オバマケア代替法案の成立断念。米国が崩壊する道はもはや避けられなさそう

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オバマケア代替法案の成立断念。米国が崩壊する道はもはや避けられなさそう

2017/03/28

 

【2017/03/25 ハフィントンポスト】オバマケア代替法案、トランプ大統領が採決直前に撤回 公約の目玉で大敗北、何が起きたのか

 

(一部抜粋)
アメリカ下院の共和党首脳は3月24日、ドナルド・トランプ政権が成立を目指していた下医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト」(AHCA)を撤回した。トランプ大統領は、公約の目玉としてきた医療保険制度改革で敗北を喫したことになる。

 

トランプ氏は、ライアン氏から法案通過のための賛成票が足りないのは確実だと説明を受け、撤回に合意したと話した。

 

別名「トランプケア」とも呼ばれた代替法案の可決に失敗し、トランプ大統領とライアン下院議長にとって大きな痛手となった。これにより、7年以上にわたって共和党が掲げた公約の中核だった医療保険制度改革の先行きは不透明となる。

 

「アメリカは当分の間、オバマケアの下でやっていくことになりそうだ」と、ライアン氏も認めた。

 

トランプ氏はかつて、「政治的に言えば、共和党がとれる一番簡単な手段は、手を引いて、そのままシステムを運用させることだ」と繰り返し語っていた。「そうすれば制度は完全に崩壊する」と、トランプ氏は予測している。

 

 

 オバマケア代替法案の撤回による事実上の法案否決は、トランプ政権の手で米国の財政が健全化される道筋が途絶え、経済成長の期待も薄れ、米国の崩壊が加速していくきっかけになるかもしれません。

 

 トランプ政権はオバマケアの代替法案(AHCA)を、発表から3週間も経たないうちに電光石火のごとく下院で可決させようとしましたが、見事に失敗してしまいました。

 

 オバマケア代替法案が取り下げになった一番の理由は、約30名のメンバーからなる共和党下院のFreedom Caucus(フリーダム・コーカス)というグループの多数のメンバーが反対したからです。

 

 Freedom CaucusにはCLUB FOR GROWTHというロビー団体が背後についていますが、CLUB FOR GROWTHは自由市場の原理に沿った医療制度改革を提唱しているなど、明らかに1%が肥える世界を目指すグローバリストからなる団体です。

 

 さらにFreedom Caucusはヘリテージ財団やAmericans for Prosperityというロビー団体からの後押しもあったこともあり、今回のオバマケア代替法案取り下げによるトランプの敗北は、大金持ちの連中が背後で行使するパワーにはトランプでも対抗しきれないことが明白になったことを意味します。

 

 元々トランプ政権は、トランプ大統領が就任間もなく大統領令に次々と署名していったことからわかるように、長期間の交渉はせずに短期決戦に持ち込むスタンスをとってきました。しかし今回の法案取り下げにより、短期決戦戦略はすでに息切れ気味になっています。

 

 今後トランプ政権は減税や国境税の導入といった税制改革法案の作成に向けて動いていく予定ですが、今回のオバマケア代替法案の取り下げにより、トランプ政権下で税制改革が実際に行われる可能性は低くなりました。

 

 まず国境税に関しては上述のFreedom Caucusが反対しており、今回のようにメンバーの大多数が反対すれば、民主党からも賛成票を得られないかぎりは国境税に関する法案は議会で通らなくなります。

 

 国境税導入はポール・ライアン下院議長が中心となって提唱されてきましたが、Freedom Caucusのメンバーはオバマケア代替法案に関する交渉を通じてライアン氏を相当嫌っている様子ですので、現状のままでは通らないでしょう。

 

 国境税導入に関してはウォルマートといった小売業からなる業界団体も一貫して国境税導入に反対しており、より広範な圧力が予想されます。

 

