シリア情勢の回復進展の陰で動きの慌しいサウジ・イスラエル
2017/06/24
最近のシリア情勢に関するメモです。
私は特別中東情勢について詳しいわけではないので本当は積極的に扱いたくはないのですが、それでも地政学リスクや今後の世界の動乱を考える上でどうしても避けては通れないので、また気になったことを書きます。
【注意】長いです。
漸進的ながら安定化へと着実に進んでいるシリア
最近の世界情勢は、カタールの国交断絶問題は早期で回復する見込みがないどころかますますエスカレートして全面戦争リスクが高まったり、ロシアと米国との関係がここ最近急速に悪化するなど大きく揺れ動いています。
しかしこれらの不安材料の陰でほぼ確実に言えることは、親アサド派の軍人たちによる、シリアやイラクでのダーイッシュ(IS)の本格的な退治が着実に進んでおり、シリア回復に向けての新たなフェーズがすでに始まっていることです。
シリア政府軍やロシア、トルコ、イラン、クルド人などが参加する親アサド派の軍や武装集団は、ダーイッシュのシリア側の最大の拠点であるラッカ奪還に向けての作戦を昨年から行っていましたが、今月6日にクルド人部隊などからなるシリア民主軍はラッカ解放作戦を開始し、ラッカ奪還に向けての最終戦が本格的に始まりました。
シリア政府軍の部隊もラッカ解放のためのダーイッシュ駆逐活動に参加し、ダーイッシュのメンバーは次々とラッカから敗走、ラッカ解放作戦から5日後には早くもラッカのダーイッシュはシリア民主軍にラッカを引き渡すと提案しており、ダーイッシュは降伏ぎみです。
さらに今月16日、ロシア国防省は5月28日にロシア軍がラッカ上空での空爆により、ダーイッシュのリーダーであるバグダティを空爆によって殺害した可能性があることを発表しました。
【2017/06/16 RT】ISIS leader al-Baghdadi reportedly killed in Russia-led airstrike ? MoD
その後のロシア外務省の発表によると、様々なチャネルを通じて検証した結果、極めて高い確率でバグダディは死亡したとのことです。
【2017/06/22 RT】ISIS leader al-Baghdadi ‘highly likely’ eliminated ? Russian Foreign Ministry
ラッカでのダーイッシュ残党との戦闘は現在も続いていますが、ラッカの解放作戦は確実に進んでいるようです。
イラク側のダーイッシュの拠点であるモスルでもイラク軍による奪還作戦が進んでおり、追い込まれたダーイッシュ側が自身の国家の象徴であったモスルを自ら破壊するという、自滅的な行動が話題となりましたね。こちらもダーイッシュの完全敗北は時間の問題のようです。
ラッカやモスルから逃げたダーイッシュのメンバー(指導者たちも含む)は現在、ラッカ南東部にあるデリゾールに敗走し、そこをダーイッシュの新たな拠点とするもくろみを考えているようです。
しかしデリゾールでもシリアやロシア軍戦闘機がダーイッシュ退治のための空爆を行っており、さらにはイランがダーイッシュによるテヘランでのテロ行為の報復として、デリゾールにミサイルをぶっ放していますから、シリア、ロシア、イラン等の親アサドの国々が本気でダーイッシュを殲滅させようとする、極めて強い意思を感じます。
主にシリアでのダーイッシュの殲滅活動が確実に進展する中、シリアでは国内秩序の回復に向けて新たな段階に入っています。
ロシア、トルコ、イランは5月4日にカザフスタンの首都アスタナで、シリア国内に「安全地帯」(de-escalation zones)を設置に関する覚書に調印しました。
これはシリア不安定化の反乱分子である反体制派が滞在しているシリア西側の地域の安定化を目指したもので、シリア西側の地域に4つの安全地帯を設け、そこではシリアではなくロシア、トルコ、イランといった親アサドの国々が主導して治安維持にあたり、シリアのさらなる安定化を目指すものです。
画像ソース:Aljazeera
トルコ大統領報道官によれば、トルコ国境に近いイドリブ県(ゾーン1)はトルコとロシアが、ダマスカス近郊(ゾーン3)はロシアとイランが、イスラエル・ヨルダン国境側(ゾーン4)はヨルダンと米国が、それぞれ軍を派遣して安全地帯の監視活動を行っていくとのことです(ゾーン2はよくわからない)。
