大きなうねりが進行中:ブレグジット、トランプの次は欧州

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大きなうねりが進行中:ブレグジット、トランプの次は欧州

2016/11/17

 

 トランプ氏が次期米国大統領に決まり、早速国内政策から外交政策まで大きく変わりそうな雰囲気満載ですね。

 

 

 さて、ブレグジットのイギリス、トランプのアメリカの次は欧州の番です。

 

 12月4日にイタリアで憲法改正の国民投票(事実上のイタリア現政権の信任を問う投票)が行われるのを皮切りに、2017年にはフランス大統領選挙、ドイツの欧州議会選挙が行われるなど、欧州もこれから大きく動き出します。

 

 そういうわけで、欧州の現状について個人的な見方を簡単に書いておこうと思います(あくまで個人的な見方ですのであまりあてにしすぎないでくださいね)。

 

 まず欧州の金融全般。欧州の金融機関の財務体質はどうしようもなく、積み重なった不良債権をどうにか処理しないといけません。そんな中で最近4ヶ月は世界の金利が上がりだしており、トランプ当選後はさらに勢いを増していて、いよいよ財務体質の悪い金融機関の破綻ラッシュの足音が聞こえてきました。

 

 ECBも欧州での金融機関の監視ルール統一化への動きを着々と進めていますし、欧州金融機関に大規模な自然淘汰の波や大規模メスが入るのはもはや時間の問題となってきました。

 

 金融環境が悪化して欧州にデフレ(またはスタグフレーション)の波が襲い掛かるのはもはや確定的になっていますが、最近は欧州各国の政治状況も大きく動いていますね。なんかもう度肝を抜くようなニュースもどんどん出てきています。見ていくのはフランス、イタリア、ドイツです。

 

フランス:オランドの本性が露になった

 まずはフランス。フランスでは現在、オランド大統領が窮地に立たされています。

 

 オランド大統領とのインタビュー内容を抜粋した本が発売されたのですが、その中でオランド大統領が、シリア・アサド政権が抱える人物の暗殺計画に関する機密情報をジャーナリストたちに漏らしたことを認める発言をしていたことが発覚したのです。

 

 この大スキャンダルがフランスの右派議員に取り上げられ、オランド大統領の弾劾提案が11月10日にフランス議会を通過しました。

 

 フランスでは2015年11月13日にパリで起こったテロ襲撃事件以降、オランド大統領が非常事態宣言を発令して現在まで延長されてきました(最初は3ヶ月のはずだったのに...)。非常事態宣言のもとでオランド大統領は警察権限を強化しており、フランスの警察国家化への懸念の声も出ていました。

 

 そんな中オランドの社会党政府はフランス全人口に相当する6,000万人超の個人情報のデータベース作成に着手しはじめているようです(しかもこの作成、法律にも抵触するみたいです)。これはフランスの警察国家化にさらなる拍車をかけるものと見られています。

 

 現在のフランス政府の動き、オランド大統領のインタビューでの発言、それにパリ襲撃事件の2日後にフランスがシリアのラッカを空爆した事実...こうした動きは2001年の9.11同時多発テロを契機にアメリカ愛国者法を成立させて、「テロとの戦い」を名目にNSAによる一般人の個人情報の収集を行ったり、アフガン戦争やイラク戦争を仕掛けたアメリカ・ブッシュ政権の動きと非常によく似ています。

 

 そんな中でオランド大統領の弾劾への動きというわけです。すでにオランド大統領の支持率は4%と絶望的な数字になっています。

 

 そう考えると、オランドも窮鼠猫を噛む状態になっているようですね。フランスの激動は必至だ...

 

イタリア:年末までに金融・政治の混乱は必至

 続いてイタリア。イタリアは欧州で最も不良債権が積もっており、イタリアのGDPの20%に相当します。今後金融・経済の大混乱は必至です。そんな中12月4日に事実上のレンチ政権の信任投票となる国民投票が行われます。

 

 もはや投票結果は「No」となる流れ、つまりレンチ政権の崩壊の流れとなっており、政治空白期間のあいだに金融・経済のメルトダウンが起こることが懸念されています。またEU離脱の流れも加速していきそうです。金融・経済・政治が年末までに大混乱に見舞われるのは避けられなさそうです。

 