 国境税導入によって10年間で1.18兆ドルの税収増になるという試算があり、財政が厳しい連邦政府にとっては成立させることが非常に重要なのですが、反対圧力があり、しかもオバマケア代替法案の撤回によりトランプの求心力低下も加わることから、導入は現状厳しそうです。

 

 10年間で計1500億ドル程度の支出抑制が期待されたオバマケアの代替が出来なくなり、税収増につながる国境税の導入も厳しいとなれば、財政が非常に苦しく、生産性の趨勢的な減少や少子高齢化によって今後の米国経済の回復が厳しいと予想される中で減税政策を実施することは単なる自殺行為となります。

 

 さらに重要なのは、そもそも税制改革に着手する前に、4月29日以降の暫定予算の成立、および2018会計年度の予算決議案を議会で成立させることができるかどうかです。実はこの部分さえも本当に成立させることができるのかどうか不透明です。

 

 現在は2017会計年度の暫定予算に沿って財政運営されていますが、これは4月28日に失効するのでそれまでに4月29日~9月末までの期間の予算案を成立させる必要があります。予算案が成立しなければ連邦政府はシャットダウンしてしまいますが、民主党はシャットダウンも辞さない構えですので、共和党内で造反者が現れれば2017年の残りの期間の予算案成立でさえ100%確実だとは言えません。

 

 さすがに4月29日以降の予算法案は通ると思いますが、その後に2018会計年度の予算決議案を議会で成立させなければなりません。この部分が現状どうなるのか全く不透明です。

 

 3月16日にトランプ大統領は2018年予算の青写真である予算教書を議会に提出しましたが、国防総省の予算を2016会計年度よりも523億ドル増額する一方で、その他の省庁の予算を同程度減額するという大幅カット内容となっており、共和党議員ですら到底受け入れられるような内容ではありませんでした。

 

米国2018年予算教書の中身

画像ソース:Reuter

 

 予算決議案を策定するのは上下院の予算委員会ですが、トランプの予算教書を尊重すれば予算決議案が議会で成立する可能性は薄れ、反対に議員に配慮する形となればトランプと議員との確執が深まりますし、議員への配慮とはすなわち各省庁への歳出の増加のことですから、米国の財政をさらに悪化させることになります。

 

 すでに国防総省には大盤振る舞いするとの予算教書を出した時点で国防総省の予算を大きく削減するのは難しいでしょうし、トランプ政権はテロや北朝鮮問題への解決には相当な意欲がありますからなおさらです。このため全体的な歳出を増やさずに予算配分を調整するだけの小手先の変更は考えにくいです。

 

 ちなみに予算決議案の成立はその後の税制改革関連法案を通すために必要不可欠となります。というのは予算決議案を通すことで、税制関連法案を上院で60議席ではなく過半数の51議席の賛成があれば可決にすることができる財政調整措置(reconciliation instructions)が利用できるからです。
 →【Zero Hedge】Here Are The Reasons Why Today's Republican Debacle Makes Tax Reform Less Likely

 

 共和党上院議員は52名であり、民主党上院議員は税制関連法案に反対することが予想されますので、トランプが税制改革をするためにはまずは予算決議案を成立させる必要があるのです。

 

 上に書いたように予算に関して「トランプの意向を尊重→法案成立の可能性が薄れる」一方で「法案が成立しやすくなるよう予算教書から内容を大きく修正→トランプと議員との関係が大幅に悪化」というジレンマがあるので、「予算決議案を成立させて、財政調整措置を利用してトランプが目指す税制改革法案を通す」というのは至難の業です。

 

 Freedom Caucusという共和党議員の反トランプグループの存在や、予算関連のジレンマを踏まえると、トランプの税制改革が実際に行われる見通しはかなり薄いと考えざるを得ないのです。

 

 オバマケア代替法案の取り下げの話から税制改革に関する話、税制改革に着手する前に中心的な議題となる予算に関する話について簡単に考えてみました。

 

