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中東でますます本格化する米国・米ドル離れ

2017/10/09

 

【2017/10/07 産経ニュース】トルコとイランに国境閉鎖正式要請 対クルドでイラク

 

イラク外務省は7日までに、トルコとイランに対し、イラク北部クルド人自治区と接する国境を閉鎖するよう正式に要請したことを明らかにした。イラクのクルド自治政府が独立の是非を問う住民投票を強行したことへの対抗措置。原油取引を含め、自治区との貿易を停止することも求めたとしている。

 

 クルド自治区の分離独立をめぐる動きが中東情勢を揺らすと見られている感があるが、トルコ・イラン・ロシアの経済面でのクルド自治区との関係をみれば、変に紛争を心配する必要はない。それよりも中東情勢における米国・米ドル離れの動きの方がよっぽど鮮明かつ重要だ。ドル離れは日本にも確実に何らかの影響を与えるものだ。こちらに焦点を合わせておいたほうがよいだろう。

 

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クルド自治区との経済関係が強いトルコ・イラン・ロシア(特にロシア)

 9月25日にイラクにあるクルド人自治区で分離独立の是非を問う住民投票が行われ、賛成93%で独立を支持するとの結果が出ました。

 

 イラク政府はもちろん、トルコやイランも住民投票実施やクルドの分離独立に反対の立場を示し続けており、すでに両国は自治区への空路を遮断するなど圧力を強めています。

 

 トルコのエルドアン大統領はいままで、クルド人自治区に対する将来の軍事活動や、原油パイプラインの閉鎖といった経済制裁の導入を主張してきました。

 

 イラクやイランもクルド人自治区に対する軍事行動や経済制裁に表向き賛成していますし、報道を見ている限りでは「今度はクルド人の分離独立をめぐってまた中東が流動化するのか...」と不安を覚えてしまうものです。

 

 しかし、経済面に着目すれば、少なくともトルコやイランにとって、クルド人は重要なパートナーです。

 

 2014年にトルコはクルド人自治政府(KRG)と、50年間の原油輸出契約に署名しました。イスラム国のモスル制圧に伴い、クルド人たちが制圧したキルクーク油田の原油を、パイプラインを通じてトルコ南部のジェイハンに輸出するというものです。

 

 当時、元々イラクが保有していた油田の原油をクルド人自治政府がトルコに勝手に輸出することを意味していたので、当然イラク政府はトルコへの原油輸出に反対の立場でしたが、それを押し切る形でトルコとクルド人自治政府は同契約に署名しました。
【2014/04/06 AA】Turkey, KRG agree 50-year energy deal

 

キルクークの油田とパイプライン

画像ソース:Atlantic Council ※PDFファイル

 

 また4000社を超えるトルコ企業(建設、セメント、鉄鋼業など)がクルド自治区内でビジネス活動を行っています。

 

 クルド自治区内でのトルコ企業の売り上げ総額は年間90億ドル程度と、トルコGDPの1%程度しかありません。しかし2009年にクルド自治区含めたイラクで活動するトルコ企業の数が485社、2013年は1500社、現在はクルド自治区内だけで4000社超にまで拡大してきました。年を追うごとに、トルコとクルド自治区の経済面における関係性が深まっていることは明白です。
【2017/09/30 DEBKA】Iraq has slim hope of Iranian-Turkish backing against Kurds ? even economic warfare

 

 イランにとってもクルド自治区は重要な経済地域です。特にイラン西部の企業とクルド地域東部にあるスレイマニアとの交易が盛んで、イランとクルド自治区との貿易総額は年間40億ドルに達します

 

 このようにトルコやイラン(特にトルコ)にとって、クルド自治区は経済発展のためになくてはならない存在なのです。

 

 トルコもイランも本音ではクルド人自治区と喧嘩はしたくないのです。

 

 さらに重要なのはロシアとクルド自治区との関係です。いまやロシアはシリア内戦を大きく収束させた成果により中東地域で最も影響力を持った国であり、西側メディアのブルームバーグですら「中東の新たなる支配者、プーチン」と大々的に報道したほどです。ロシアの態度が中東情勢の将来を大きく左右すると言えるのです。

 

 ロシアとクルド自治区は、経済面で相当強固な関係を築き始めています。

 

