較対象を何に定めるかによって、「悪い方向にアンカリング効果を働きやすくするか否か」が知らず知らずのうちに決まってしまうのです。

株価や予測だけで判断すると悪いアンカリング効果が働きやすくなる

   一般投資家、プロの投資家に関わらず、多くの投資家にとって株価や為替、それに将来予測や直近のニュースは売買を行う上で重要な情報だと受け止められます。 特にトレーダーといった短期の投資家にとっては、直近の価格変動やニュースが与えるインパクトは売買する上でとても重要な情報になります。


   しかしここにアンカリング効果の罠が潜んでいます。 直近の株価やニュースなどによって知らぬ間に自分の中で投資対象の評価が決まってしまって、その評価に対するフィーリングで自分の判断が左右されやすくなるのです。


   例えばここ1週間の間に株価が1000円近辺で平坦に推移していて、その後株価が900円にまで下落すると安く感じるものです。 株価が1000円あたりでウロウロしていると知らぬ間に「大体950円~1050円くらい」の評価をしてしまっていて、そこからさらに下がった900円という値を安く感じてしまうのです。


   実は私もこうした感覚を既に体験済みです。 それは私が株をやり始めたときです。


   株をやり始めたときに、物凄く株を買いたい買いたい!という気持ちに駆られました。 おそらく投資をやり始めた人たちにまず訪れる感情でしょう(ダイエットを決意したときの、ダイエットをせずにはいられないあの瞬間的なモチベーションのようなものです)。


   買いたい衝動が全身を駆け巡っているときに、ある素材関連企業(鉄鉱石などの採掘企業)の株価を見ているとき、こんなことを考えました。


   「現在の株価は直近に比べて安いし、リーマンショック時並の水準だ。しかも現在は鉄鉱石価格が安くて最悪の状況だから将来はもっとよくなるはずだ。少なくともこれ以上株価が大きく下がることはないだろう」と。


   こうした考えのもと、とにかく株を購入してまた一歩、大人としての階段を上りたかったので、早速この素材関連株を購入しました。 数か月間その株はじわじわ上昇したのですが、あるときを境に急に株価が下がり始め2014年12月現在で購入時から40%以上下落!してしまいました。


   私の場合は長期投資を行っており、購入理由は他にもあったので40%以上の株価下落を大して気にしていませんが、短期間での売買益を狙っている人からしたらとってもまずいことでしょう。


   このように過去の株価や将来予測と比較して現在の株価が例え安いと思っても、その後大幅に下がらない保証はないのです。


   つまり現在の株価を「過去の株価や安易な将来への展望」と比較して安いか高いか判断する、このように「安く買って高く売る」を解釈することは、悪い方向にアンカリング効果を働かせることにつながるのです(特に売買益狙いの人にとっては)。


   過去の株価や将来予測に背いた方向に市場が動くのはよくあること。 そのためアンカリング効果によって得た直感とは真逆の方向に株価が進行してしまうこともよくあります。 そしてパニックに陥って安いときに売ってしまう、これが典型的な失敗パターンです。


   残念ながら、多くの投資家は「安く買って高く売る」という原則を、上のように「過去の株価や安易な将来予測」と比較して安いか高いか判断するという解釈を、知ってか知らずか行っているのが現状です。 例えば...


  • 鉄道や自動車、ITといった新しいテクノロジーが出てきたときに、成長を過度に期待されて根拠なく株価が大幅に上昇した歴史。
  • 長期投資家に比べて、過去の価格や直近のニュース、将来予測が重要になりやすいトレーダーや機関投資家がマーケットの大勢を占めている現実。
  • 景気が良いときにアナリストの予測がポジティブで現状の価格を割安だと煽る反面、景気が悪いときにはネガティブで、今後も株価が下がり続けると言わんばかりの予測になりやすい傾向。

