トランプ政権はNATOの自滅を狙っているのかもしれない

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トランプ政権はNATOの自滅を狙っているのかもしれない

2017/01/13

 

【2017/01/12 ロイター】マティス次期米国防長官、ロシアに対抗できるよう備え必要と指摘

 

トランプ次期米大統領が国防長官に指名したジェームズ・マティス元中央軍司令官は12日に開かれた米上院軍事委員会の公聴会で、ロシアは米国の国益に対する主要な脅威との見解を示すとともに、必要となれば対抗できるよう備える必要があると指摘した。

・・・
公聴会でマティス氏は国益に対する主な脅威について聞かれ、「最たるものはロシア」と表明。「関係構築を全面的に支持するが、ロシアをめぐる現状についての認識も必要」と指摘するとともに、ロシアと協力できる「分野は減りつつある」とした。
・・・
また、ロシアのプーチン大統領は北大西洋条約機構(NATO)の「破壊を狙っている」と批判した。

 

 

 ここ最近、トランプ氏はトヨタを名指しで批判するなど産業界を挑発したり、台湾総統と電話会談するといった中国を刺激する言動をとってきました。

 

 これらの背後につながっているのが、アメリカ経済の復活です。こちらの記事に書いたようにアメリカは中国を中心に貿易赤字を垂れ流し続け、経常収支もずっとマイナス。企業を米国に呼び、内需を復活させ、有利な貿易環境をつくりだして米国経済の復活につなげることが喫緊の課題となっています。

 

 11日の記者会見でトランプ氏は貿易赤字相手国として中国(1位)、日本(2位)、メキシコ(4位、3位のドイツと同程度)を名指ししていますし(カッコ内は米国の対国別貿易赤字額の順位)、今後のトランプ政権の言動は、一見関係なさそうに見えても背後には経済問題と関わりがあることを常に念頭においておくことが大切そうです。

 

 トランプ氏がもう一つどうにかしないといけないのは財政再建です。アメリカ経済復活による税収入の増加は短期では到底見込めないので、まずは歳出カットで無駄をどの程度省けるかが大きなポイントとなります。

 

 早速、米議会上院でオバマケアの廃止プロセス開始が承認されましたね。素早い。これは社会保障費削減のためです。オバマケアに毎年1兆ドル以上の予算が組まれてきたのですから。

 

 →下院でも可決されました。電光石火の早業ですな。

 

 そしてアメリカは社会保障費と並んで、軍事費をなんとしてでも抑えなければなりません。そのためには、すでにソ連崩壊によって本来の役目を終えているにも関わらず、その後も軍産の利権として拡大し続けてきたNATOからの離脱は絶対でしょう。

 

 しかしそう簡単にNATOから離脱することなんてできません。何故ならNATO利権にぶら下がっている連中が、NATO防衛費全体のの7割以上を負担しているアメリカが離れるなんて到底認めるわけないですから。変にNATOからの離脱を訴え続けると、最悪銃口を突きつけてくるかもしれませんから、危険危険。

 

 このように手なずけるのが難しい、軍という組織からどうにかして身をひくにはどのようにすればよいのか...

 

 それは「自滅的敗北」によって軍関係者のプライドをズタズタに引き裂くことです。相手からの攻撃によって打ち負かされるのではなく、食糧や燃料不足に陥るとか、天候といった自然が軍の体力を消耗させるとか、軍内部の反乱・仲間割れによって統率が失われるとか、そういった自滅、あるいは怒りの矛先をどこにも向けられない、恥辱的な敗北を喫することです。

 

 そして軍の統率に乱れたところに、幹部の裏の顔をはっきりと示す内部文書、メール等の情報がウィキリークスなどで世界中にリークされれば、もはや軍の威信を取り繕い続けることは無理でしょう。

 

 トップで引用したニュースにあるように、トランプ次期政権の国防長官に就任予定のマティス氏はロシアとの軍事的衝突もあり得ると匂わせる発言をしました。つまりNATO軍とロシア軍との衝突の可能性について触れているのです。

 

 トランプ氏はロシアとの関係修復を望んでおり、大統領当選前を中心にNATOの廃止についても述べていましたから、トランプ氏と一見対立しているように見えます。

 