 オバマケア代替法案も税制改革案も2018年予算教書も、いずれも歳出を抑制したり税収を増やすという側面があったわけですが、オバマケア代替法案の取り下げによってトランプの意向を議会に反映させることが厳しいことが露呈した結果、「歳出抑制・税収増」という財政健全化の道はもはや絶たれたと言えます。

 

 一方米国経済は明らかに以前より弱く、生産性の趨勢的な減少や格差拡大等の問題があり短期的に米経済が良くなる道筋は全く見えませんので、小手先のやり方で税収を長期的に増やすことは無理です。

 

 こうしたことから結局トランプ政権は、従来の政権と同じように国債を発行して財政運営をするか、もしくは意図的に米国を壊すかどちらかとなるでしょう。

 

 3月15日に債務上限の撤廃期限を迎え、現在連邦政府はこれ以上債務を増やすことができない状況にあります。国債を発行して財政運営していくならば、早いうちに債務上限を一時的に撤廃法案を再度議会で成立させる必要があります。でないと米国はいずれデフォルトします。

 

 債務上限を再度撤廃すれば、それはトランプ政権が国債の発行に頼って財政運営をしていく明確な合図と言えるでしょう。しかしそれもやがては米国の崩壊につながります

 

 今後米国では主にテロリスト退治や北朝鮮問題、権力闘争に関する大きな動きが世間を賑わすと思いますが、財政のコントロールは出来ず仕舞いで米国経済は悪化、やがては米国の崩壊につながるというシナリオから脱却することは非常に厳しそうです。

 

**********

 

 最後にもう少しぶっちゃけた話をして終わりましょう。ここがおそらく一番重要です。

 

 そもそもトランプが議会の反発必至で到底通るはずのない予算教書を出したことは、トランプが連邦政府のシャットダウンさえも射程に含めて、米国政府や議会、さらには政府のカネが流れる先の機関にいる連中を狼狽させて吹き飛ばす意図があると見ることも可能です。

 

 予算法案がいつまでも通らなければやがて連邦政府はシャットダウンしてしまいますから。「俺についてこい、嫌ならどうなるか知らねぇぞ」という、究極の二者択一を議員たちに突きつけていると見ることも可能なのです。

 

 こうした見方が妥当である一つの重要な根拠として、3月24日現在でトランプ政権は553ある行政の執行に関わる役職のうち、たった21名の役員しか承認されていない事実があります。なんと役職全体のうち89%が大統領による役員の指名すら行われていないのです。これではトランプはまともに政権運営する気はないといわざるを得ません。

 

3月24日までにトランプ大統領に指名された役員の数

画像ソース:Washington Post

 

 トランプは元々経営者です。米国の深刻な財政状況を見れば、経営者としては真っ先にコストカットを断行しないといけません。省庁の大幅なコストカットを求める予算を考えるのは当然です(軍事関連は早急に解決しないといけないので短期的に予算が増えるのはおそらく仕方ない)。

 

 議員が反発してもいいのです。もし議会が紛糾して予算案が通らなくて米国政治が大混乱に陥っても、本当に困るのは税金で飯を食っている議員や彼らの背後につく人たちですから。

 

 トランプはある意味で試しているのです。彼らが本当に国を愛する人間なのかどうかを。30年以上にわたって国をギャンブル経済に変えてしまい、借金を好き勝手増やすことに部分的にも加担してきた過ちを多少なりとも悔い改める気はないのかと。

 

 もしそういう人間でないのであれば、行き着く先は米国政治のガラガラポンです。

 

 

 いずれにせよ、米国が元通りに回復することはありえないでしょう。

 

 

【追記:2017/03/30】
 いくら議員やロビイストがオバマケアを存続させようと粘っても、オバマケアの衰退~消滅は避けられないようです。

 

 オバマケアに関して、連邦政府は低所得者が安価に健康保険を購入できるよう、保険会社が負担する金銭的なコストに対する補助金を支払ってきましたが、その補助金の支払いが滞る可能性が出てきているのです。これはオバマケアの崩壊を決定付けるでしょう。
 →【AJG】Here's when we'll know the future of Obamacare

