石油市場は悲観のどん底、経済見通しはまだ楽観気味
2020/04/21
原油市場は悲観のどん底
ご承知のように、3月6日にOPECプラスの協調減産合意が破棄され、4月から各国の減産義務がなくなりました。
サウジアラビアやロシアは石油増産を予告し、サウジアラビア、ロシア、米国を中心に産油国で石油価格戦争が勃発するとみられていました。
しかし4月13日にOPECプラスが歴史的規模の協調減産合意を交わし、早くも石油価格戦争が沈静化する見通しとなりました。
COVID-19の拡大で石油需要が大幅に低まる中で、産油国は国益のために冷静な対応を取ったことになります。
今回合意となったOPECプラスの協調減産規模は以下となっています。
- 20年5月-6月:日量970万バレル
- 20年7-12月:日量770万バレル
- 21年1月-22年4月:日量560万バレル
日量970万バレルという削減規模は、OPECプラスメンバー国の全産油量の約22%、世界全体の産油量のおよそ10%です。
下図は各OPECプラスメンバー国の5-6月の推定減産規模です。サウジアラビアとロシアがともに日量253.7万バレル減産すると推計されています。イラクも日量107万バレル減産するとの推計です。
サウジアラビア、ロシア、イラクの3国でOPECプラスのトータルの減産規模の6割以上を占めるとみられています。
ソース: JOGMEC
しかしこの歴史的減産発表後も原油価格は冴えない値動きが続きました。ブレント原油価格は1バレル30ドル割れ、WTI原油価格は1バレル10ドル台前半の水準で、WTIは過去20年以上で最低水準にまで沈みました。
画像ソース: Bluegold Research
株価と原油価格は比較的同じ方向に値が動くものですが、4月に入り、欧米でCOVID-19の拡大ペースが弱まり経済の早期回復期待が好感され始めている株価に対し、原油価格は停滞を続けています。
市場は今回の協調減産規模は不十分だと考えています。
すでに現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、石油消費量は足元で日量2000万-3000万バレル程度消失しているとみられています。
最新の見通しでIEAは、4月に日量2900万バレル、5月に日量2580万バレルの石油需要減少を予測しています。
日量970万バレルの減産規模では、失われた石油需要を取り戻すにはもちろん不十分です。
世界経済の大きな低迷への不安もいまだに原油市場の重しになっているようです。
IMFは14日に公表した最新の世界経済見通しで、今年は世界全体のGDPが3%低下し、世界恐慌以来で最悪の景気後退に直面するとの予測を出しました。
COVID-19の拡大が3月初めに収束した中国ですが、1-3月期の経済成長率が前年同月比-6.8%と1992年以降初のマイナス成長となり、3月も経済はほとんど回復しておらず、小売売上高と固定資産投資の前年同期比伸び率は市場の期待を大きく裏切るものでした。
画像ソース: Zero Hedge
石油在庫も急速に積みあがっています。
先週公表された米国の原油在庫量は1925万バレル増、ガソリン在庫量は491万バレルの増加で、いずれも市場予測を大幅に上回り、週間の増加としては過去最大となりました。
また北米の石油産業の一大原油貯蔵地で、WTI現物の受け渡しが行われるクッシング在庫も過去最大の伸びを記録しました。
画像ソース: Zero Hedge
ガソリン需要は外出禁止令で自動車走行距離が大きく低下し、過去30年間に一度もなかった水準にまで落ち込んでしまいました。
ガソリン在庫について、増加量(フロー)だけでなく、在庫量(ストック)自体もすでに過去最高となっています。ガソリン需要が著しく低下しているため、しばらくガソリン在庫が積みあがるのは必至でしょう。
そして昨日、5月物WTI原油先物価格が一時1バレルマイナス40ドル台と、1983年の先物上場以来初めてマイナスの値がつきました。マイナスの値というのは、お金を出してでも原油を手放したい人々の意向を反映したものです。
原油貯蔵スペースがないため、本日21日の期日を前に、現物の受け渡しを避けたいトレーダーらが翌月限への乗り換えに殺到したために起こりました。
米国の原油貯蔵空き容量不足がマイナスの原油先物価格という前例のない出来事を生み出しましたわけです。ただし6月物は1バレル21バレル前後であり、今回のマイナス化は一時的な出来事です。
米国政府の石油貯蔵容量は現在9割近くがすでに埋まり、残りは8000万バレルにも満たない水準です。米国の民間貯蔵容量も8割以上が埋まっているとされています。
世界的にも石油貯蔵容量は満杯に迫っており、中国、米国に次ぐ石油輸入国であるインドはすでに容量が満杯付近にあると言われています。
原油に限れば、世界の貯蔵容量の8割超が埋まっていると言われています。
OPECプラスの減産規模不足、石油需要の低迷が長期化するとの懸念、世界の石油貯蔵容量不足への懸念が、原油価格の低迷につながっています。
他にも、OPECプラス各国が約束通りの規模の減産をするかどうかへの疑念も生まれています。
現在の石油市場は、悲観のどん底にあります。
IMFが示した、今年の世界経済成長率が3%減少するとの試算は、楽観的なベースシナリオに基づくものです。
IMFのベースシナリオは今年第2四半期に世界的な感染拡大が収束し、下半期以降経済が早期に回復、感染拡大の第2波が生じないとの前提に基づく、V字回復シナリオです。
IMFはより悲観的な次の3つのシナリオを用意して、ベースラインシナリオよりも実質経済成長率、実質原油価格、財政収支、債務残高がどの程度変動するかについて分析しています。
- 青線:感染拡大による経済への悪影響が2020年いっぱい続く場合
- 赤線:2021年に第1波よりもややマイルドな感染拡大が再来する場合
- 黄線:青線と赤線のシナリオがともに顕在化した場合
下図は上の3シナリオにおける、ベースシナリオからの世界経済成長率の予想変化幅の推移です。変化幅である点にご注意ください。
青線の経済低迷長期化シナリオでは、今年こそ世界全体の経済成長率は6%減るものの、2021年以降はプラス成長が続くとの見通しです。
しかし感染拡大の第2波を想定する赤線、黄線シナリオだと、経済への影響は大きいものとIMFは考えています。
特に黄線シナリオでは世界大恐慌と同様、経済のマイナス成長が複数年続くとのことです。
[アボマガ No.117]でお話ししたことからおわかりのように、感染拡大の第2波が起こる可能性は十分あります。現在欧米が経済再開を急いでいるため尚更です。
下図の赤線や黄線シナリオが起こることを前提に物事を考え、動くことが大切です。
画像ソース: IMF
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