MbSの大ばくち?

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MbSの大ばくち?

2019/09/11

 

 小記事です。本日は9.11同時多発テロ事件から丸18年ですね。

 

 ということでサウジアラビアについて緩めの記事を書きました。9.11テロとは関係ありません。

 

 

 サウジアラビアにおけるエネルギー分野をめぐる人事がすごいですね。

 

 以下、日経の記事からです。
[2019/09/08 日本経済新聞]サウジ、エネルギー相を解任 後任はアブドルアジズ王子

 

  • サウジアラビア国営放送は8日、ファリハ・エネルギー相が解任され、後任にサルマン国王の息子であるアブドルアジズ・ビン・サルマン王子が起用されると報じた
  • ファリハ氏は今月、国営石油会社サウジアラムコの会長職から解任されたばかり
  • 石油テクノクラートが務めてきたエネルギー相のポストに王族が就くのは建国以来初めて
  • アブドルアジズ王子は実力者ムハンマド皇太子の異母兄弟にあたる。
  • サウジは8月、エネルギー産業鉱物資源省をエネルギー省と産業鉱物資源省に分離した
  • アラムコ会長後任にはムハンマド皇太子の信頼が厚い政府系ファンド総裁のルマイヤン氏が起用された

 

 これらから直ちに次のことがわかります。

 

  • ムハンマド皇太子(MbS)がエネルギー相とアラムコCEOという、サウジ経済にとって根幹をなす人物を身内や親しい人物で固めたこと
  • 事実上のファリハ氏の追放であること

 

 エネルギー相のポストに建国以来初めて王族が就くことに加え、伝統的に同一人物が兼務してきたアラムコ会長とエネルギー相のポストが分断されたという、異例ずくめの人事でした。

 

 アラムコ会長とエネルギー相が分断され、MbSの身内や親しい人物で固められたことにより、エネルギー分野の権限をMbSが一手に握ることになります。

 

 MbSは国防大臣を兼務しているため、今回の人事でMbSは軍とエネルギー(経済)を事実上掌握することとなりました。

 

 MbSを事実上のトップとする専制国家体制がいよいよ本格化するのでしょう。

 

 

 以下、事実上追放されたファリハ氏について少し述べておきます。

 

 ファリハ氏は1979年にサウジアラムコに入社し、以来今回サウジアラムコ会長職を解任されるまでの40年間、サウジアラムコに籍を置き続けてきた人物でした。途中CEOも務めています。

 

 ファリハ氏はサウジアラムコの最重鎮であり、アラムコの内部を隅々まで熟知している人物だったわけです。

 

 ファリハ氏は2016年5月にサウジアラビアのエネルギー産業鉱物資源大臣に就任しました。このとき、以前の「石油省」が「エネルギー産業鉱物資源省」へと名称変更しています。

 

 (今回のサウジ政府改革により、エネルギー産業鉱物資源省は「エネルギー省」と「産業鉱物資源省」に分離しましたから、ファリハ氏は唯一のエネルギー産業鉱物資源大臣ということになります。)

 

 ファリハ氏は大臣就任後からわずか7ヵ月で、OPEC加盟国と非加盟国が協調減産で合意し、その後の原油価格の上昇を下支えすることになりました。

 

 協調減産で各国が合意に至った背景には、OPEC最大の産油国であるサウジアラビアが、それまでのシェア維持から価格安定へと戦略転換したことの影響が大きかったと言われています。

 

 石油投資家目線でみれば、ファリハ氏は低迷していた原油価格を上昇に導いた功労者とみなせます。

 

 ファリハ氏は、MBSが推し進めたいサウジアラムコのIPOに反対の立場だったとされています。
[2019/09/04 Teller Report]Aramco and the silent battle in Saudi Arabia .. Why bin Salman abandoned Khalid al-Falih?

 

 これが事実であれば、アラムコのIPOを成功させ世界からの注目を集めるとともに、IPOで調達した資金を脱石油依存経済構築のために利用し、「ビジョン2030」を成功に導きたいMbSにとって、ファリハ氏は邪魔な存在となります。

 

 昨年10月以降、原油価格が趨勢的な下落を続け、ファリハ氏の功績が色あせてきため、このタイミングでMbSはファリハ氏を解任したのでしょう。

 

 

 ファリハ氏は協調減産の合意を導いた重要人物なのは間違いないですから、彼がポストを解任されたことで、原油市場にとってマイナス要因となる可能性があります。

 

 さらに今回の人事でMbSはアラムコへ介入しやすくなりましたから、アラムコのガバナンスに対する海外投資家の不安が増幅することは間違いありません。

 

 今回の人事の結果、サウジの財政赤字が悪化することはもちろん、アラムコIPOにも影を落とすこととなり、脱石油依存社会の構築計画が水泡と化す可能性があります。

 

 そうなれば、サウジアラビアが財政的に生き残る道はほとんどすべてなくなってしまいます。あるとすれば戦争を利用して原油価格を吊り上げることくらいでしょうか?

 

 今回のMbS主導の人事は、サウジアラビアの未来を占ううえでの大きな転換点であり、大ばくちとなりそうです。

 

 

 サウジアラビアの生き残りをかけたギャンブル、MbSは果たして勝てるのでしょうか?

 

 量的金融引き締めを8月1日に終わらせたFedですが、現在もMBS(住宅ローン担保証券)の保有残高を減らし続けています。

 

画像ソース: WOLF STREET

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