【2017/06/22 DAILY SABAH DIPLOMACY】Turkey, Russia, Iran working on Syria de-escalation mechanism involving US, Presidential Spokesperson Kahn says
こうした流れから、ロシア、トルコ、イランが主導するシリア国家回復への道は、少しずつですが着実に前進していることがうかがえます。
シリア和平の邪魔をする有志連合
しかしシリアが着実に和平へと向かうことを憎んでいる連中がいます。それが「米主導の有志連合」"US-led coallition"です。つまり米国をはじめとした西側諸国の軍隊からなる連合軍です。
「有志連合」というポジティブな呼称で同じ西側のメディアは彼らを英雄視して煙幕を張っていますが、彼らは現在までシリア反体制派と協力してアサド政権転覆(つまりシリアにおける軍事クーデター)を狙ってきた連中であり、アサド政権転覆によるシリア国家融解を狙う集団という意味で本質的にダーイッシュと何ら変わりありません。
西側メディアによってオブラートに包まれながらも、本質的にはシリアでテロリストと同じような活動をしている米主導の有志連合ですが、ここ最近シリアでの軍事活動を本格化させているようです。それはシリア政府側の軍や武装勢力によるダーイッシュ退治の本格化と軌を一にしています。
国連調査団の発表によると、今年の3月から現在までに、有志連合はラッカ近郊で少なくとも300人の市民を殺害してきたようです。国連調査団の報告する数字が正しいかどうかはわかりませんが、少なくともその他報道をみるかぎり、ここ最近有志連合がラッカの市民を殺害してきたのは事実です。
同じく3月はじめ、米軍が支援するシリア民主軍(米主導の有志連合とは別物)は、ラッカとデリゾールを結ぶ幹線道路の分断に成功し、ラッカを陸の孤島と化してダーイッシュを完全包囲することに成功しています。
【2017/06/06 Aljazeera】SDF forces 'cut key road' out of ISIL-held Raqqa
そして6月以降は先ほど話したようにラッカ等におけるダーイッシュ退治がさらに本格化し、シリア安定化への道がさらに進展していますが、同時期に有志連合はシリア政府軍戦闘機をラッカ近郊で撃墜していますし、ラッカに数百人の特殊部隊を派遣しています。またラッカやモスルのダーイッシュの敗走先であるデリゾールでも有志連合は白リン弾で住民を殺害しています。
こうしたタイミングを見るに、有志連合の軍事行動はダーイッシュを本格的に退治しているアサド政権側の活動に対する妨害工作だと思わざるを得ません。
有志連合によるシリア政府軍戦闘機の撃墜は、当初シリア政府軍はシリア民主軍によって撃ち落されたと考えたのかラッカで両者が一時衝突したようですが、その後の動きを見る限りは両者の対立は表面化しておらず、引き続きダーイッシュ殲滅に向けて協力しているものと思われます。
有志連合はダーイッシュ殲滅に協力するシリア政府軍とシリア民主軍を仲間割れさせようと画策したようですが、失敗に終わったようです。
それどころかロシアが有志連合によるシリア軍戦闘機撃墜に憤り、米国を改めて国際法の規範を無視する国家として糾弾し、19日にはロシア国防省はシリア上空での戦闘機の安全を確保するための米国との覚書の効力の一時停止を発表し、シリア上空での米軍との衝突を回避するために設けられていた通信回線を遮断しました。
また米財務省がウクライナ問題に関してロシアへの制裁強化を発表したことに対する報復として、ロシアは23日に予定していた米国との会談をキャンセルしました。
オバマ政権時代に米国はシリアでの有志連合による破壊活動を行ったり、ウクライナ問題をめぐってロシアに経済制裁を課してロシアやシリアの弱体化を図ってきましたが、その頃にまた戻ったかのような動きが続いています。
その背景には、オバマ政権時代のアジェンダを何としても達成したい、トランプ政権とは別の米国の一部連中の意向があるようです。
実は米国の国家安全保障会議(NSC)のメンバー少なくとも2名が、シリア南部で対イランの軍事活動を開始すべしとの声をあげていたようです。マティス国防大臣はじめ米国の多くの軍人や外交官は、シリア南部での対イラン軍事行動開始には反対していたようですが、最近のシリア情勢を見る限りはNSC側の意向が働いているようです。
【2017/06/16 JUST SECURITY】Exclusive: White House Officials Push For Widening War in Syria Over Pentagon Objections
