米国長期金利のこれまで・これから_2

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米国長期金利のこれまで・これから_2

2018/10/23

 

 前回、2016年秋~現在にかけての米国長期金利上昇要因を一つ一つ見ていきました。

 

 米国の金融・財政政策、米国債の需給、米国経済、インフレ、原油など、様々な要因が複合的に絡んで、現在までの米国長期金利上昇が進んできたと考えられます。

 

 今回は、今後の米国長期金利の行く末を俯瞰的に見ていくことにします。

 

[アボマガNo.23]米国長期金利のこれまで・これから_2

の記事(一部)です。10月18日に配信した記事です。

 

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IMFが考える米国経済成長率低迷要因は米長期金利上昇要因でもある

 IMFが最新の経済見通しを発表し、今年の米国経済成長率は2.9%に据え置きましたが、来年の経済成長率を「2.9%→2.7%」に引き下げました。トランプ減税と米中貿易戦争をはじめとした保護主義的通商政策の悪影響が盛り込まれたためです。
【2018/10/08 IMF】Global Growth Plateaus as Economic Risks Materialize

 

 米国の経済成長見通しが悪化すれば、米長期金利はマイナス方向に作用します。景況感悪化が盛り込まれるためです。

 

 しかし、米国の景況感悪化懸念から米長期金利が今後は伸び悩む、低下すると考えるのは早計だと思います。

 

 そもそも、いまの米長期金利は現在の米国経済成長率と比べてかなり低いです。理論的に長期金利は次の式で表現されると言われています(2つ並べていますが意味は同じです)。

 

  • 名目経済成長率+リスクプレミアム
  • 実質経済成長率+期待インフレ率+リスクプレミアム

 

 来年の米国の実質経済率が3.7%、現在の期待インフレ率が2.2%程度なので、理論的には米長期金利は「3.7%+2.2&+α」=「5.9%+α」程度なければなりません。しかし現在は3.5%にも達していません。

 

 米国の期待経済成長率がちょっとやそっと下がっても、米長期金利はあと2%程度上昇しても決して不思議ではありません。

 

 IMFはトランプ減税と保護主義的通商政策が米国の経済成長率を引き下げるとしました。しかしこれらはいずれも米長期金利を上昇させる潜在性があります。

 

 トランプ減税は法人税減税だけではありません。例えばトランプ減税法案には設備投資の即時償却が盛り込まれています。2022年までの5年間適用されます。

 

 これにより工場新設や機械購入といった巨額の設備投資が生じた場合に純利益が赤字となり、その年の法人税支払いが不要になり、企業の資金繰りにプラスに働きます。

 

 2022年までは企業の設備投資が増え、それが米国GDPやインフレ率を押し上げ、米長期金利にプラスに働きます。

 

 加えて、BEATの2019年からの税率アップが、日本や欧州の米国債投資(特に為替ヘッジつきの米国債投資)意欲をますます減退させます。今後の新発米国債発行ペースの増加と合わせて米国債の需給がますます緩くなり、米長期金利も上昇しやすくなります。

 

 またトランプの保護主義的通商政策は少しドル高人民元安を進めることになるでしょう。中国の米国への輸出額が減少して中国のドル獲得が減るだけでなく、中国に進出した米多国籍企業が中国から撤退して「中国→米国」に一部が資金流出するリスクがあるためです。

 

 中国にはアップルをはじめとした米ICT多国籍企業が多数進出していますが、最近大きな報道が出ました。ブルームバーグによると、米捜査当局者からの話として、中国で組み立てられて米国政府(国防省、CIAなど)でも利用されているサーバー内にハッキング用のマイクロチップが埋め込まれている可能性があるとのことです。

 

 米国政府による最高機密調査により発覚したもので、グローバルICTサプライチェーンの中核をなす中国で、人民解放軍の工作員らがICT機器製造過程でこっそりとマイクロチップを埋め込んだとの見解です。
【2018/10/04 ブルームバーグ】中国、マイクロチップ使ってアマゾンやアップルにハッキング

 

 ハードウエアを使ったハッキングは除去するのがより困難な上、被害がより甚大になる場合がといい、もし事実であるとすれば米国の安全保障上極めて重大な問題となります。事実でなくとも、リスク回避のために米国政府が動く可能性はかなり高いと思います。

