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米国の救いのない未来を暗示する予算教書の中身

2017/05/25

 

【2017/05/24 ロイター】アングル:米予算教書、補助大幅削減 トランプ支持層に痛みも

 

トランプ米政権として初めてとなる予算教書が23日、議会に提出された。

 

予算教書でトランプ政権は、貧しい家族に食料や雑貨などを支援したり、低所得層などが医療を受けられるようにするプログラムに対する支出の大幅なカットを提案。失業した炭鉱労働者への職業訓練もカットされる公算が大きいほか、地方でヘロインなどの薬物中毒患者が激増している中、薬物治療プログラムも減額されそうだ。地方を対象にした航空機運賃補助も半分以下に削減される見通しだ。

 

トランプ政権は、こうした支出の削減は今後10年間での財政収支の黒字化や、国防関連などの支出増の財源を確保するためだと説明する。

 

共和党のハル・ロジャース下院議員は「提案された予算削減は厳しいものだ。ただの節約なんてものじゃない。実に大幅な削減だ」と話す。

 

補助金削減などを盛り込んだ今回の予算教書は、共和党議員の反発を呼ぶ可能性があり、2018年の中間選挙を控え重要な時期を迎える中、議会運営には難しい舵取りが求められそうだ。トランプ氏自身の支持層が失われる可能性もある。

 

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 実際の予算教書は以下のページからダウンロードできるPDFファイルから確認できます。
 【ホワイトハウス】A New Foundation for American Greatness - President's Budget FY 2018をクリック

 

 予算教書をざっと読みましたが、内容は支出の大幅カットが目白押しの内容となっています。

 

 医療保険制度のメディケイドの支出を2018年からの10年間で6100億ドルの削減、オバマケアの置き換えにより2500億ドルの削減、フードスタンプを1920億ドル削減(いずれも同10年間)などなど。

 

 当たり前ですがこの予算教書通りに米国の財政が推移するとは絶対に考えてはいけません。将来が見積もりどおりに推移するとは思えませんし、そもそも支出の大幅カット(=議員等の利権剥奪)を伴う予算案が議会を通過する保障すらありませんから。

 

 早速、民主党だけでなく共和党議員からも強い反発の声が出ていますしね。

 

 しかし問題は財政支出の大幅な削減以上に、一体トランプは米国の財政をどのように考えているのか、財政赤字を垂れ流し続け、債務残高を積み重ね続けてきた米国の財政を復活させることは果たして可能なのかという点です。

 

 個人的な感想を述べると、トランプは正攻法で米国の財政を立て直すことはもはやほぼ100%不可能だと考えているのではないか、予算教書の数字を見る限り私はそのように思いました。

 

 より客観的に見ても、いくら財政支出の血のにじむような大幅削減を断行しても、米国が何らかの歴史的な破壊的な出来事(長期高インフレ、債務の踏み倒し等)を伴わずに復活できる可能性はほぼゼロでしょう。

 

 予算教書の数字を見ると、トランプの財政・経済政策がトランプの期待通りに導入された場合、2027年にようやく財政が黒字転換すると書かれています。

 

 言い方を変えれば、仮にトランプの政策が思い通りに進んでバラ色の結果が得られたとしても、2026年まで財政赤字は解消されず債務残高は増え続けるのです。

 

 予算教書の数字を見る限り、トランプは社会保障関連費用をはじめとした大幅な支出カットによる緊縮財政によってのみで財政赤字が解消されるとは全く思っていません。

 

 実はトランプ陣営は今後10年間に米国が高成長率を維持し続けることを前提に、将来の財政の推移を見積もっているのです。

 

 予算教書にはトランプの財政・経済等の政策がフルに導入された場合に、全く導入されなかった場合と比較してどの程度財政赤字の削減につながるかの見積もりが掲載されています。

 

 数字を見ると、トランプの政策の完全導入により財政赤字は2018年からの5年間、10年間でそれぞれ8870億ドル、5兆6250億ドル削減できるとしています。

 

 このうち財政支出の削減による効果は、2018年からの5年間、10年間でそれぞれ5420億ドル、3兆5630億ドルだとしています。

 

 ...あれ、財政赤字削減幅と財政支出削減幅に結構な違いがありますね。

 

 この違いは"Effect of economic feedback"という経済効果によって賄われるとしています。経済効果により、2018年からの5年間、10年間でそれぞれ3450億ドル、2兆620億ドルの財政赤字の削減につながると見積もっているのです。

 

 つまりトランプは自身の政策が導入された場合の財政赤字の削減のうち、36-39%程度は経済効果によるものだとしているのです。

 

 したがってトランプは今後10年で財政黒字に転換するためには、財政支出の大幅カットだけでは達成されず、経済効果も大いに財政改善に寄与する必要があると考えていることになります。

 

 "Effect of economic feedback"が具体的に何を指すのかは予算教書では全く触れられていませんが、代わりに2027年までの米国経済成長率の見積もりが載っていますのでそちらを見てみることにしましょう。

 

 トランプ陣営が考える経済成長率の見積もりは、率直に言って楽観的すぎにも程があります。

 

 米国の2015年、2016年の名目GDP成長率はそれぞれ3.7%、2.9%でしたが、想定している名目GDP成長率は2017年は4.3%、2018年は4.5%といった具合で、2021年以降は常に毎年5.1%の経済成長率を想定しているのです。

 

 このうちインフレ効果は大体2%程度を想定しており、実質GDP成長率はいずれ3.0%で長期推移していくと見積もられています。あくまで実体経済の高成長維持を前提に名目GDPが高成長を継続すると見ているのです。

 

 この数字はどう考えても非現実的です。まず今後の金融崩壊リスクによる経済デフレリスクが全く考慮外です。

 