ここでシリア南部、もっと正確に言えばシリアとイラクの国境付近であるアル・タンフ(アル・ワリードとも呼ばれる)はシリアでの軍事作戦上、有志連合にとってもアサド政権側にとっても極めて重要な地点です。
アル・タンフはシリア-イラクを結ぶ幹線道路の国境にあり、軍事用物資の輸送面で地理的に極めて重要な地点です。さらにはこの幹線道路を通じてイラン-イラク-シリア-レバノンがつながるようになるので、イスラム圏の国々の物理的、さらには精神的なつながりをも生むうえでも、アル・タンフはとても重要なのです。
2015年の5月にダーイッシュはシリア政府軍からアル・タンフの地を奪っています。
またアル・タンフ近郊には米英の特殊部隊の基地があり、反体制派の訓練も行われるなど、有志連合にとっても軍事戦略上極めて重要な地点です。
なのですが実は最近、有志連合にとって戦略上極めて重要なアル・タンフの地でアサド政権側との争いが起こっており、有志連合のアサド政権転覆というアジェンダ遂行に対する強い逆風が吹き荒れています。
バグダディが死亡したとされる5月29日以降、ロシア軍やシリア政府軍によるアル・タンフ奪還作戦が本格化し、イラン製とされるドローンを利用した攻撃まで行われています。そして6月17日にはイラク軍がアル・タンフをダーイッシュから奪還し、シリアとイラクの国境がつながったとのことです。
【JUST SECURITY】Timeline of Escalation in Syria: U.S. vs. Iran, Russia, Syria and “Pro-Regime” Forces post January 20, 2017
【2017/06/17 Stars And Stripes】Iraqi forces capture border crossing to Syria from ISIS
先ほど上で話した、有志連合がシリア政府軍戦闘機を撃墜させた事件(これはその後のロシア側の激怒を生んだ)が起こったのは、イラク軍がシリア-イラク国境をダーイッシュから奪い返したタイミングで起こっています。
20日にはアル・タンフ付近で米軍がイラン製ドローンを撃墜し、ロシアは米国の行動を非難しています。
つまり現在の有志連合の軍事行動の活発化というのは、アサド転覆というアジェンダ遂行がどんどん厳しくなっている中で、転覆を狙うNSCのメンバーといった一部連中の「焦り」の表面化のように見えてきます。
そしてNSCの連中の考えやロシアの激怒を合わせれば、アル・タンフをめぐる攻防がシリア情勢において極めて重要であることは明白でしょう。このシリア-イラク国境をめぐる攻防の帰趨が、今後のシリアの展開を決めるといっても過言ではありません。
欧州と米国の対立が有志連合の足並みを乱れさせる
今後、反アサドの有志連合および彼らが支援する反体制派武装集団のシリアでの活動は、最終的には鎮圧される可能性が高いように思えます。
そう考える一番の理由は、米国と欧州の仲が、主に経済問題を巡って悪化しているからです。
現在米議会ではロシア経済制裁に関する新たな法案の審議が行われています(上院では可決済み)。しかしこの法案はロシアの経済制裁のみならず、ロシアと共同事業を行う他国の企業に対する制裁をも含んでおり、現在建設中のロシア-ドイツ間のガスパイプライン(ノルド・ストリーム2)の建設でロシアと組んでいるドイツ、オーストリア、フランスの企業も制裁対象となってしまいます。
当然、ドイツやオーストリアは米国を激しく非難しています。
以前もドイツ銀行が住宅ローン担保証券の不正販売をめぐる米司法省による調査が行われ、和解金8500億円を支払うハメになったり、フォルクスワーゲンの排ガス不正問題で米政府当局に5000億円以上の和解金を支払うハメになったり、経済問題をめぐってドイツは米国にいいようにやられており、米国に対する不信感は強かったはずです。
(さらに米司法省はフォルクスワーゲン元幹部5名を国際指名手配したそうですよ)
そんな状況で米国はドイツ等の欧州企業に制裁を加えられる法案を審議しているのですから、欧州は米国依存からそろそろ脱却したいはずです。
最近のフランスの大統領選や総選挙を見ても、トランプの保護主義とは間逆のグローバリズム経済政策を掲げるマクロン氏と彼の所属する政党が勝利を収めていますし、政治的にも米国と欧州は縁を切りやすい環境下にあります。
先日もドイツ諜報機関が長年にわたってホワイトハウスをはじめとした米政府機関を盗聴していたとの暴露記事が出ましたし、こうした面も含めて欧州の米国への不信感は高まるばかりだと思います。