   こうしたことを総合すると、多くの人が「安く買って高く売る」という原則を「過去の株価や安易な将来予測」といった、決して信頼度の高くないもので比較していると考えざるを得ません。 そしてこうした考えが、いつの間にか「安く買って高く売る」ではなく「高く買って安く売る」に変化していくのです。

本源的価値を比較対象にして悪い方向にアンカリング効果を働かせることを防ぐ

   では「安く買って高く売る」をどう解釈すれば、悪い方向にアンカリング効果を働かせることを防ぐことができるのでしょうか。


   それは株価が企業の本源的価値に比べて安い高いかで比べることです。 つまり企業のビジネスや財務状況といったものから自分なりに見積もった、企業が将来お金を稼ぐ能力を株価と比較するのです。


   偉大な投資家であるベンジャミン・グレアムの言葉を借りれば「安全域の広さ」を、安い高いの判断に据えるのです。


   何故本源的価値で比較することが悪い方向にアンカリング効果を働かせるのを防ぐのかというと、本源的価値は客観的情報を中心にして自分で見積もる情報なので、信用に足りないマーケットの主観が入りにくいからです。


   何事も比較するときの鉄則は、信頼できるものを比較対象に据えることです。 信頼できるものを比較対象に据えるかどうかで、悪い方向にアンカリング効果を働かせやすいか否かを大きく左右することになります。


   例えば通販で「本来100000円のパソコンを特別価格80000円で提供します!」と言われて、100000円という根拠のない数字を80000円に対する比較対象としたらその時点で負けです。


   ネットで調べたパソコンの相場という、より信頼できる情報を比較対象にすれば、80000円が本当にお得かどうかをより正確に知ることができます。


   投資でもそれは同じです。 過去の株価やアナリストの予測といった、根拠があるとは限らない意見が含まれている情報をメインの比較対象にしたら、その時点で負けです。 悪い方向にアンカリング効果を働かせる要因になります。


   企業に関する客観的情報をベースにした、自分で見積もった本源的価値の方が、よっぽど信頼に足る比較対象になるでしょう。


   もちろん自分の見積もりは間違えることもあります。 しかし自分の見積もりのクオリティは改善可能です。 マーケットの意見を私たち個人で変えることはできませんが、自分で企業価値を見積もる能力を高めることは可能です。


   こうしたことから、企業の本源的価値を比較に据えるという解釈で「安く買って高く売る」を捉えることで、悪い方向にアンカリング効果を働かせることを減らせると考えます。


   ベンジャミン・グレアムは著書『賢明なる投資家』で、投資を行う際の原則として次のように述べています:


  • 自分が何をしているのかを知れ
  • 決して自分の投資判断を他人任せにするな
  • 事実に基づいた自分の投資判断に確信があれば、周りに流されずに自分の判断に従って行動しろ

   結局投資では、自分の力で自分だけのアンカーをつくらないといけないのです。

考え方一つでその後の行動や未来が大きく変わる

   「安く買って高く売る」という当たり前の投資原則を、アンカリング効果という目線で考えてきました。


   一つ勘違いしないでいただきたいのは、トレーダーのように株価の短期的な動きや直近のニュースを投資判断に添えることが間違っているとは言っていないことです。


   実際短期のトレーダーとして実際に成功している人も世の中にはいるので、過去の株価や傾向、将来予測、それに自分の直感によって大きく稼ぐことは不可能ではありません。


   しかし短期ではちょっとしたことによる大きな価格変動が頻繁に起こるので、価格や周りの意見に流されないために相当な精神力が必要になるでしょう。


   もちろんそのためには、アンカリング効果によって愚かな投資判断を行わないように精神を鍛える必要があります。 (ただしアンカリング効果は心理学的に"どんな人にも強大な魔力をもつ"ことが多くの実験結果から証明されている事実をお忘れなく)


   考え方一つでその後の行動や未来が大きく変わるとはよく言われることですが、投資でもそれは同じです。 投資の門をくぐって真っ先に待ち構える「安く買って高く売る」という原則をどう解釈するかによって、その後のあなたの投資の道は大きく変わるのです。


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