インフレ時代の幕開けへ

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インフレ時代の幕開けへ

2020/02/18

 

 今回は原油市場とインフレに関するお話です。

 

 アボマガでは何回か原油市場のシナリオを考えましたが、「どこかのタイミングで原油価格が急落し、その後中期的に原油価格が大きく値上がりする」という考えでは一貫していました。

 

 今回再び原油市場とインフレについて記事を書くのは、原油価格やインフレ率上昇の前触れを予感させる報道が、2020年に入り急速に出てきたためです。

 

 記事の前半では中期的に原油価格上昇の可能性が高いことを示し、後半では今年に入り新たに出てきた報道から、そう遠くない将来に原油価格やインフレ率の上昇が起こり得ることについてお話しします。

 

[アボマガお試し版 No.110]インフレ時代の幕開けへの記事(一部)です。2020/02/18に配信したものです。

 

 

誰が次期米国大統領になっても中小シェール会社の未来は暗い

 次の大統領選挙でトランプ大統領が再選を果たそうが、民主党候補が勝利しようが、石油・ガス業界に対する反発が強まりESG的に苦境に立たされることは確実です。

 

 民主党候補が大統領となれば、彼らはみな環境問題への取り組みに積極的ですから、温室効果ガス排出削減、再生可能エネルギーの促進、ガソリンを使わない交通機関の推進へと向かうことでしょう。

 

 化石燃料開発のための新しい公有地リースの禁止は確実視されており、水圧破砕の禁止措置などがとられる可能性もあり、特に小規模石油・ガス会社は苦境に立たされることになるでしょう。

 

 ではトランプ大統領が勝利すればどうなるでしょうか。

 

 トランプ大統領は2017年、大統領令により北極海での石油掘削規制を撤廃しましたが、アラスカ州の連邦地裁は2019年3月29日に無効の判断を下しました。その後起きたことは以下の通りです。

 

  • 2019年4月10日、トランプ大統領はエネルギーインフラプロジェクトの建設承認を迅速に進めるため、プロジェクトの承認または却下に関わる州の権限を制限する大統領令に署名
  • 同日、国際パイプラインの建設を承認する権限を国務長官から大統領に移管する大統領令に署名
  • 2019年8月12日、内務長官は1973年に施行された「種の保存法」の緩和を最終決定したと発表。ほぼすべての外縁大陸棚を石油・ガス開発のためのリースに充てることが目的とされる。
  • 2019年8月29日には、トランプ政権はオバマ政権時代に導入されたメタンガス排出規制を緩和すると発表。石油・ガス掘削に使う貯蔵装置などを規制から外す方針で、コスト節約につながるとされる

 

 アラスカ州連邦地裁から無効の判決が下った後、トランプ政権はエネルギー開発および環境保護に関する規制緩和への動きを「強めました」。

 

 いずれも強引なやり方であり、環境保護に関する規制が骨抜き化され環境悪化につながるとの懸念から、環境団体や、環境保護に意欲的な州・地域などが相次いで提訴しました。

 

 これはトランプ政権にとって想定内でしょう。そうでなければ無効判決が下った後、環境団体の怒りをわざわざ煽るような行動をとるはずがありません。

 

 トランプ政権は、環境保護を訴える人々の怒りをわざと煽り、エネルギー開発と環境保護という対立軸での分断を強め、エネルギーと環境をめぐる問題を米国における最大級の関心事にさせようとしているとみられるわけでs。

 

 ・・・

 

 トランプ政権が提案しているメタンガスの排出規制緩和も、独立系の中小の石油・ガス会社が要望したものです。

 

 エクソンモービルやBPなど大手エネルギー会社はすでに環境保護を重視してメタンの漏洩対策を進めており、同排出規制を支持してきました。

 

 トランプ政権のこれまでの行動は、一見中小エネルギー会社を味方しているように見えます。しかし同政権の行動は、中小エネルギー会社が全体的に環境対策に不熱心であるとの印象を強め、結果的にこれら企業が銀行やファンドから資金調達を受けることが難しくなることにつながりかねません。

 