ドイツも欧州軍創設に向けて動いていますし、そうなればもはやNATOや有志連合に参加して軍事面でも米国に従う必要性は薄れてきます。
そうなればシリアでの有志連合や反体制派の活動も内部崩壊の形でいずれ瓦解していくのは目に見えています。
シリアの動きから見えてくる、サウジとイスラエルの孤立化
そういうわけで現時点でシリア情勢はなんだかんだで安定への道を進んでいるように見えますが、シリア情勢を見てどういった未来が考えられるでしょうか。
もちろん未来がどうなるのかはわかりませんが、現在の流れを見る限り、どうもサウジとイスラエルの孤立化というのが見えてくるんですよね。
まずサウジはテロリスト支援国家であることは確定しており、このまま少しずつでもシリア安定化の道が着実に進展していけば、テロリスト支援の形で間接的にでもシリア国家崩壊を支援してきたサウジが何かしらの代償を支払わされるのは間違いありません。
ウィキリークス等による情報公開の流れの中でサウジが溶けていくのは時間の問題だと思います。
最近でもカタール断交措置でサウジは一向に断交を強化するばかりですね。サウジはUAE、エジプト、バーレーンと共同でカタールに対する13箇条の要求を突きつけましたね。
カタールはイランとの関係を薄めろとか、トルコ軍基地を直ちに閉鎖しろとか、アルジャジーラの報道網を全部閉鎖しろとか、むちゃくちゃなことを要求してますね。戦争寸前ではないか。
そもそもサウジはイエメンでの軍事介入で多数の民間人を殺害しているとして、国際社会から人権侵害国家だと見られていました。
そのなかで今回の無茶苦茶な対カタール13か条の要求ですから、サウジおよびそれに追随するアラブ諸国の孤立化は避けられそうにありません。
もう一つはイスラエル。最近、イスラエルは遅くとも2013年はじめから国境付近でシリアの反体制派にカネを渡していたことがリークされました。渡したカネは反体制派の武器・弾薬の購入や、傭兵たちの給与に充てられていたそうです。
また反体制派のほとんどの軍人は、イスラエルからのカネを非常に欲しがっていたようですので、イスラエルはシリアのアサド政権転覆を積極的に支援したようです。
【2017/06/19 Zero Hedge】Israel Has Been Secretly Funding Syrian Rebels For Years
前々からイスラエルはシリアとの国境付近でシリア市民や軍人に医療サービスを提供していたことは知られていましたが、今回のリークにより二枚舌的手法を用いて実はシリア転覆をもくろんでいたのでは?と疑わざるを得ない重要な事実がバレてしまったことになります。
これは別に驚くことではありません。イスラエルの歴史をちょっとでも知っていれば「やっぱりそうか」と思うものです。
一つはイスラエルにとってシリアは、パレスチナ問題をめぐる最大の敵国でした。よってパレスチナにおけるユダヤ人国家の正当性を強引にでも高めるためにも、邪魔者シリアを消し去りたいのは当然の考えです。
そしてもっと重要なのは、少なくとも1982年の段階で、イスラエル国家拡大を支持するシオニストたちは大イスラエル帝国建設計画を立てており、シリア全域やイラクのユーフラテス川南側にまで領土を広げようとしていたことです。
シリア全域をイスラエルの領土にしようと計画していたわけであり、シリアとイスラエルは敵国同士だったわけですから、当然アサド政権転覆は大イスラエル帝国建国のための必要条件となります。
画像ソース:GlobalResearch
よってもしシリアが安定化に向かい、イスラエルがいままでの態度を改めない場合には、イスラエルも大きな代償を受けることになるでしょう。
特に現在イランがシリアでの存在感をますます強めており、ロシアとイランがシリアで強力なタッグを組んでしまえば、さすがにイスラエルにとっても厳しいものがあるのではないでしょうか。
先ほど話した安全地帯のうち、イスラエル国境側のゾーン4はイスラエルと外交関係の深いヨルダン・米国の軍による管轄になるようですから、イスラエルはまだシリアを巡って外交的に問題を鎮めるチャンスは残されているでしょう。
しかしゾーン4の背後のゾーン3にはロシアとイランが控えることになりそうですから、イスラエルが宥和的な態度を取らないようであれば、イスラエルはロシアとイランと武力衝突せざるを得ない状況に追い込まれるリスクがあります。