 さらに仮にデフレが起こらずとも、今後米国経済の復活に必要な労働生産性が最近は低迷しており、復活の兆しを見せていません(下図橙線)。

 

米国の労働生産性推移

画像ソース:CNBC

 

 さらに仮に労働生産性を向上できたとしても、それはITやロボットの活用による労働者の置き換えが伴うことは避けられないでしょうから、目先の労働生産性の向上は失業者数の増加を招くでしょう。

 

 よって見積もり通りに米国経済を復活させるには、新たな経済市場(それはクリエイティブなものが要求される市場)を創出してそこに労働者を再配分させることが必須でしょう。

 

 しかし短い期間にクリエイティブな能力が要求される市場を創出して、そこに多くの人材を流し込むことはほとんど不可能と言っていいでしょう。

 

 理由はいろいろ考えられますが、やはりあまりにも格差が広がりすぎて貧困層が急増し、低賃金やローンの返済等により日々の生活に手一杯で創造的なことなど考えている余裕のない人々(中年、若者問わず)であふれ返っていることは、今後の米国の経済成長への致命的な阻害要因だと考えられます。

 

 そう考えると、トランプ陣営の想定するような経済成長の達成は夢のまた夢と考えざるを得ません。

 

 経済に関する非現実的な想定のもとで今後の財政状況を見積もっており、経済成長要因による財政赤字幅の削減が今後10年での財政黒字への転換のためのクリティカルな必要条件となっているのです。

 

 そう考えれば、どんなに社会保障等の分野で血のにじむような支出の削減が断行されたとしても、財政赤字の解消は夢のまた夢なのです。

 

 トランプがどんな改革を行おうが、米国の財政状況は「経済成長に伴う税収増+緊縮財政」というスタンダードな手法によって改善させることはほぼ100%不可能であることを、予算教書の数字は我々に教えてくれます。

 

 中長期にわたる高インフレ環境の継続、政府機関の大規模シャットダウン、債務の踏み倒しといった破壊的出来事なしに、米国の財政・経済が復活する道筋は、ほぼゼロと断言して良さそうです。

 

 数字を見る限り、トランプもこうした米国の救いのない現状はわかっていると思います

トランプは2018会計年度予算案が通るとは思ってなさそう

 予算案を見る限り、どうもトランプはそもそも予算案が通るとは思っていないような気がしてなりません。それは以下の理由からです。

 

  • トランプの政策導入による財政赤字削減の効果が大きく現れ始めるのは2020年以降としており、短期的にメディアや国民にアピールできる数字が見当たらないこと(特に2018年は財政赤字がむしろ増えるとしている)
  • 財政赤字削減幅が趨勢的に増え続けると仮定しており、遠い不確定な未来の財政赤字削減効果に大きく頼っていること
  • 非常に厳しい支出カットが盛り込まれており、国民以上に利権にすがる議員等にこそ受け入れられない内容となっていること

 

 下図は予算案に示されている、政策導入前後における財政赤字見積額です。政策導入効果が大きく出始めるのは2020年からであり、短期的な成果が支持率に直結する大統領職において、トランプにメリットのある見積もりとは言えません。

 

 また2020年以降の政策導入後の財政赤字額の減少度合いは、まるで政策導入前のグラフを鏡で写したかのような推移をたどっており、いい加減さが伝わってきます。

 

2018年度予算案_財政赤字見積額

 

 もう一つ、下図は各省庁や各種プログラムごとの財政赤字削減幅を示したグラフです。各項目の削減幅がどの程度かどうかは置いといて、図を見ると全体の削減幅が年々増え続けていることがはっきりとわかります。

 

 これ、フローですからね。ストックではありませんよ。すごいですよね、将来が遠くなるほど不確かになるにも関わらず、財政赤字削減幅は増えていくという超強気の見積もりです。

 

2018年度予算案_財政赤字削減幅

 

 またこうして各省庁やプログラムの予算をどんどん削っていくぞというトランプ陣営の見積もりは、利権にすがる議員等の連中に対するこれ以上ない挑発的なものとなっています。

 

 以上より、当該予算案はかなりいい加減な代物であり、かといってトランプにとってメリットがあるわけではなく、議員等の利権にすがる連中の反対必至なものに仕上がっているのです。

 

 ただでさえ上院の共和党議員数が予算案可決に必要な60人に達していないにも関わらず、こんな反発必至の予算案を見て、本当にトランプは予算案を通す気があるのかと言われれば、???と疑問符がつかざるを得ません。

 

 最後に、予算案に載っているトランプのメッセージを引用しておきましょう。

 

It is now up to the Congress to act. I pledge my full cooperation in ending the economic malaise that has, for too long, crippled the dreams of our people. The time for small thinking is over. As we look forward to our 250th year, I am calling upon all Members of Congress to join me in striving to do big and bold and daring things for our Nation. We have it in our power to set free the dreams of our people. Let us begin.

 

[粗訳]あとは議会の行動に掛かっている。あまりにも長い間、我々の国民の夢を打ち砕いてきた経済の沈滞に終止符を打つべく、私は完全なる協力をすることを誓う。小手先の考えをしている時は過ぎた。建国250周年に向けて、私はすべての議員に対し、我々の国家のためにデカく大胆な行動に励み、挑戦することに加わるよう求めている。我々は国民の夢に自由をもたらすパワーを持っている。さぁ始めよう。

 

 米国建国以来の伝統である財政の均衡、自由の国としてのアメリカをぶち壊し、長年政府のカネを好き勝手使い続け、足りないカネは債務で賄い、改善不可能なレベルにまで財政、さらには国民を疲弊させた罪は重いぞという、議会や利権集団への最後通牒のように聞こえますが、皆さんはどう思われますか?

 

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