緩和策の限界近づく中央銀行と、動向が注目される日銀・黒田総裁

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緩和策の限界近づく中央銀行と、動向が注目される日銀・黒田総裁

[2020/03/04 日本経済新聞]FRB、早期追加利下げも 株安で月内に再緩和観測

米東部時間3日の午前7時。パウエル氏は主要7カ国(G7)の緊急電話会議に参加し、その後にすぐさま臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開いて、0.5%という大幅な利下げを決めた。臨時会合で利下げするのは、金融危機直後の2008年10月以来。新型コロナウイルスによる景気不安に対処するため、11年半ぶりという異例の緊急措置を繰り出してみせた。

 

3日の株式市場ではダウ平均が前日比785ドルも下落し、投資家心理の劇的な改善にはつながらなかった。

 

 市場は中央銀行の対応に非常に神経質になっています。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界に広がり、いまだ収束を見せず、米国でもすでに9名が死亡しいくつかの州で緊急事態宣言が発令されました。

 

 ウイルスという見えない敵への恐怖とそこから生じる行き場のない複雑な感情を、市場は中央銀行にぶつけているのです。

 

 パウエル議長は、市場が今月0.5%の引き下げを予想しているとのデータに基づいて、0.5%の引き下げを実行しました。

 

 引き下げ予想は急騰したものの、その後暴落し、市場は再び今月中に0.5%の追加利下げをFedに迫っています。

 

画像ソース: Zero Hedge

 

 市場の先進国中央銀行に対する圧力の大きさと反比例して、先進国中央銀行の金融緩和ツールは金利政策、量的政策ともにもはや玉切れに近い状態です。

 

 もしFedが市場の期待に応えようと0.5%の追加利下げを行えば、政策金利の誘導目標レンジは0.5-0.65%となり、マイナス金利を容認しないかぎり、さらなる利下げはより厳しくなります。

 

 トランプ大統領はマイナス金利にするようFedに圧力を掛けてきましたが、パウエル議長はこれまで反対してきました。

 

 

 市場は今月12日にECBが0.1%のマイナス金利の深掘りをすると予想しています。

 

 しかしマイナス金利政策への風当たりは、昨年秋ごろから欧州を中心に強まっています。

 

 銀行の収益性を圧迫し、年金基金と保険会社の運用リターンを押し下げ、消費を抑制し、百害あって一利なしとみなされています。

 

 スウェーデン中央銀行は昨年12月に政策金利をマイナス0.25%から0%に引き上げ、約5年間続いたマイナス金利政策を終了させました。

 

 ECBのラガルド総裁は以前、マイナス金利の「効果のプラスとマイナスのバランスについて問うことが必要になる瞬間があるだろう」と述べており、マイナス金利の深掘りには慎重な姿勢です。

 

 中央銀行やIMF等の国際機関は、金融政策による景気下支えだけでは不十分であり、財政支援も必要だと、市場や経済の安定化の責任の一部を政府になすりつけようとしてきたものの、市場の反応を見る限り上手くいっていません。

 

 

 これから市場の注目を集める可能性があるのが、日銀の黒田総裁です。

 

 近年、口先ばかりで金融緩和を縮小し続け市場から見放されてきた黒田さんでしたが、今月2日に異例の総裁談話を発表し潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく方針だと述べました。

 

 さらに同じ日、通常の購入額である700〜740億円よりもはるかに大きい1,002億円の日本株ETFを買い入れ、市場にちょっとした意外感を与えました。

 

 黒田さんへの市場の疑念は払拭されておらず、ETF買いによる株高は限定的でしたが、今月19日の金融政策決定会合で、ここ10年で一度しか利下げしておらず利下げ確率5%とみなされている日銀がマイナス金利の深掘りを決定すれば、市場にとって大きな驚きとなるでしょう。

 

 

 「マイナス金利の深掘り?まさか!?」

 

 

 日銀は2月12日、銀行の決済サービスの課金体系に関する報告書を公表し、銀行に対し「口座維持手数料の徴収」「サブスクリプション(定額使い放題)サービス」の導入を提案しました。
[2020/02/12 日銀]銀行の決済サービスの課金体系に関する考察

 

 これらが早期に実現するかどうかはともかく、もし仮に実現すれば、マイナス金利政策による収益の落ち込みを銀行がカバーできるようになります。マイナス金利の深掘りと親和性が高いのです。

 

 

 WHOが新型コロナウイルスの感染拡大で「最大の懸念」と述べた国の一つである日本は、金融政策でも世界で大きな注目を集めるかもしれません。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大の封じ込めの成否および、金融政策決定会合での決定内容がどのようなものとなり、世界がどのように受け止めるかで、世界が大きく動く可能性があります。

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