ゾーン3やゾーン4付近での動きは対イスラエル戦争に直結する可能性があるので、注意してみておくと良さそうです。
さらにイスラエルにとってシリア以上に厄介なのは、シリア安定化のイニシアチブをロシアが執っており、ロシアが国際情勢における確かな影響力を着実に強めていることです。これはイスラエルにとって長期的な問題となりえます。
イスラエルは欧州や中東、北アフリカのユダヤ人移民が集まって出来た国なのですが、イスラエルの建国以来イスラエルに移住したユダヤ人の約40%は旧ソ連圏から来ています。
イスラエル国家が今後も存続するためには、他国から移り住んだユダヤ人やその子供・孫たちの大量国外流出を阻止することが絶対条件です。しかし今後のロシアの世界的影響力のさらなる拡大は、イスラエルからの大量国外流出リスクを高めると思われます。
イスラエル建国以前から現在に至るまでは、欧州で台頭した反ユダヤ主義やそれに伴うユダヤ人の大量虐殺、ソ連圏の共産主義化、ソ連の崩壊とそれに伴うロシアや東欧の大混乱によって、旧ソ連圏からのユダヤ人移民は祖国に帰りたくても帰れず、イスラエルに住み続けるしか手段はありませんでした。
イスラエルに移り住んだユダヤ人移民は必ずしもイスラエルに望んで移り住んだわけではなく、それしか方法がなかったから渋々イスラエルに移り住んだユダヤ人はとても多いです。
例えばソ連圏が崩壊に向かっていた1987-89年にはソ連からのユダヤ人移民は11万人超いましたが、その85%以上はイスラエル以外の国(米国中心)に向かいました。
※こちらの書籍内の数字を参照しました。→イスラエル全史 下
しかし1989年10月1日から米国がユダヤ人移民入国を厳しく制限する政策を開始したことで、ソ連から米国への入国がほとんどできなくなりました。
その後1ヶ月ちょっとでベルリンの壁は崩壊しソ連圏は完全崩壊、90年以降はソ連圏からユダヤ人移民が大量に生まれましたが、米国の政策によりイスラエルに向かわざるを得なかったのです。
このように19世紀後半から20世紀の終わりに掛けては、イスラエルに移り住まざるを得ない厳しい国際情勢が延々と続いたため、ユダヤ人たちは願望に沿わなくてもイスラエルに行かざるを得なかったのです。
しかしロシアがプーチンのもとで何とか持ち直してきており、中東での国際的な影響力も確実となることで、今後ユダヤ人にとってかつての祖国であるロシアが再び魅力的な国になる可能性があります。
パレスチナ問題で延々とアラブ人と武力抗争を続けているイスラエルよりも、ロシアという、国内を何とか安定させて圧倒的な支持率を維持し続けながら、外交や経済面で国際的な関係を確実に強めている国のほうが良いと思うユダヤ人は、結構いるんじゃないでしょうか(想像です)。
そうなればイスラエルからロシアや近隣の東欧各国にユダヤ人が逆流する可能性も考えなければなりません。
ロシアや東欧では経済が弱い中ですでに少子高齢化が進んでおり、特に東欧では有能な若者が職や高い待遇を求めて西欧に流出しており、極めて深刻な国家衰退の流れにあります。
そう考えれば、ロシアや東欧の国々は本音ではIT産業で栄えるイスラエルから有能なユダヤ人を大量に受け入れて、国家の経済発展のために尽力してほしいと考えているはず。
こうした観点を総合すれば、今後ロシアがシリアを平定していき、中東での絶対的な影響力を拡大させていきながら、中国や中東、欧州と経済協力しながら発展していくことは、長期的に見てイスラエルの国家存続に関わる話につながりかねないのです。
シリア安定への道という観点からサウジ、イスラエル孤立化への流れと書きましたが、その流れはカタール断交問題で実際に生じています。イスラエルの孤立化はまだ可能性の段階ですが、サウジの孤立化はもはや避けられそうにありません。
重要な報道のみをいくつかピックアップして時系列で追いましょう。
【2017/06/03 The Intercept】HACKED EMAILS SHOW TOP UAE DIPLOMAT COORDINATING WITH PRO-ISRAEL THINK TANK AGAINST IRAN
イスラエルのシンクタンクとUAE駐米大使が、カタール弱体化を図っていたり、トルコのクーデター未遂事件を画策していたなど、湾岸諸国の陰謀に関わっていたことがUAE駐米大使のメールからバレる。
また「イスラエルシンクタンク-UAE駐米大使-トランプの娘婿クシュナー」という人的ネットワークの存在がバレる。
→2日後、サウジ等アラブ4カ国によるカタール国交断絶措置の発表
その後いろいろありながら...
