中国の現状は、COVID-19終息が世界的金融危機の始まりの合図であることを暗示する
[2020/11/22 日本経済新聞]中国、社債不履行が多発 警戒強める金融当局
中国で企業が発行する債券(社債)の債務不履行が多発している。元本や利息を払えなかった社債の金額は計1570億元(2兆5千億円)となり、過去最高を上回るペースで推移する。当局は社債市場の動揺が金融システム全体に波及しないか警戒し、企業の返済逃れなどの監督強化に乗りだす。
中国の社債の債務不履行は2019年に計1670億元と過去最高を記録し、20年はそれを上回る勢い。新型コロナウイルスの景気対策として政府が打ち出した資金繰り支援が、景気回復に伴い縮小したことで資金難に陥る企業が相次ぐ。
清華大学系の半導体大手、紫光集団が債務不履行を起こすなど、債務危機は一部の名門国有企業にまで広がる。中国では社債の償還が遅れてもすぐに経営が破綻するわけではない。銀行がしばらくは運転資金を供給することが多いからだ。
COVID-19の早期抑え込みに成功した中国ですが、国有企業の相次ぐ債務不履行により金融問題が噴出しています。
中国はリーマンショック後にインフラ投資や不動産投資のために積極的に債務を増やし、今年6月末時点でGDPの335%あると推計されています。債務の大半は企業が負っています。
いつ破綻してもおかしくない、財務状況の厳しいゾンビ企業でも、これまではシャドーバンキングや地方政府からの投融資で流動性を確保できたため、潰れるとは考えられてきませんでした。
2017年からの中国政府によるシャドーバンキング規制強化により、シャドーバンキングからの流動性供給には期待できなくなりましたが、地方政府は、インフラ・不動産投資をしながら、引き続き信用保証を行ってきました。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、状況は一変しました。
地方政府は新型コロナウイルスへの対応として打ち出した企業や家計の負担軽減策などで財政が大きく悪化し、これまでのような流動性供給(ベイルアウト)が難しくなりました。
自動車、半導体、石炭などの財務の悪い大手国有企業は、感染拡大による業績悪化が重なり、相次いで債務不履行に陥っています。
上の記事にあるように、現在、債務不履行に陥った中国企業は、銀行からの融資で何とか食いつないでいるようです。
しかし中国の銀行も爆弾を抱えます。新興国や途上国への多大な対外融資の存在です。
中国の対外融資残高は6750億ドルあります。そのうち53%にあたる3560億ドルは米ドルでの融資で、うち2/3にあたる2350億ドルが中国の銀行による融資です。多くは新興国・途上国向けとみられます。
この巨額の対外融資は中国の銀行に2つのリスクをもたらします。
一つは不良債権化リスクです。新型コロナウイルスの感染拡大で各国の財政は悪化しており、新興国の対GDP比政府債務残高はすでに第二次世界大戦時を超え過去最悪の水準にあります。
さらに国債の種類に占めるジャンク級の国債の種類は半数近くあり、早晩、過半数に達すると見られています。社債だけでなく、国債のジャンク化も急速に進んでいるのです。
ドル融資であれば、財政問題に加えて為替リスクが加わります。
先進国や中国は、新型コロナウイルスの拡大で財政が大きく悪化している最貧国への一部債務免除(モラトリアム)を来年にかけて認める方向で進んでいます。
しかしこれは単なる危機の先送りであり、根本的な解決には至りません。中国の銀行は新興国や最貧国へのドル融資の爆弾を抱えたままとなります。
新興国や途上国へのドル建て融資を積極的に行ってきた中国の銀行は、ザンビアのような債務不履行が他の国々でもドミノ倒しのように起これば、ただでは済まないでしょう。中国企業を救済する余裕もなくなりそうです。
また低金利環境で財政・財務状況の悪い新興国政府や企業の債券に投資してきた外国人投資家は、一斉にこうした債券を売りに出すことになるかもしれません。債券市場のパニックにつながり得ます。
もう一つのリスクは米ドル調達リスクです。米ドルを生み出せるのはFedだけであり、中国の銀行は海外からの米ドル、もしくは中国国内にあるドル建て資産の売却から得られる米ドルを調達しなければなりません。
米中関係が最悪の状況にあるなか、もし米国が中国のドル供給を禁じる措置を講じれば、中国の銀行やその融資先である新興国・途上国はドル不足に陥ります。
米国には国際緊急経済権限法という法律があり、米大統領は非常事態宣言を出すことで、米国と対象国との間の為替取引や、通貨・有価証券の輸出入を禁止することができます(→ソース)。
もし中国に適用されれば、海外からの米ドル調達が厳しくなるほか、中国は保有する1兆ドル超の米国債の大量売却ができなくなると考えられます。
米国が中国のドル供給を禁じなくても、Fedが量的金融緩和をやめれば、ドルの調達は難しくなります。
ドル調達が出来なくなれば、中国の銀行は新興国・途上国への融資をドル建てではなく人民元建てに切り替えるのかもしれませんが、借り手の財務状況が好転するわけではないですし、借り手にとって対外債務である点に変わりありません。
中国の銀行は、ドル調達が難しくなった場合、国内のゾンビ企業だけでなく、海外のゾンビ政府・ゾンビ企業を支え続けるか、海外を切るかのいずれかに迫られそうです。
前者を選択した場合、それがいつまでもつのかわかりません。もたなくなれば、海外を切ることになるでしょう。
もし後者を選択すれば、上述の不良債権リスクが顕在化することになります。
低質の投融資を多く抱える中で新型コロナウイルスの感染拡大が終息に近づくと、金融問題が生じることを、現在の中国は教えてくれます。
現在、中国だけでなく、先進国でもCOVID-19拡大で政府や企業の財政・財務状況は悪化し、財政支援策を通じてゾンビ企業が増えています。
先進国は、企業の財務状況の悪化や、政府支援によるゾンビ企業の増加という点で、急速に中国化しています。
現在ゾンビ企業は財政支援策で何とか生き残っていますが、新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かえば、継続のための大義名分は失われます。
また市場は現在好調ですが、先進国中央銀行の大規模金融緩和やG20諸国のモラトリアムのおかげであり、新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かえば、これらの大義名分も失われます。
中国のように先進国でもCOVID-19を抑え込めれば、現在中国で起こっているような金融問題が、世界規模で何倍・何十倍のスケールで生じるかもしれません。
もし感染収束後に何かの理由をつけて財政支援策や大規模金融緩和を続けようとしても、正当な理由でなければ、通貨の信用は毀損し、高インフレ・ハイパーインフレへと向かいます。
ファイザー、モデルナ、アストラゼネカが相次いで、開発中のワクチンの臨床試験において高い有効性を示し、早期普及への期待が高まっています。
大半の人々は新型コロナウイルスの感染さえ終息すれば、いままでの日常が戻ると考えているかもしれません。
しかし「本番」は感染が終息に向かい始めてから訪れます。いまの中国の状況は、まるでこれから先に世界中で生じる「アフターコロナ」のほんの一部を映し出しているかのようです。
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