 もう一つ見逃せないのが、イタリアでは例のモンテ・パスキ銀行が、いわゆる「ベイル・イン」プログラムの導入に踏み切りそうな流れですね。ベイル・インとは、当該銀行の株式や債券を保有している投資家たちに、その銀行救済のための犠牲になってもらうという政策のことです。

 

 いままでは「ベイル・アウト」と呼ばれる、国民の税金を銀行救済に充てる政策が行われてきました。しかし税金を銀行救済資金に充てるなどとんでもない、国民に悪いということで、ベイル・アウトはやめてベイル・インにしましょうという動きがEUで出てきたわけです。関連法案も発効済みです。ベイル・インの推進者の一人がドイツのメルケル首相です。

 

 イタリアのレンチ首相は2016年夏、モンテ・パスキの救済をベイル・インではなくベイル・アウトにしたい旨をメルケル首相に伝えましたが、メルケル首相からは冷たく却下されています。EUの法律に従えとのことで。

 

 そうした背景があるなか、遂にモンテ・パスキはベイル・インに動いてきたのです。11月24日の株主総会を経てベイルインは実行される見込みです。12月4日のイタリア国民投票と重なっており、どんなうねりが起こるのかは未知数ですが、モンテ・パスキのベイルインがもたらす影響はいずれドイツに波及していくことでしょう。

 

 

ドイツ:激動のマグマが見えないところで増幅中か

 いま、ドイツとイタリアはコインの表裏のような関係にあります。それを如実に示すのが欧州決済システムのカネの流れです。これを見ると2015年7月以降、イタリア国内のカネがドイツ国内に流れている様子がわかります。イタリアの未来を悟った人々がドイツに資産を避難させているとの見方があります。

 

 しかしドイツにカネを避難させたからといってドイツが安全かといえば、そうではないです。フランスやイタリアほどの激動必至をうかがわせる大きなニュースはまだ見当たらないものの、報道を見ていくとドイツでは見えないところでマグマが増幅中で、いざ爆発したら物凄いことが起きそう、そんな非常に不気味な状況に見えます。

 

 ドイツの金融機関といえばドイツ銀行ですが、ドイツ銀行はモンテ・パスキの損失隠しに加担するなど、蜜月の関係にあったことがわかっています(→ソース1→ソース2)。イングランド銀行もイギリスの銀行に対して、ドイツ銀行とモンテ・パスキとの関わりを報告するよう呼びかけています。

 

 ドイツ銀行とモンテ・パスキがどのくらい裏で関わっているのかはまだ不透明ですが、場合によってはモンテ・パスキの問題がドイツ銀行に飛び火して大炎上するリスクも決してゼロではありません。そういった意味でドイツは不気味です。またこれはドイツとイタリアがコインの裏表の関係を示す事柄の一つでもあります。

 

 それだけではありません。モンテ・パスキがベイルインを実行する方向に舵を切ったことは、メルケル政権にとっても大打撃をもたらすかもしれません。上に書いたように、メルケル首相はモンテ・パスキのベイルアウトを却下し、事実上ベイルインするよう通告したわけです。

 

 ではもしドイツ銀行が破綻間近になったらどうするのでしょうか?ドイツ銀行は現在システミックリスク(世界の金融システムをメルトダウンさせてしまうリスク)が最も高い金融機関だと言われており、実際に世界中の金融機関とのあいだで膨大な額の取引を行っています。

 

 ベイルインにばかり固執してベイルアウトという選択肢をなくしてしまうと、ドイツ銀行救済の幅が狭くなりドイツ銀行の破綻につながる可能性もあり得ます。こうなるとメルケル首相は自身の意見にしがみついたあまり、世界金融システムをメルトダウンさせたデストロイヤーといわれてしまうかもしれません。

 

 しかしベイルアウトをしてしまうと、ただでさえベイルアウトは国民から不評を招く政策であるにもかかわらず、いままでの「ベイルアウトは認めん」というメルケル首相の態度の一貫性も崩れてしまうので、メルケル政権の支持率悪化は必至です。

 

 ドイツ銀行の今後の動向によっては、メルケル首相のイタリアに対する冷酷な姿勢がブーメランとなってメルケル首相に返ってきて「進むも地獄退くも地獄」という、解決不能なジレンマに陥ってしまうでしょう。これもまた、ドイツとイタリアはコインの表裏の関係という意味です。