 今年6月初め、ロシア国営エネルギー企業ロスネフチとクルド人自治政府は、複数の石油探索・生産契約に署名しました。ロスネフチはクルド自治区内にある、推定450億バレルの油田および5.66兆立方メートルのガスに20年間アクセス可能となり、購入や生産、開発が行えるようになります。単独のロシア企業が結んだ契約のなかで過去最大のようです。
【2017/06/02 RT】Rosneft gets access to vast oil transportation system in Iraqi Kurdistan
【2017/09/27 Al-Monitor】Russia keeps eye on Kurdish oil contracts, referendum

 

 その後ロスネフチはクルド人自治区の独立投票が行われるちょうど1週間前、クルド人自治政府と、クルド人自治区のガスパイプライン建設に関する合意をしました。ロスネフチは10億ドルを超える額を投じるとのことです。

 

 建設予定のパイプラインはトルコを経由して欧州につながるとのことですので、欧州へのガス供給中継地であるトルコにとって経済面で恩恵を受けることは確実です。2020年にトルコや欧州へのガス供給が始まる予定です。
【2017/09/18 Reuters】Russia's Rosneft clinches gas pipeline deal with Iraq's Kurdistan

 

 このようにロシア国営エネルギー企業がクルド自治区と原油・ガスに関する大型契約を交わし、これからロスネフチはクルド自治区のエネルギーを購入したり、クルド自治区のエネルギー開発を本格化させていくのですから、ロシアがクルド自治区の分離独立を巡る紛争勃発を許すはずはありません。

 

 ガスパイプラインの建設はトルコにとっても経済的なメリットがあるわけですから、トルコにとってもクルド人たちと協調関係を続けるほうが総合的なメリットは大きいでしょう。

 

 以上のことから、クルド自治区のイラクからの分離独立をめぐって、中東地域で紛争に発展する確率は低いでしょう。

 

 イラク政府のメンツを保ったり、イランやイラクにとっての最大の敵国でありクルド自治区の分離独立を支持したイスラエルを外交的に油断させる等の戦略に基づいて、わざとクルド人との亀裂を演出している可能性の方が個人的に高いと思っています。

 

 クルド自治区がイラクから分離独立するかしないのかはわかりませんが、少なくとも中東情勢は全体的に良い方向に向かっていると思います。

 

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サルマン国王の怯えた表情はペトロダラーの終わりを物語る

 それよりも注視すべきは米国・米ドル離れの動きです。クルド人の分離独立に関する報道が中心で見逃しがちですが、現在中東での米国・米ドル離れの動きが間違いなく加速しているように見えます。

 

 その最たるものは、何といってもサウジアラビアのサルマン国王がモスクワでプーチン大統領と会談したことでしょう。

 

 サウジ国王がロシアへ公式訪問するのは、旧ソ連時代を通じて初めてであり、文字通り歴史的外交なのです。

 

 サウジ国王がいままで訪露を避けていたことは、当然ペトロダラーシステムとの関連があるでしょう。

 

 ペトロダラーシステムとはサウジを初めとした原油産出国の原油決済通貨を米ドルしか認めないという仕組みのことです。当時の米国務長官ヘンリー・キッシンジャーの外交により、まずサウジアラビアがペトロダラーシステムを採用、その後サウジの説得もあり同システムはOPEC諸国に広がっていきました。

 

 サウジが原油の売却で得た外貨は米国債の投資や米国製の武器購入等に充てられ、サウジと米国の蜜月関係が形成されていっただけではなく、米ドルの信用の維持に絶対不可欠なものとなりました。

 

 米ドル基軸通貨システムの維持に絶対不可欠な存在、それがサウジアラビアだったのです。そう考えれば、冷戦時代に米国の最大の敵国であったソ連に、サウジ国王が訪問しない(というか米国が訪問させない)のは当然のことです。

 

 こうした背景を知れば、今回のサルマン国王のロシア公式訪問というのが、いかに歴史的な出来事であるかが理解できます。

 

 現在、ペトロダラーシステムによって支えられてきた米ドルの世界的な利用環境は、間違いなく悪化しています。

 

 以前の記事にも書いたように、中国がゴールドに裏付けられた人民元建て原油先物取引を開始する予定であることや、プーチンがBRICS首脳会議で事実上の米ドル離れ支持を述べたこと、暗号通貨の開発が進むなど、ロシア・中国を中心に米ドル離れの動きは間違いなく加速しています。

 

 その流れの中で、今回サルマン国王が初めて訪露してプーチン大統領と会談したのです。

 

 これは国際政治面における「ペトロダラーシステムの終焉」「米ドル離れへの決定打」以外に、何が考えられるのでしょうか。

 