 

 問題の対処にはICTサプライチェーンの組み換えが必須となり、米ICT多国籍企業の中国からの撤退も相次ぐことが予想されます。米国の中国に対する追加関税第4弾発動は一つの対応手段です。

 

 米中貿易戦争が激化し、中国のドル獲得能力の減少や米多国籍企業の撤退に伴う中国からの資金流出が進み、ドル高人民元安となり、中国人民銀行による米国債売却が一層進むことが十分考えられます。

 

 つまり、IMFが考える米国経済成長率鈍化の要因は、米長期金利上昇要因ともなるのです。

 

 米国経済鈍化はこれまで何度も経験してきていますが、海外勢による米国債の本格的な売却は少なくともブレトンウッズ体制崩壊後、一度もないはずです。それだけ、米長期金利に与える影響も大きいのではないかと考えます。

 

米長期金利上昇を促す要因ズラリ

 私は、構造的に米国長期金利は今後も上昇を続けると考えています(最終的に何パーセントになるかまではわかりませんが)。特に重要なのは次の要因が今後起こる/残り続けることがほぼ確定していることです。

 

  • 米国債発行額増
  • BEAT課税
  • LIBORの廃止
  • ドル離れ

 

 これら要因は今後も常に存在し続けることはほぼ確定であり、今後の米長期金利上昇圧力となって働くでしょう。

 

 

 そこに、他の様々な要因が重なって今後の米長期金利も決まることになります。

 

 Fedが金融引き締めを続ける間は、当然ですが米長期金利も上昇します。そこに為替ヘッジのコスト増が加わり、日本の金融機関は米国債の運用を諦め、社債、ジャンク債、ローン担保証券で運用することになり、米長期金利がさらに上昇しやすくなります。

 

 現在から2023年にかけて米国企業の発行済み社債の半分近くにのぼる3兆ドルが満期を迎え、借り換えを迫られます。2020年まででも1.3兆ドルの社債が満期を迎えます。

 

 投資適格債券、およびハイ・イールド債券(ジャンク債)の利回りも2009年以来はじめて前年比上昇となっています。米国社債市場が崩壊すれば、ドル不足でドル調達金利が上昇し、米長期金利も上がるでしょう。

 

画像ソース: Zero Hedge

 

 

 もしFedが金融引き締めから金融緩和にスタンスを転換させても、米長期金利が下がるかどうかはわかりません。一つは外国勢のドル離れが今後進むと考えられ、以前のように「金融緩和→グローバル経済の成長→他国が貿易で稼いだドルで米国債投資」という構図が崩れるためです。

 

 もう一つの重要なキーワードは「原油」です。

 

 一つは中東情勢の不安定化と原油価格や原油調達コストの上昇です。

 

 もう一つは米国経済です。

 

 今年、米国のシェール産業は初めて産業全体のフリーキャッシュフローが黒字になりました。設備投資後でもキャッシュが手元に残るようになったのです。
【2018/06/30 OilPrice.com】The Oil And Gas Boom Sends U.S. GDP Soaring

 

 よって現在の水準以上の原油価格(およびそれに付随するガス価格)が維持されていれば、シェール企業はシェールオイル・ガスの設備投資をさらに増やして生産量を増やすインセンティブが働きます。設備投資即時償却も使えますからなおさらです。

 

 「原油価格の上昇」×「米国原油生産・輸出増」×「固定資産投資増」で米国経済が伸び、賃金も上昇し、インフレ期待も高まりやすくなります。Fedが金融緩和すればますますインフレ期待を高めます。そうなれば米長期金利の上昇圧力になります。

 

 つまり、Fedが金融緩和をしても米長期金利が下がるとは限らないのです。原油市況次第では、一時的に米国経済成長期待とインフレ期待の高まりにより、米長期金利が上昇するシナリオも考えられるのです。

 

 

 総合的にみて、米長期金利は中期的に上昇する可能性が結構高いと考えます。

 

 米長期金利が5%を超えるのは時間の問題だと思います。場合によっては6%を超えても不思議ではありません。米国財政の破綻懸念が紙面を賑いだすかもしれません。

 

 米長期金利が中期的に上昇すれば、米国株も下がり続けなければなりません。

 

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