 しかしマティス氏の発言は、場合によってはトランプ氏に追い風になる可能性もあるのです。

 

 NATOを鼓舞し、あえてロシア軍と一触即発状況にさせて、しかし結局NATOが何らかの形で自滅的敗北を喫すれば、NATO関係者を弱体化させ、アメリカのNATOからの離脱やNATOの解体をしやすくなります。

 

 トランプ氏はNATO軍のロシア侵攻に賛成表明をしなければ、NATO敗北の責任を問われることもないでしょうし、トランプ政権としてはマティス氏主導でNATO支持の形になっていたわけですから、NATOや軍産との対立を抑えやすくなるかもしれません。

 

 戦争というのは金融機関による信用供与(カネ)や武器・食糧・燃料等の受け渡しのスムーズさといった、裏方的な組織の行動によって勝敗が分かれる面がありますから、裏で刷り合わせができていればNATOが自滅するように誘導させることもできましょう。

 

 そうしたらあとは、親ロシアでプーチン大統領とも親しい、次期米国務長官のティラーソン氏がロシアとの交渉のテーブルに就けば、うまーくロシアとの関係を築くこともできるでしょう(表向きは軋轢があるようにみえるかもしれないですが)。

 

**********

 

 上に書いたのは一つの大雑把なシナリオですから、上の通りに事が進むとは思わないで下さい。

 

 しかしいずれにせよ、NATO解体や縮小の方向に向かうのは避けられないのではないでしょうか。

 

 色々な見方があるとは思いますが、結局NATOを維持するだけのカネがもはやないのです。各国借金だらけ、市場のバブル崩壊が時間の問題、一部先進国を中心とした労働力人口減少という確定した未来、改善しない労働生産性...

 

 現在でさえ、NATOにカネを出しているのはほとんどがアメリカで、NATOの公式基準である「GDPの2%以上の支出」を守っている国は、NATO加盟国28国のうち、アメリカ含めたった5カ国しかいないのですから。ドイツ、フランスはじめ欧州のほとんどの国は割安でランチを得ている状況なのです。

 

 トランプ氏が次期大統領に選出後、NATOの事務総長は欧州各国に対し、優等生のイギリスを引き合いに出してやんわりと「カネを出せ」と圧力を掛けていますが、NATOのトップからこんな発言がやんわりとでも飛び出す時点で、NATO組織内の苛立ちや不安、動揺が感じとれます。

 

 カネがなければ軍を維持することができないのは歴史が示すとおりです。今後どのような道筋をたどるのかはわかりませんが、結局はNATO解体や縮小への道しかないように思えます。

 

 東西冷戦のプレーヤー2者は、結局どちらも敗北という形で歴史に刻まれるのではないでしょうか。

 

 

*********

 

 最近、東欧諸国のロシア国境付近に、NATO軍や、戦車といった道具が次々と送り込まれています。今年5月までに準備が整うことを目指しているようです。

 

 また米外交政策の奥の院ともいわれる外交問題評議会(CFR)は、2017年に勃発懸念がある7つの最上級の紛争のトップ項目として、ロシアとNATOの軍事的衝突をあげています。

 

 ロシアの厳しい冬を考えると早いうちに侵攻するのが得策ですから、今年6月にもNATO軍がロシア侵攻に踏み切る可能性があります。

 

 ナポレオンにナチスドイツ、ロシア(ソ連)に侵攻した強大な軍は、いずれも6月に侵攻を開始していますが、結局ロシアの厳しい冬に打ち負かされて、最終的に敗北を喫しています。

 

 歴史は繰り返されるのでしょうか。

 

【追記:2016/01/16】
 トランプ氏が15日にトランプタワーで行ったインタビュー内容が、イギリスのThe TimesとドイツのBildに掲載されましたが、すごいこと言ってますね。ポイントだけ(意訳あり):

 

