COVID-19対応でしくじり、政局も混乱へ向かうブラジル

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COVID-19対応でしくじり、政局も混乱へ向かうブラジル

2020/05/11

 

 今回はCOVID-19対応で最もしくじった新興国の一つであるブラジルの為替についてです。

 

[アボマガお試し版 No.120]COVID-19対応でしくじり、政局も混乱への記事(一部)です。2020/05/11に配信したものです。

 

 

レアル安が急速に進んだ背景

 ご承知のように、COVID-19の世界的拡大で、新興国から凄まじい規模のマネー流出が生じてきました。

 

 4月末まで100日間に流出した域外マネーは約1000億ドルで、流出ペースはリーマンショックの約4倍に達しました。

 

 そのなかでもブラジルは特に多くの資金流出に見舞われ、年初から4月24日までの新興国通貨の対ドル下落率は新興国通貨のなかで最も大きなものでした。

 

 

 

 2018年初からの対ドル為替の推移をみると、ブラジルレアルの下落率はアルゼンチン、トルコに次ぐ大きさとなっています。

 

 昨年秋から、レアルが他の新興国通貨と比べて下落率が大きくなり出しました。

 

 昨年秋については、ブラジルの経済成長率や財政の問題というよりは、アルゼンチンのハイパーインフレに加え、チリの公共料金値上げに対する反政府デモの拡大など、南米諸国の政治・財政的不透明要因が強まったことがレアル安の背景にあります。

 

 このときブラジルのインフレ率は一時4%超まで上がりましたが、現在は落ちつき3月末時点のインフレ率は3.3%です。

 

 

 

 今年の新興国通貨の騰落状況を観察していくと、下落率が大きい通貨は次のような傾向にあります。

 

  1. 資源国である
  2. 今年の経済成長率見通しが相対的に悪い
  3. 外債と経常収支に対する外貨準備が少ない
  4. COVID-19の感染爆発が起こっている

 

 このうちブラジルは1, 2, 4に該当します。

 

 1について、ブラジルの一次産品は大きく大豆、原油、鉄鉱石の3つです。

 

 ブラジルは産油国で今後深海油田からの生産増が見込まれているために、原油価格の暴落が通貨安に影響しました。ただ原油輸出の割合は約10%に過ぎません。

 

 大豆と鉄鉱石はいずれもコロナショックによる価格への影響はそこまで大きくありませんでした。

 

 ただ大豆についてはバイオ燃料需要の低下、米国で従業員のCOVID-19拡大による食肉加工工場の相次ぐ閉鎖で飼料用大豆が過剰となるリスクがあります。米中貿易戦争における米国から中国への大豆輸出の動向も不透明です。

 

 鉄鉱石の価格低下が限定的なのは、中国が依然として在庫度外視で鉄鋼を生産しているためであり、中国でCOVID-19の第二波の発生等に伴い、需給を無視した鉄鋼生産が限界を迎えれば、話は変わってきます。

 

 2について、IMFによるブラジルの今年のGDP成長率予測値は-5.3%です。他にはロシア、南アフリカ、アルゼンチン、トルコが該当します。

 

 3について、ブラジルはいまのところ該当しません。

 

 下図は各新興国の「外債に関する当座比率」を示したもので、1年以内に満期を迎える外債を返済するために必要な外貨準備の余裕の大きさを表します。

 

 ブラジルはほぼ100%であり、最低限の外貨準備を保有しています。いますぐに外債のデフォルト連鎖による金融危機が起こる状況ではありません。

 

 トルコ、アルゼンチン、南アフリカが3に該当します。

 

 

 

 ただしレアル安に対抗するためか、昨年秋から近年にはないペースでブラジルの外貨準備が減少しているため少し注意が必要です。

 

 

 

 4について、ブラジルの総感染者数は新興国のなかで、ロシア次いで多いです。最近トルコを抜きました。死者数は新興国で最大で、新興国で初めて1万人を超えました。

 

今月9日午前11時頃に撮影したキャプチャー画像。最新の数字は下のリンク先から

画像ソース: worldometer

 

 

 ブラジルは日本より僅かにマシなものの、世界的にみて検査数が非常に少ないことが特徴です。

 

 経済政策を優先するボルソナロ大統領は、以前のトランプ大統領のように新型コロナウイルスの感染拡大を軽視し、検査や隔離政策に消極的でした。

 

 3月半ば以降、州や市といった自治体を中心に、外出規制や商業施設の閉鎖などの措置が採られてきたものの、検査は十分に行われてきませんでした。

 

 検査数が圧倒的に少ないことは、ロシアやトルコと大きく異なる点です。検査数の少なさは、死者数が新興国最大である理由の一つでもあるでしょう。

 

