ECBが欧州の銀行に対する不良債権処理への取り組みを強化

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ECBが欧州の銀行に対する不良債権処理への取り組みを強化

2016/09/13
【ブルームバーグ】ECB、銀行不良債権処理で指針-先送り姿勢の決別

 

 欧州の中央銀行であるECBが12日に不良債権処理に関する指針案を公表しました。欧州の銀行が不良債権問題にしっかりと取り組むようにECBが相談にのってあげたり協力してあげると言っているわけですね。

 

 別の表現をすれば、ECBが欧州の各銀行に対し、薄気味悪い笑みを浮かべながら「不良債権問題、何とかしてね。」と最後通牒を投げかけている、そんな風に言えるかもしれませんね。

 

 

 欧州の銀行は現在、不良債権問題という爆弾を抱えています。ブルームバーグの記事によると、ユーロ圏で合計1.1兆ユーロ程度もの不良債権の存在が疑われているとのこと。これはユーロ圏のGDPの約6.8%にも上ります。

 

 GDPの6.8%もある不良債権問題に対し、ECBが欧州の各銀行にに何とかしろと言っているわけですから、インパクトは物凄く大きいと考えられるわけです。しかも不良債権問題に着手することで新たな不良債権が見つかることも十分考えられるわけですから。

 

 こちらからECBによる指針案の原文を読むことができます。

 

 原文を読んだ印象として、"timely manner", "stronger focus on the timeliness of provisions and write-offs"といった「タイムリー」という言葉が目立ちます。不良債権から生じる損失の会計上の先送りや会計トリックの使用はもはや許されないという気持ちの表れでしょうか?

 

 EU諸国の中で特に現在わかっている不良債権が多い国はイタリアです。8月20日号のThe Economist誌の記事によると、イタリアの不良債権総額は3,600億ユーロにも達するとのことです。これはユーロ圏の不良債権の約1/3に達します。またイタリアのGDPの20%に相当します。

 

 下図は欧州主要国+米国の不良債権総額の推移を表していますが、イタリアの不良債権の増加が著しいですね...

 

欧州主要国の不良債権額の推移

画像ソース:ドイツ銀行

 

 またイタリアの金融機関が抱える、ユーロ圏の金融機関からの資金借入額が3,270億ユーロと近年で最高水準を超えてきました。

 

 ユーロ圏の金融機関同士の資金のやりとりのアンバランス性は金融危機の前兆を示す重要な指標なようで、こちらを見ると2015年以降、再びアンバランス性がどんどん顕在化してきていることが伺えます。リンク先のグラフを見る限り、その主役はドイツ、スペイン、そしてイタリアですね。

 

 主役の一人であるイタリアが、ここ最近さらにアンバランスの度合いを大きくしてきたというわけです。

 

 あとそうそう、イタリアは不良債権問題で一躍脚光を浴びた、現存する世界最古の銀行であるモンテ・パスキのCEOが不正会計に関与したとの疑惑で、現在当局からの調査を受けているんでしたっけ...

 

 他にもEU離脱を支持する反体制派の五つ星運動の飛躍や、憲法改正の是非を問う、事実上の大統領の信任投票である国民投票が今年に行われる予定など、政治的にもイタリアはすごいことになっていますからね。いやいやまったく困ったものだ...

 

 イタリアが間違いなく現在欧州の中で最も「いつ爆発してもおかしくない爆弾」が顕在化している国ですが、他にもドイツ銀行の破綻の噂など、EU全体が不透明感に満ちています。そこに今回のECB主導の不良債権問題の取り組み強化ですから、またどこかしらの導火線に火がついてしまいましたね。

 

 率直に言えば、近々欧州では金融業界のメルトダウンが起こってもおかしくないのでないでしょうか。

 

 欧州で金融業界のメルトダウンが始まった後に待ち構えるのは、ベイルイン。ベイルインとは金融危機が起こり銀行の破綻リスクが顕在化したときに、いままでのように税金を投入して救済するのではなく、まずは銀行の"投資家たち"(株式保有者、債券保有者、さらには預金保護の上限を上回る額を預金している預金者まで!)の資金を銀行救済資金に充てなさい、そんな金融措置のことです(→参考)。今年の1月から欧州で正式に導入され、欧州は新世界に突入したのです。

 

 銀行の救済のために、預金者(特に金融知識に疎い中間層・富裕層)の預金が使われてしまうかもしれない。こんな状況、考えただけでもゾッとしてしまいますが、そんなことが現実味を帯びてきているのです。

 

 実はイタリア政府は今夏にモンテ・パスキの不良債権問題が明るみに出たときに、EUが定めたベイルインに反対するスタンスをとりましたが、EU側はイタリアに対しあくまでベイルインを順守するように釘を刺した経緯があります(→ソース)。

 

 この点を踏まえると、今回のECBの決定はEUに楯突いたイタリアへの報復措置という側面ももしかしたらあるのかもしれません。

 

 いずれにしても、欧州の現実やこれから近々起こりそうな出来事を考えると、とてもじゃないですが少なくとも通貨ユーロを保有しておくのは賢明ではなさそう....

 

 今後の欧州には注目せざるを得ません。

 

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