世界情勢振り返り。北朝鮮、フランス、トルコ
2017/02/22
今回は最近の世界情勢について思ったことをツラツラ書き連ねる記事です。まとまりはありません。
アジア
最近は北朝鮮問題が連日報道されています。日米首脳会談中の北朝鮮による新型中長距離弾道ミサイル「北極星2型」の発射実験や金正男氏の暗殺事件は記憶に新しいところです。
しかし北朝鮮関連で最もインパクトのあるニュースは、中国政府が北朝鮮からの石炭輸入を今年いっぱい中断すると発表したことです。
北朝鮮にとって中国は貿易の最重要パートナーです。各国が北朝鮮に対し相次ぐ経済制裁を課すなか、中国は北朝鮮との貿易を継続してきました。2014年に北朝鮮はおよそ40億ドル輸出しましたが、その2/3以上は中国向けの輸出なのです。
なかでも石炭の輸出は北朝鮮経済の根幹を成しており、石炭輸出の半分以上は中国向けでした。中国向けの石炭輸出は北朝鮮の全輸出の2割を占めるそうです。その売上が今回の中国の決定によりなくなるわけですから、貿易赤字国の北朝鮮にとっては経済面で死活問題となりかねません。
→【Bloomberg】China Message to Trump With North Korea Coal Ban: Let's Deal
中国では供給過剰を抑制するために半年間石炭の生産に制限を課す動きがありましたが、その一端が北朝鮮への経済制裁という形で実現しそうです。
北朝鮮による新型中長距離弾道ミサイルが日本海沿岸ではなく北朝鮮の西側(中国寄り)の平安北道亀城市付近から発射された事実、親中の金正男氏が暗殺された事実、そして今回の中国による北朝鮮への経済制裁措置の発表。
朝鮮戦争から現在まで中国と北朝鮮は関係を維持してきましたが、今回の一連の出来事(特に中国による北朝鮮への経済制裁)は中国と北朝鮮との関係を決定的に悪化させかねません。第二次世界大戦後の東アジアの秩序が根本から変わる出来事に発展していく可能性はもはや無視できないでしょう。
歴史的に、朝鮮半島有事はやがて何らかの形で日本にも波及していくものです。今後日本でおかしなニュースが流れるかもしれませんが、焦らず腰を据えて動向を見守ることが大切です(早速流れていますが...)。
欧州
フランスでは最近、ル・ペン氏の支持率が上昇すると同時にフランス国債利回りが上昇するという現象が生じています。つまりル・ペン氏の大統領就任を市場は危惧しているのです。
画像ソース:Zero Hedge
欧米メディアによって次期大統領の筆頭だと言われていたフィヨン氏がカネにまつわるスキャンダルで支持率を急落させ、変わって支持率トップに躍り出たマクロン氏がすぐさま同性愛者との不倫疑惑に関するスキャンダルで支持率を落とす中、ル・ペン氏は着実に支持率を伸ばしてきました。
あるフランスメディアの世論調査では第一回投票ではル・ペン氏が支持率トップとなっています。決選投票では現状ル・ペン氏が負けるとの予測ですが、結果がどうなるかはわかりません(トランプ氏が世論調査ではヒラリーに負けていたのに大統領選で勝利したように)。
→【ハフィントンポスト】フランス大統領選、スキャンダル続出で混迷 極右ルペン氏勝利の可能性は?
→【BFMTV】Présidentielle: Marine Le Pen conforte son avance, Fillon repasse devant Macron
ル・ペン氏の台頭を市場が不安視する一番の理由は、おそらくル・ペン氏の掲げる金融政策です。ル・ペン氏側は単にEUを離脱するだけではなく、通貨をユーロからフランに戻し、現在欧州中央銀行(ECB)に握られている通貨発行権をフランス政府に掌握させるつもりだと話しているのです。
→【Bloomberg】This Is Marine Le Pen’s Plan to Break Up the Euro
通貨発行権は最高権限の一つで、一度手にしたら命を懸けてでも絶対に手放さないでしょうから、通貨発行権をフランス政府に取り戻そうとすればどんな政治リスクが出てくるかわかりません。
またユーロからフランに戻すとフランスの現在のユーロ建て債務の一部が「外貨建て」の債務となり、フランスの経済状況を考えるとフランの大幅減価もあり得るので、フランスの財政に大きな悪影響を及ぼす可能性もあります。
他にも通貨の変更によって欧州の金融システムを移行する技術的な問題もありますし、法律に基づいた債権債務の清算も必要です。暫定通貨の利用などもあり得るかもしれません。
通貨移行に伴い解決しなければならない問題が金融システムに長い混乱をもたらし、欧州全体で十分な銀行サービスを数ヶ月~1年以上受けられなくなる可能性も十分考えられます(もちろん預金の引き出しも自由に行えなくなるでしょう)。統合通貨を自国通貨に戻すというのは、それほど大変なことなのです。
→【参考】How to Abandon the Common Currency in Exchange for a New National Currency
EUの欧州委員会は1月23日に現金決済の制限に関する提案を公式に出しており、欧州は今後ユーロに関し現金廃止、より広く匿名での決済利用に関する制限への動きを間違いなく進めていきます。ユーロから離脱する動きが加速したら、それに伴う金融システムの混乱に乗じて既存金融勢力による報復措置として壮大な現金引き出し禁止令にまで発展するかもしれません。
この調子だとユーロから自国通貨への移行に伴う混乱は筆舌に尽くしがたいものになるかもしれません。
もう一つトルコについてちょっとだけ書いておきます。
4月16日にはトルコで、議会制から大統領制への移行に関する憲法改正の国民投票が実施されます。事実上のエルドアン大統領による独裁の賛否を問う選挙です。結果はどうなるのか不透明です。
→【BBC】Why is Turkey holding a referendum?
