ビットコインの中核技術は人類の歴史を変える比類なきポテンシャルを持つ
2017/03/11
【2017/03/11 日本経済新聞】ビットコイン急落 米当局、ETF化認めずインターネット上で取引する仮想通貨「ビットコイン」が10日、史上最高値から3割近く急落する場面があった。米証券取引委員会(SEC)が同日、ビットコインの上場投資信託(ETF)化を認めないと決定したため。ETF化でビットコインの需要が拡大するとの見方から買いが膨らんでいた反動で、大きく売られた。
ビットコインで大きく話題になりやすいのは、金融資産としてのビットコイン。2013年のキプロス金融危機で、キプロスをタックスヘイブンとして利用していたロシア人富裕層が資産をビットコインに退避させることで資産防衛に成功して以降、資産退避先としてのビットコインに注目が集まり始めました。
2015夏以降は、中国からの資本流出に伴う人民元価格下落を嫌気した中国人投資家がビットコインに投資を行い、ビットコイン価格は2017年初にかけて大きく上昇しました。このときは中国のビットコイン取引所が全ビットコイン取引の9割以上を占めることになりました。
※現在は後述の規制により、ビットコイン取引所のシェアは分散化傾向にあります(→最新のビットコイン取引所シェア)。
しかし最近は中国人民銀行の圧力によって中国のビットコイン取引所がビットコイン引き出し停止措置を導入したり、上のようにSECがビットコインETFを認めないといったニュースが流れるなどして、非常に価格変動の大きい値動きをしています。
乱高下の激しい、荒々しいビットコインの値動きを見るとビットコインは非常に危険な代物である、と思うかもしれません。
しかしビットコインの本当のポテンシャルというのは投機や資産退避先の資産という側面ではありません。実はビットコイン(を支える技術)は、有史5000年の歴史を覆すほどの人類に歴史における比類なきポテンシャルを持っているのです。
何故かというと、ビットコインを支える技術の中核にある(パブリック)ブロックチェーン技術というのが、有史以来現在まで進歩し続けた中央集権型社会を融かし、分散自律型社会を世界中に広めるポテンシャルがあるからです。
ブロックチェーンというのは、すべての取引記録が記載された電子版の帳簿のことです。ビットコインといったクリプトカレンシーではすべての取引記録がブロックチェーンに書き込まれ、それがネットワーク上を漂っています。
いままで取引記録というのは銀行という第三者機関がつけていたのですが、ブロックチェーンを使えば取引を銀行のような第三者機関に管理させる必要がなくなります。世界中に分散された人々が保有するマシンが(金銭的報酬というインセンティブにより)銀行に代わってブロックチェーンにあらゆる取引記録を都度追加してくれるので、銀行という取引を管理するための組織は不要になります。
銀行が取引を管理する場合、その銀行に情報が集権的に管理されているため、記録が管理されているサーバーがハックアタックを受けるなどすればただちに個人情報等が流出する危険性がありました。
しかしパブリックブロックチェーン技術を利用すると、すべての取引記録の一覧であるブロックチェーンは改ざんが事実上不可能である上、世界中のマシンが分散的に取引記録を保有することになりますから、一つのマシンがハックアタックされても個人情報が流出する心配はありません。
(取引記録は暗号化されているので、世界中のマシンが取引記録を持っていてもプライバシー上何ら問題はありません。)
つまり管理における最優先事項である安全面やプライバシーの観点からも、パブリックブロックチェーンを利用した分散型の管理の方が優れているのです。
ブロックチェーン技術の応用範囲はビットコインの取引だけではありません。貸し借りの管理、契約の管理、プロジェクト管理といった、複数の当事者のやりとりで生じる管理をすべてブロックチェーン技術が代行してくれるようになるでしょう。図書館の貸し出し管理、カーシェアリングの管理、職場のプロジェクト管理、ネット通販の管理などもやがて管理者が不要になります。
すなわちブロックチェーン技術の利用が世界中で広まれば、「管理や分配をするための仲介者」の重要性が極端に減ってしまうのです。
これは人類にとって言葉では表現できないほどのインパクトがあります。というのは人類は経済の発展とともに進歩してきましたが、経済の発展には需要と供給に合った適切な再分配をすることが必要不可欠であり、再分配をするための仲介者の存在がどうしても必要でした。そうした役割を担ってきたのが政府、国際機関、多国籍企業、銀行、商人、宗教団体等だったわけです。
しかしこうした仲介者に依存せざるを得なかったからこそ、彼らが莫大な資産を蓄え中央集権的な権力をつけて人類を支配しようと試み、人類の歴史に数々の災難を招いてきたのも事実です。現在は国際機関や多国籍企業、銀行などがあまりにも力をつけすぎて世界中をマネーゲームに染めてしまい、中央集権型社会の極みに達しつつある印象があります。
もしパブリックブロックチェーン技術が世界中に広まれば、しばしば災難の元凶となる、中央集権的な権限を手にした人間や機関の必要性が大きく薄れるのです。これは仲介者ではなく付加価値を生み出せる生産者、本当に才能を持つ人々が報われやすい社会に近づくことにつながります。
人民を引き付けるカリスマ的な能力や思想を持つ人々が国を引っ張り、それがやがて世代を通じて中央集権的な権限につながって災難を起こす...ということは今後も十分ありえますが、少なくとも仲介者としてマージンを抜き取って資産や権限を増やすことのみに執着してきた、大して実力のないカネの亡者たちが跋扈したり、中央集権的に集めた情報を国民監視に利用して人類を支配しようとするなんて時代は衰退していくでしょう。
※逆にパブリックブロックチェーン技術が広まらない場合は、フィンテックやAIの隆盛とともに上のような監視社会が待ち受ける可能性もあります。
パブリックブロックチェーン技術が完全なる分散自律型社会を生み出すかどうかはわかりませんが、そういった極めて大きなポテンシャルがあることは間違いありません。
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