 

 オバマケアに参加している大手の保険会社は2016年度にいずれもオバマケア関連ビジネスで損失を出しており、そのうちのヒューマナ社は2018年以降オバマケア関連ビジネスからの撤退を正式に決定しています。その他の保険会社も、例えばエトナ社は2016年に15の州で保険プランを販売していましたが、現在までに多くの州で販売から撤退し現在ではたった4つの州でしか販売していません。

 

 このように保険会社のビジネス面でオバマケア崩壊の兆候はすでに出始めているのです。

 

 もし補助金の支払いがストップしてしまえば、保険会社は保険料の値上げをするか撤退するかのどちらかを迫られます。保険料が値上げされればただでさえ高額な保険料がさらに増えて被保険者をさらに痛めつけることになりますし、保険会社が撤退すれば現在でも販売されている保険プランが減少しているなかで、さらに販売される保険プランが少なくなります。

 

 いずれの選択がなされても、オバマケアの衰退~崩壊につながることは確実です。

 

 (以下、最初の画像は2015-16に掛けてのオバマケア保険料増加率、2番目の画像は2016年に各州ごとに販売されているオバマケア保険プランの数、3番目の画像は2017年に各州ごとに販売されているオバマケア保険プランの数。2番目と3番目の画像は比較しながらご覧になると販売数が大きく減っているのがわかります。)

 

2015-16年のオバマケア保険料増加率

画像ソース:Zero Hedge

 

2016, 7年のオバマケア保険プランの数

画像ソース:Zero Hedge

 

 政府による民間保険会社への補助金ストップという話は、2014年のオバマ政権時代に共和党下院の複数の議員が、補助金の支払いは違憲であるとオバマ政権に対して連邦地裁に提訴したことが起源です。

 

 その後2016年に連邦地裁が共和党議員たちの訴訟内容を支持する判決を下し、オバマ政権が控訴していました。

 

 今年の5月22日までに、トランプ政権は当時のオバマ政権による控訴を取り下げるか否かの決定を下す必要があります。もし取り下げれば補助金の支払いはストップとなりますので、オバマケアの衰退~崩壊への道を突き進むでしょう。

 

 一方で取り下げないのであれば、トランプ政権は補助金廃止を求める共和党議員と敵対することになり、政権と議会との間にさらなる軋轢が生じるだけでなく、オバマケア代替法案の中身の意図と矛盾する行為になってしまうので、ただでさえ不安定な政権運営がますます不安定化します。

 

 (オバマケア代替法案には、低所得で高額の保険料に悩む人々に対する補助金を減らす内容が盛り込まれていました。)

 

 つまり今後2ヶ月以内に「補助金のストップ」または「政権運営の不安定化に伴う米国政治の大混乱」の少なくともいずれか一方の未来が決定されることは確定的なのです。

 

 さらに厄介なことに、補助金の支払いを継続する場合、4月29日以降の暫定予算に補助金の支払いを含めなければならず、これを巡ってオバマケア賛成派、反対派とのあいだの政治的紛糾が相当ヒートアップすることは避けられなさそうです。28日までに予算法案を成立させないと連邦政府はシャットダウンしますので、政治的混迷の窮みに達するかもしれません。

 

 将来が見通せない中で、各保険会社は2018年の保険料率を定めた書類を早急に作成して連邦政府または州政府に提出する必要があります。期限は政府ごとに異なりますが、連邦政府に提出する場合の提出期限は6月21日です。あまり時間はありません。

 

 提出しなければ保険会社は連邦または州政府が提供する健康保険市場で健康保険を販売することができなくなり、事実上のオバマケアからの撤退となります。

 

 選択肢はいくつかあるものの、どの選択がなされたとしてもオバマケアの衰退~崩壊への道に進みそうです。

 

 (その前に連邦政府がシャットダウンするリスクもあり。4月28日までの米国政治の動きは、その後の世界の運命を大きく変え得る期間であることをご記憶ください。)

 

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