  • イギリスのEU離脱は成功するだろう。EUは国際貿易でアメリカを叩きのめそうとしている、ドイツの支配道具だ。より多くの国がEUを離脱するだろう。
  • NATOは時代遅れだ。NATOは私にとってはとても重要だ。しかしNATO加盟国のうち、アメリカ含めたった5ヶ国しかまともにカネを支払っていない。
  • アメリカはロシアに経済制裁を課してきたが、ロシアと何か良い取引ができるか模索しようではないか。例えば、核兵器を削減するとか。
  • ブッシュ政権によるイラク侵攻の決定は、アメリカの歴史上最悪だったかもしれない。

 

 私が読んだメインの記事はこちら:
 →【Bloomberg】Trump Slams NATO, Floats Russia Nuke Deal in European Interview

 

 トランプ氏の言葉からはっきりわかるのは、一部エリートの金儲けのために戦争したり軍拡するのはやめようぜってことです。そしてトランプ氏はとにかくアメリカの軍事費を一刻もはやく削減したいことがわかるでしょう。

 

 トランプ氏はアメリカ国民だけではなく、世界中の市民の支持を集めて、軍の縮小や軍事費の削減を行おうとしているのです。世界中の人たちからの支持を集められる期間は永遠ではないですから、支持が大きいいまのうちに大きな決断を下し、行動に移すほかはありません。

 

 今後世界ではトランプ側 V.S. 反トランプ側の権力闘争を背景とした大きな出来事が目まぐるしく起こるかもしれませんが、驚かないように。

 

 時代はすでに、変革のフェーズに入ったのですから。

 

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【ボーナスステージ】
 NATOとロシアの関係を調べていたときに閲覧したニュースです(★マークは特に重要だと思われる記事)。

 

 記事作成のために個人的なメモとして残したものです。コメントには誤りが含まれているかもしれないので、興味のある記事は原文をご覧下さい。

 

【2016/07/15 MINISTRY OF FOREIGN AFFAIRS OF THE REPUBLIC OF LATVIA】Evaluation of NATO’s Warsaw Summit Results
→7月14日にNATOがバルト海沿岸諸国のロシア国境に軍を派遣することを正式に決定

 

 【2016/08/09 RT】Western leaders ‘too slow’ on countering Russia – top NATO general
→NATO GeneralのDenis Mercier氏の発言。NATOのイスに座っている人物は戦争やる気だが、欧州メンバー中心にやる気なし?

 

【2016/09/18 RT】‘Position of strength’: NATO to deploy 4,000-strong ‘deterrent’ near Russia’s borders by May
→クロアチアのSplitという場所で開催された会議で決定された。2017年5月までに派遣ということは、6月にロシア侵攻の可能性が結構高いかも

 

 【2016/10/27 RT】Germany to send modern tanks to Russian border – Defense Ministry
→ドイツ国防省の報道官がその旨を発言した

 

 【2016/11/14 RT】EU will maintain Russia policies, even if US changes course – Mogherini
→トランプ当選後。EUは反ロシアだぞ、クリミア併合やウクライナへの進駐は許さないぞとのスタンス。欧州委員会副委員長兼欧州連合外務・安全保障政策上級代表のフェデリカ・モゲニーニ氏の発言。

 

 【2016/11/22 RT】Russia has right to defend against ‘aggressive’ NATO – Kremlin on Baltic missile placement
→ロシア側からNATOへの敵対的な発言が飛び出したのは久しぶり?トランプ当選が関わってるかも

 

【2016/11/24 RT】NATO chief urges EU to increase military budgets to maintain bond with US under Trump
→NATO事務総長の発言。反NATOの言動を繰り返してきたトランプが当選して、カネ不足に陥ることを本気で懸念しているようだ。

 

【2016/11/26 RT】15 European leaders call for new arms deal with Russia
→反NATOとも受け取れる発言が欧州から出た。発言はドイツ外相。ロシアと和解し軍拡をやめ、それよりも欧州内部の安全保障に力を注ぎたい勢力がいるみたい。15の国はすべてOrganization for Security and Cooperation in Europe (OSCE)加盟国。

 

 【2017/01/06 RT】100’s of US tanks, heavy equipment flow into Europe to counter ‘Russian aggression’
→何百もの軍事用タンク、トラック、その他グッズがドイツの港に到着。陸路で東欧に輸送される

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