【2017/06/21 Fox News】Kushner meets with Netanyahu, Abbas in pursuit of Mideast peace
クシュナーがイスラエルのネタニヤフ首相と会談
【2017/06/22 FARS NEWS】18 Israeli Fighter Jets Deployed in S. Arabia to Prevent Coup
イスラエルが戦闘機18機等をサウジアラビアに派遣したらしい。イランメディアの報道。
【2017/06/22 TIMES OF ISRAEL】Iranian regime-linked media claims Israeli F16s are in Saudi Arabia
イスラエルメディアの反応。イランメディアによる報道は情報源が不明でありバカげたものであると、サウジアラビアへの戦闘機等の派遣を否定
【2017/06/23 Aljazeera】Arab states issue list of demands to end Qatar crisis
サウジ、UAE、エジプト、バーレーンは対カタール13か条要求を突きつける
少なくともサウジは国際社会から孤立するのはもはや避けられない情勢のように思えます。
イスラエルはまだ表向きでは孤立している印象はサウジほどは強くありませんが、それでも国連との軋轢はすでに表面化していますし、サウジとの結びつきを強めるようであれば孤立化へまっしぐらでしょう。
もっとも、イスラエルは何してくるかわかりませんがね。サウジを切り捨てる可能性もあり得るでしょう。
**********
サウジの孤立化は間違いないとして、イスラエルにもぜひ注目すると良いでしょう。
今年は第一回シオニスト会議から120年、バルフォア宣言および英国軍がオスマン・トルコからエルサレムを奪取してから100年、国連でのパレスチナ分割決議案採択から70年、六日戦争から50年と、イスラエルにとって節目の年。そして来年はイスラエル建国宣言から70年。
動いてくるでしょうね、確実に。
ボーナス:カネで米国を買うしか能がないサウジ
サウジに関する個人的な独り言(没原稿)です。
先日もサルマン国王は突然、若干31歳の息子ムハンマド氏をサウジ皇太子に昇格させるなど、狼狽気味の行動を繰り返しています。
このサルマン皇太子、すごいですね。4月の終わりにトランプ政権に560億ドルの賄賂を渡して米国からの支援を獲得しようとしたそうですよ。
さらに今月はじめ、サウジは米国に対し、サルマン副皇太子(当時)の保護とイエメン紛争の軍事支援を求めて米政府に2000億ドル支払ったそうですね。
こんな感じで、サウジはカネで米国を買うしか生き残る道はないようです。
だからか、トランプがサウジを支持するような発言を繰り返しているのは。そしてサルマン皇太子が昇格後に早速トランプとの電話会談が実現したのも...
しかしティラーソン国務長官はカタール断交をめぐり湾岸諸国に対し外交的解決をするよう促していますし、マティス国防長官はカタールとの軍事協力を維持すると言っていますし、カタール政府は米国からF15戦闘機を120億ドルで購入していますし、米国はあからさまな二枚舌外交やってますね。
米国は湾岸情勢がどのような方向に動こうともボロ儲けできるよう動いていますね。北朝鮮問題での中国での対応でもそうですが、トランプ政権は外交ホントうまいですなぁ。
トランプはサウジからカネを集められるだけ集めて、不要になったら即刻切り捨てるんじゃないですか?
さらにサウジは短期的には原油で食いつないでいくしかありませんが、米国はシェールオイルの増産に向けた動きをずっと続けていますし、米国と対立気味のドイツは、ウィンターシェルというエネルギー開発企業がリビア国営石油会社とリビアでの原油生産に関する契約を結んで、現在絶賛増産中のリビアでさらに日量16万バレルの増産が見込まれるそうではないですか。
米国とドイツが経済的に対立すれば、原油輸出競争も起こる可能性もありますし、そうなったら石油生産が過熱して原油価格も下がるでしょうね。
そうなったらサウジは壊れてしまいますぞ。
金購入サービスのブリオンボールト、米国証券口座を利用した海外投資
2016年にトランプが大統領に当選し、世界は激動の時代に突入しました。
1970年代から米国・サウジ主導で始まった、原油取引を米ドルのみで受け付ける「ペトロダラーシステム」の上で国際経済は動いてきましたが、サウジアラビアの経済的・財政的・外交的ほころびが顕在化し始め、現在の国際経済の基盤中の基盤が足元から崩れ去ろうとしています。
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