フランス革命前後期との比較でわかる、「AIによる人間支配」のシナリオ
2018/08/08
AI革命とフランス革命の前後の期間を比較すると様々な分野で「大転換」が起こりそうだという点で共通している。「大転換」は、必ずしも喜ばしいものだけではない。科学革命、啓蒙時代を経て生まれた「科学万能主義」。これをほんの少し現代流にアレンジすると「AI万能主義」という化け物のような思想が簡単に生まれてしまう。啓蒙時代を生きたヴォルテールの警告を、深刻に受け止めなければならないだろう。
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現在(AI革命前後)とフランス革命前後の類似点
前回、啓蒙主義と智連社会の類似性について話しました。
[2018/08/04]AIネットワーク化と智連社会
AIネットワーク化に向けた智連社会という社会像が、17-18世紀に広まった啓蒙主義を現代版に焼き直したように見えることを説明しました。
しかし類似点はこれだけではありません。
現在の世界は、様々な分野でフランス革命前後と似ているように思います。
キーワードは「大転換」。
簡単な例が経済分野。フランス革命前後にイギリスから産業革命が始まり、工業化が進んで農耕社会から産業社会に大転換しました。
現在はAI革命により、産業革命に続く歴史的な経済革命(第4次産業革命、第5次産業革命)起こりそうな状況です。
産業化で生まれた、いままで人間が従事してきた繰り返しを伴う機械的プロセスが、AIによるビッグデータの分析を通じて自動化されていきます。
産業革命と同じように世界的な職の大転換が起こるとともに、「言われた作業をきっちりこなせる人材」→「AIを活用して創造的な作業を自主的にこなせる人材」へと、必要な人材もシフトしていくのでしょう。
科学分野も転換が進んでいるようです。
17世紀科学革命以降、天文学、物理学、化学、生物学といった各専門分野が発展し、フランス革命後も電子、光子といった素粒子の発見などで同じ分野でも研究対象がますます微細化したり、各分野の分化がますます進んでいきました。
しかし20世紀以降は各専門分野の垣根を越えた科学の統合を目指す動きも出始めており、これまでの専門分野の分化とは真逆の動きが強まっているようです。
通信工学と制御工学を融合し、生理学、機械工学、システム工学を統一的に扱うことを意図して作られたサイバネティックス(人工頭脳学)は一つの例です。
また人間と機械の融合についても研究開発が進んでいます。
例えば「電子タトゥー」。皮膚上に作られた小さな電子回路(バイオウェアラブル)を通じて、心拍数や体温などの生体情報とスマホ等のデバイスが繋がるようになります。
電子タトゥーを通じて生体情報を医師に伝送して治療や治療後の容態管理、病気の予防に活かすという医療分野での応用だけではありません。
各個人固有の生体情報をIDとして活用することで車のロック解除や決済等への応用も考えられているようです。
電子タトゥーは「人間→機械」方向への生体情報の伝送手段として使われるようですが、「スマートダスト」を使って「人間⇔機械」という双方向で情報やりとりし、体内の情報を制御することも考えられているようです。
例えば、神経を伝わる電気信号を読み取り(人間→機械)、電気信号を変更するようなプログラムをスマートダストに送って(機械→人間)、神経疾患を緩和させるといったことが考えられています。
【2017/12/01 ダッソー・システムズ】【スマートダスト】将来大きな影響力を持つイノベーションのサイズが微小である理由とは
また米国防省傘下のDARPAは2015年に、全身マヒの55歳の女性がF35戦闘機の操縦法を習得したという研究結果を発表しました。
この女性の大脳にはチップが埋め込まれ、チップを通じて女性の思考がF35戦闘機の制御機構に伝わり、思考だけでF35戦闘機の操縦が出来たようです。
[参考書籍]ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA
このように「体内埋め込み技術」の進展という形で、人間と機械の融合が進んでいます。
科学分野において「分化→融合」へと大転換しているのが現在といえます。
理想は逸脱するためにある...AIが「神」となる日
最後に、AI革命が進んだときに智連社会の理想どおりに人間中心社会が実現するのか、ちょっと考えてみましょう。
啓蒙時代、フランス革命を経て、ヨーロッパのみならず世界中に民主主義が広まりました。
しかし一方で、科学の進歩や知識・理性の活用の重要性が訴えられた結果、科学万能主義が生まれました。
世界を完全に知ることは可能であり、世界を人間の目的に応じて変えることができ、さらには人生の目的自体が世界についての知識から導き出されるという思想です。
一言で言えば「科学に基づく真が善を生み出す」という考え方です。
科学万能主義の言葉をちょっと変えるだけで「AI万能主義」が生まれます。
- 科学→AI
- 世界→物理空間・サイバー空間が調和した世界
- 知る→技術を使いこなす
- 知識→データ・情報・知識
こうすることで、「AI万能主義」は次のようになります。
物理空間・サイバー空間が調和した世界を完全に技術的に使いこなすことは可能であり、
物理空間・サイバー空間が調和した世界を人間の目的に応じて変えることができ、
さらには人生の目的自体が物理空間・サイバー空間が調和した世界についてのデータ・情報・知識から導き出される...
「AIに基づく真が善を生み出す」
物理空間・サイバー空間が調和した世界についてのデータには何が含まれますか?
我々の個人情報ですよね。
つまり「物理空間・サイバー空間が調和した世界」には「我々の個人情報に基づく世界」が含まれているのです。
「我々の個人情報に基づく世界」とは...
それは「我々自身」ですよね。より正確に言えば「データを通じた、他人目線での我々自身」です。
つまり、AI万能主義とは「AIが我々人間をコントロールする」思想となります。
人間がAIを使いこなすどころか、AIが人間にとっての「神」となるのです。
智連社会の大元のコンセプトである「人間中心の社会像」とは真逆の概念が、啓蒙時代後に生まれた科学万能主義の言葉をちょっと現代流にアレンジするだけで生まれてしまうのです。
穏健派の啓蒙主義者の一人、ヴォルテールは次のような見方をしていました。
- 理性は大きく進歩した。
- しかしそれはごくわずかなエリート、「一握りの賢者たち」、
現実の物事を理解することに熱心な少数者だけに限ったことである。 - たいていの人間は愚かなままだ。
- 何故なら、たいていの人間は自分自身で考えることよりも、
何らかの権威を持つ者に指示されるほうを好むためだ。 - こうした人間は人類の9割を占めている。
- こうした人間は啓蒙されるに値しない連中である。
[参考書籍]精神の革命――急進的啓蒙と近代民主主義の知的起源
ヴォルテールの見方が正しく、人類も当時から大して進化していないのであれば、人類の9割はAIの奴隷と化すことになります。
もしAIの奴隷になりたくなければ、「自分自身で考えろ」ということです。
それが、ウォルテールが現代の我々に与える警告です。
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