 (ただし人口100万人あたり死者数は今月8日現在47人で、スペインやイタリアの1/10未満、ドイツの半分程度です。南米の新型ウイルスは致死性が弱いのかもしれません。)

 

 検査数が少ないにもかかわらずブラジルで、感染爆発が起きているということは、検査されず統計に反映されていない感染者数が非常に多く、実は新興国で最も感染が広がっている可能性があります。

 

 南半球に位置するブラジルは今月から10月まで乾季であり、ウイルスの感染力が強まる可能性があります。

 

ボルソナロ政権の終わりの始まり

 ブラジルは現在、閣僚の解任・辞任が続き、政局が混乱しています。

 

 ボルソナロ大統領は先月、社会隔離政策の徹底を進め、国民からの支持を急速に集めていたマンデッタ保健相を解任しました。

 

 経済を優先し、検査・隔離政策に消極的であったボルソナロ大統領が抵抗勢力とみなしたためです。新しく就任した保健相は大量検査に否定的です。

 

 さらに、これまで長年、連邦裁判事として汚職撲滅に取り組み、国民から絶大な支持を集め「スーパー法相」と評されてきたモロ法相が、4月24日に辞任しました。

 

 辞任理由は、ボルソナロ大統領がモロ法相に知らせずに、連邦警察長官を解任したためです。

 

 モロ法相はボルソナロ大統領から汚職、組織暴力犯罪と戦うために法務大臣に招かれ、連邦警察を含む所轄人事が大統領から白紙委任されました。

 

 法務省はモロ法相のもとで、独立性を尊重しつつ各機関の協力を得て犯罪の撲滅に努め、2019年の殺人事件が19%減少するなど成果を上げてきました。

 

 モロ法相への所轄人事の白紙委任を反故にし、法務省の独立性を脅かしたことへの抗議の意味で、モロ法相は辞任したのです。

 

 ボルソナロ大統領がリスクを負ってまで連邦警察長官を解任した理由は不明ですが、大統領自身およびその家族に犯罪関与疑惑が山積しており、捜査の手が及ばないようにするためとの見方もあります。

 

 (マリエレ市議殺害、ケイロス元補佐官の公金横領と流用、大統領選でのSNSによる世論操作など)

 

 

 ボルソナロ大統領は景気の改善と汚職対策・治安改善で国民から評価されてきました。

 

 しかしCOVID-19の拡大で景気は一転して不況に転じることがほぼ確定しました。生活の困窮やCOVID-19拡大の混乱に乗じた窃盗・強盗等が増え、治安が悪化する可能性が高まりました。

 

 ボルソナロ家の汚職・犯罪疑惑が払拭されないなか、警察人事への介入とモロ前法相の辞任により、汚職対策に後ろ向きであることが鮮明となりました。

 

 モロ氏辞任から3日後、ブラジル最高裁判所はボルソナロ大統領による連邦政策への介入疑惑について、警察が捜査することを承認しました。

 

 今後、ボルソナロ大統領の求心力の低下は必至の情勢であり、ブラジルの政局は混迷を深めそうです。これもまた、レアル安につながる可能性があります。

 

 

 ブラジルは左派政権下で社会保障費が膨らみ、財政赤字を続けたことで政府債務が大きくなり、長年市場から問題視されてきました。

 

 政局の混乱のなかで、左派の台頭やボルソナロ政権が一転して社会保障政策に積極的になれば、長年財政赤字の拡大が市場から問題視されてきたブラジルはさらなるマネーの海外流出に晒されるリスクがあります。

 

 ただ、政府債務が大きく経常赤字国であるブラジルにとっていくつか救いがあります。一つは経常赤字国でありながら、上述のように比較的外貨準備が豊富なことです。

 

 また国債がデフォルトしたアルゼンチンとは異なり、ブラジル国債の9割以上が国内で保有されています。

 

 2016年に海外保有比率は一時的に20%を超えましたが、その後現在まで減少傾向が続いてきました。

 

 

 

 さらにブラジルは政府債務は多いものの、経済に直結しやすい民間債務は特別大きいわけではありません。

 

 今後はどの国もCOVID-19への対応で政府債務が大きく増加することが考えられるわけですから、COVID-19が世界的に収束するまでは政府債務の大きさは必ずしも今後の市場の焦点になるとはかぎりません。

 

 それよりも民間債務が少なく、民間債務不履行の連鎖による経済不況の悪化リスクが少ないと予想される国の方が市場にとって重要だと思われます。

 

ソース: BIS

 

 

 ブラジルの為替についての現在の見方をまとめましょう。

 

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