下図は2015年6月のトルコ総選挙での有権者の投票先です。同年11月にも総選挙が行われましたが、6月の選挙はトルコの大統領制への移行の是非が最大の争点でしたので、6月の結果の方がこれからの国民投票の分析には有用だと思われます。
画像ソース:Wikipedia
賛成票はAKPの支持者を中心に得ることになるでしょう。一方反対票はCHPとHDPの支持者を中心に得ることになるでしょう。
流動的なのはMHPの有権者の動向です。MHPは大統領制移行に対する賛成派と反対派で内部分裂しているようで、動向が注目されます。
エルドアン大統領が大統領就任前まで所属していた第一党のAKPの有権者も全員が大統領制移行に賛成しているわけではないようですから、正直結果がどうなるかはわかりません。
現在トルコでは昨年7月のクーデター以来非常事態宣言が継続中で、非常事態宣言のなかで国民投票は行われます。警察国家化している重々しい雰囲気のなかで一体トルコ有権者がどのような判断を下すのかは注目されます。
またトルコは現在シリアに軍を派遣しており、ISの最大拠点であるシリアのラッカ奪還に向けてラッカの北西部で活動していますが、シリア政府軍やクルド人民防衛隊(YPG)などに阻まれてラッカへの進出が妨げられている状況です。
→【VOA】Turkey Says it Will Attack Syrian Kurdish Forces at Manbij
一方米国が支援する、クルド人武装勢力をメンバーに含むシリア民主軍(SDF)がラッカ南東部の都市デリゾールに入ったようです。エルドアン政権はクルド人を嫌っているので、SDFの動きはトルコにとって都合の悪いニュースです。
→【Reuter】U.S.-backed alliance enters Syria's Deir al-Zor province - Kurdish military source
要は「シリア-クルド-米国」と「トルコ」がラッカを巡って争っている状況にあるようなのです。シリア-クルド-米国はラッカの南東から、トルコはラッカの北西から、それぞれラッカを奪還しようと動いているわけです。報道を見る限りは現在トルコがてこずっており、シリア-クルド-米国がラッカ奪還に関して優勢なように見えます。
鍵を握っているのはロシアでしょう。最近ロシアは"誤って"トルコ軍人を空爆してしまいましたが、実際はどうなんでしょうかね?
関係ないですが、The Economist誌は最近「エルドアンよ、プーチンには気をつけな」的な記事を出しています。関係ないですが。
画像ソース:The Economist(画像クリックで記事へ移動)
トルコもそろそろ本格的に動乱がはじまるかもしれません。政治リスクもそうですが、経済的にもトルコはいつ崩壊してもおかしくないことが一番の理由です。地政学的に欧州・中東情勢にも大きな影響を及ぼしかねませんので、欧州とトルコはワンセットで見ておくと良いかもしれません。
最後に今春には欧州では次のようなイベントが待ち構えています。
- 3月15日、オランダの総選挙実施。反移民を掲げるオランダ自由党が世論調査で第一党をキープ中。
- 3月末:イギリスがリスボン条約第50条を発動させ、正式にEU離脱手続きに着手する見込み(→ソース)
- 4月16日:トルコで国民投票
- 4月23日:フランスで大統領選第一回投票
- 5月7日:フランスで大統領選決選投票
**********
今年の春は米国から欧州、アジアにかけて世界中で春の大嵐が吹き荒れるでしょう。それが今回の記事で言いたかったことです。
既に現在は戦後の時代が終わり新しい時代への過渡期に(現在完了形で)突入していると個人的には思っていますが、今春以降はもっと多くの人が同じような感覚を持つのではないでしょうか。それくらい、世界中で目に見える大きな変化が間近に迫っています。
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