 

 メルケル首相の苦難はドイツ銀行の問題だけではありません。移民問題や治安悪化の問題も深刻さを増しています。

 

 実は現在、ドイツでは治安が急速悪化しています。その根本原因はメルケル首相の移民政策にあるとされています。

 

 ドイツ警察当局によると、2016年上半期の移民による犯罪件数は14万2,500件もあるそうで、2015年の同時期より40%増とのこと。一日平均780件の犯罪が生じていることを意味します(→ソース)。

 

 ドイツに来たアジアや中東、アフリカからの移民の一部の中には、ドイツの立ち入り禁止区域に入れられて、地元警察との軋轢もあるようです(→ソース)。

 

 ドイツ国民の過半数もここ数年でドイツの治安が悪化したと感じているそうですし、メルケル首相の支持率も一時は政権をとってからはじめての過半数割れも経験しました(現在は過半数の水準にまで回復しているみたいですが)。とはいえ移民・治安問題の解決の糸口はまったく見当たりませんし、相当行き詰っているのではないでしょうか。

 

 このようにメルケル政権は将来的に大きなリスクを抱えているように見えるのですが、そんな中で欧州はEU軍創設に向けた動きを見せています。

 

 以前の記事でもEU軍創設という動きが突然出始めたことを書きましたが、ちょうどトランプ大統領が次期米国大統領に決まった直後、欧州委員会のユンケル委員長はベルリンで行われたフォーラムで改めてEU軍創設に関する発言をしています。

 

 これよりちょっと前にメルケル首相も、ドイツの防衛費をGDPの2%以上にまで引き上げると発言しており、21世紀には自身で軍を持たないといけない旨述べています。これはユンケル委員長の発言にも現れており、EU軍創設とつながっていると思われます。

 

 ただ、EU軍を創設するにしてもその財源がどこから出るのかは不明です。EUのほとんどの国では財政赤字ですし、そもそもNATO加盟国の目標水準である「GDPの2%の防衛費支払い」すらほとんどクリアできていません(ドイツ含む)。ドイツは現在財政黒字ですが、防衛費をGDPの2%に引き上げると財政赤字になってしまいます。国債を発行するにしても、もう金利が上がってきているので買い手もつかないでしょう(ヘリマネでもしないかぎり)。

 

 EUのカネ不足という現状を考えると、EU軍創設というのはメルケル政権やEU政府存続のための彼(彼女)らの空虚な願望にすぎない可能性もあります。EUの現状を考えれば、軍事的手段に頼ってでもEUをつなぎとめたい気持ちはわからないでもないですが...

 

 あまりまとまりのない文章になってしまいましたが、ドイツ、そして欧州の現状がいかに不気味であるかは何となく伝わったのではないでしょうか。

 

 最後に、フランスやイタリアは、それぞれ国民戦線、五つ星運動という、反EU、反移民政策を掲げる反エスタブリッシュメントの受け皿が明確にあります。一方ドイツは政権の支持率がいまだに高く、別の受け皿の台頭が鮮明に現れていないところで大きな違いがあります。

 

 こうした点も踏まえると、実はドイツが欧州の中で一番の爆弾を抱えているのではないでしょうか。

 

**********

 

 トランプが次期米国大統領に決定して、早速世界が大きく動いていますよね。

 

 ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、イギリスのメイ首相、そろってトランプと電話会談を行って今後の協調を約束しました。フランスで大きな支持を集めてきている国民戦線のルペン党首もトランプやプーチンとの協調を希望しているとのこと。

 

 一方でドイツのメルケル首相はトランプとの敵対姿勢が注目されていますね。あと日本の安倍首相もトランプが当選するまではずっとヒラリーを応援していましたよね(トランプ当選後は態度が一変していますが...)。

 

 この構図、なにかに似てませんか?私はこの構図をみて第二次世界大戦末期のヤルタ会談のときの立ち位置とそっくりだと感じてしまいました。実際のところはどうなのでしょうかね。

 

 ちなみに日本は政権の支持率が高く、別の受け皿が台頭してきていないという点でも、ドイツと似ています。

 

 なんだか世界の大転換は想像以上に速いスピードで進んでいるのかもしれませんね。すごい時代に生きているものだ...

 

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