 誰が米国の次期大統領になろうとも、財政基盤の弱い数多くの独立系エネルギー会社が経営的に苦境に立たされ、シェールオイルの生産が一時的に滞り、結果石油需給が逼迫して石油価格が急騰する可能性が高まるのです。

 

今年に入り急速に高まる中東大幅減産リスク

 ここまでの話は中期的にいつか起こり得るのでは?というものです。

 

 今年に入り状況が大きく変わったのは、中東において原油の大幅減産がすでに起こったり、新たな大幅減産リスクが急速に高まっていることです。問題の国はリビアと***です。

 

 

 まずはリビアです。

 

 リビアでは今年1月、シラージュ暫定政権と対立する反政府組織「リビア国民軍」に所属する部隊が、リビアの石油輸出ターミナルと石油パイプラインを押収し、港が封鎖されました。

 

 リビアは昨年日量約110万バレルの原油を生産していましたが、今回の騒動により、リビア国営石油会社によれば現在の原油生産量はわずか日量16.4万バレル程度にとどまるとのことです。つまり今年に入り日量90万バレル超、生産量が減ったことになります。

 

 1月12日に暫定的な停戦合意が発効されたにも拘わらず、両サイドの対立が続いており、封鎖は数ヶ月続く可能性があるとも言われます。

 

 

 もう一国は***です。...(省略。アボマガ・エッセンシャルご登録者限定)

 

中国からのインフレ輸出リスク

 中国国家統計局の発表によると、今年1月の中国の消費者物価指数(CPI)が前年同月比5.4%上昇しました。この数字は2011年以来の大きさです。

 

 昨秋からのアフリカ豚コレラの拡大に伴う豚肉価格の高騰に加え、春節(旧正月)休暇を前に食材などを買い込む人が増えたことと新型肺炎の拡大で物流が鈍ったことが原因とみられます。

 

 アフリカ豚コレラの中国での拡大ペースは鈍化しているとはいえ、現在も拡大は続いており今年食用豚の現地生産は減少し、輸入が増える見込みです。豚肉価格の上昇が今後も続くのか、鎮静化するのか不明です。

 

 新型コロナウイルスに関して、いつ感染拡大ペースが峠を越えるのが不明な状況下で、モノの買い溜め、企業の閉鎖に伴う生産不足、輸送ストップによるモノの供給制限が続けば、物価にはまだまだ上昇圧力が掛かります。

 

 

 インフレ懸念は中国だけの話ではありません。先進国にも波及するおそれがあります。

 

 先進国中央銀行は量的金融緩和政策により通貨供給量を増やしてきました。Fedの事実上の「QE4」とECBの量的金融緩和再開により、先進国中銀による通貨供給量の増加ペースは今年の終わりにかけて伸びていく見通しです。

 

画像ソース: JPモルガン

 

 米国、日本、EUの生産者物価指数をみると、現在まで停滞が続いており、物価上昇の気配はみられません。

 

画像ソース: FRED

 

 米国、日本、EUの消費者物価指数をみると、米国とEUでは緩やかな上昇が続いてきましたが、伸びは決して強くなく変化もみられません。日本ではほとんど変化がありません。

 

画像ソース: FRED

 

 2番目の条件である物価の上昇は、先進国ではあまり進展がみられません。しかし中国のサプライチェーンの停滞で先進国へのモノの供給が滞れば、近々物価上昇が起こっても不思議ではありません。

 

 また現在は昔と異なり、インターネットやSNSの普及でインフレ期待が世界へ伝搬しやすい世界となっています。

 

 さらなる感染拡大、物価上昇への不安がSNSを通じて中国全土に広がり、世界へと波及することで、中国はもちろん、先進国でも物価の上昇が起こり始めてからそう時間が経たないうちにインフレ期待の上昇や為替安が進み、インフレ本格化が始まることも考えられます。

 

 インフレ期待の上昇について心配なのは他にもあります。前回のFOMCで、パウエル議長は「インフレ率が目標を下回り続けていることにFOMCが満足していない」「2%へのコミットメントが上限ではないことを強調したかった」という発言をしています。

 

 中国から世界へのインフレ期待の輸出と、Fed・ECBがインフレ率上昇への意欲を強める姿勢とが交錯しているのが現状です。

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