 同時にこれはいままで米ドルの忠犬であったサウジアラビアの敗北を意味します。下の画像をご覧ください。堂々たる風格を見せるプーチンを尻目に、サルマン国王は背中を丸めた杖つき老人といった様子で、半ば怯えた表情が印象的です。この画像がすべてを物語っているといえるでしょう。

 

プーチンとサルマン国王

画像ソース:Sputnik

 

 サウジはロシアの最新鋭の地対空ミサイルS400を含む約30億ドルの兵器提供に合意する見通しです。

 

 一方、サウジとロシアが経済等における協定を結んだ翌日、米国務省はサウジアラビアに地上配備型ミサイル迎撃システムTHAADを総額150億ドルで売却すると発表しました。トランプ大統領による5月のサウジ訪問の際に公表した1100億ドル規模の兵器売却の一部にあたるようですが、米国によるサウジ訪露への仕返しであることは明白です。

 

 これからサウジは米国とロシアに挟まれながら厳しい立場に迫られるでしょう。中東の新支配者・ロシアに接近しないとサウジは中東情勢でますます孤立化するおそれがありますが、かといってロシアに傾倒すれば、米国は今後も兵器売却を通じてサウジからカネを巻き上げて仕返しする可能性があります。

 

 もし米国からカネを巻き上げられれば、サウジは資金調達や米国への反撃のために米国債の売却に踏み切るおそれも出てきますが、それは米ドル離れを加速させます。

 

 

 クルド自治区の分離独立の動きに関しても、イラク中央銀行は今月3日、クルド人自治区の主要銀行へのドルの供給を中止するとともに、同自治区への外貨送金を禁止しました。ドル離れの動きがここにも現れました。

 

 クルド自治区は米ドルを主要通貨として利用しており、流通する米ドルのコントロール権限の多くはイラク中央銀行が握っています。

 

 クルド自治区は好き好んで米ドルを使っているわけではなく、通貨の流動性や安定性の面で低リスクな米ドルを利用しているに過ぎません。

 

 クルド自治区が経済連携しているロシアは当然ルーブルを使っていますが、同じように経済関係のある近隣のトルコやイランは、今後ロシアとの貿易で自国通貨やルーブル決済を増やしていく予定です。

 

 来年半ばごろにモスクワの取引所で、新たにトルコリラの為替取引も開始するとの計画もあるようです。

 

 ロシアはもちろんのこと、クルド自治区と経済関係を結ぶトルコやイランがルーブル決済を増やせば、クルド自治区にとってもルーブル依存度を高めるインセンティブは高まることが予想されます。

 

 今後米ドル離れが進み、米ドルの安定性が徐々に失われていくリスクも考えれば、なおさらです。

 

 イラク中央銀行のクルド自治区への米ドル供給の停止や外貨送金の禁止の真意や関連する詳細情報は明らかになっていませんが、どうも米ドル離れの動きとして捉えるのが重要なのかなと個人的に考えています。

 

 なお、クルド自治区はイラクの通貨ディナールも米ドルほどではなくとも流通しており、自治区内の銀行に行けば米ドルとの固定レートでディナールを購入することが可能です。日常取引ではディナールも利用されているようです。
【2014/08/16 Policy Foundation】Consequences of KRG’s dollarization

 

 

 その他、相変わらずイランと米国の亀裂は深まっており、トルコと米国は互いにビザ発給の停止を発表し、両者の関係性も悪化しています。

 

 (脱線:イランの場合、米国の経済制裁を口実に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が進んでいます。9月にICBMの発射実験に成功しています。射程範囲は2000kmとのことですが、テヘランからイスラエルの距離にほぼ一致します。)

 

 中東情勢はクルド自治区の分離独立問題に注目が集まっているように思いますが、それよりも中東各国の米国・米ドル離れの動きのほうがより重要かつ鮮明なように見えます。鮮明というか、サウジの降伏によりもはやほぼ確定でしょう。

 

 ドル離れの動きは世界経済・金融を揺らし、いずれは日本にも何らかの形で悪い方向に波及することは確実です。ドル離れはほぼ確実に起こるのですから、ゴールドに一部資産を退避させるなど、いまのうちに対策しておいたほうがよいですよ。今度の嵐はなめないほうがいいと思いますよ。

 

私が利用しているゴールド購入サービスのブリオンボールト。世界金融恐慌時に、ゴールド価格は短期で指数関数的に増える傾向があります。今後避けられないドル離れの本格化は、その再来をも予感させます。

 

画像ソース:Zero Hedge

 

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